がん治療医が今日からできる診断時からの緩和ケアとは(濱卓至,加藤雅志,木澤義之)
対談・座談会
2014.01.20
【鼎談】
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2012年6月に見直された「がん対策推進基本計画」において,「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点事項に位置付けられた。これを受け,日本緩和医療学会はがん治療医が今日からできる「診断時からの緩和ケア」として,「5つのアクション」を提示した(表)。本鼎談では,この5つのアクションをがん治療の現場で実現するために必要な視点,現場での問題点と解決策について議論していただいた(編集協力=日本緩和医療学会)。
表 5つのアクション | |
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濱 緩和ケア普及啓発事業・オレンジバルーンプロジェクトの一環として,2013年10月6日,「がん治療医が今日からできる診断時からの緩和ケア」というシンポジウム(平成25年度厚生労働省委託事業)が行われました。そこでは,具体的に5つのアクションが提示されています。
本日は,緩和ケアの継続教育プログラムPEACEプロジェクト(註)の企画・開発に携わっていらっしゃる木澤先生,国立がん研究センターでがん患者さんや家族の支援に取り組みつつ,がん対策への提言を行っておられる加藤先生に,この5つのアクションについてお話しいただきます。
(1)患者・家族の心情への配慮とコミュニケーション
加藤 今回,「がんと診断された時から」と開始の時期が明確に表現された背景には,緩和ケアは終末期からではなく,がんの告知時から始まることを明示したかったのだと私は考えています。がん告知のされ方で,患者さんのその後の治療に取り組む姿勢や医療者との関係が変わってきます。がん治療医の方々には,がん告知が目の前の患者さんにどのような影響を与えるか,患者さんの心情に配慮していくことが求められています。その上で基本的な緩和ケアがなされるべきだと思います。
木澤 医学部教育では,OSCEで医療面接の実習はしますが,患者さんの心情にまで踏み込めていないのが現実です。PEACEでは受講者に患者体験もしてもらいますが,それが非常に新鮮という印象を受ける方が多いのです。
実際に悪い知らせを伝えることや心理反応としての防衛機制(コーピング)などについては,卒後教育でも取り上げられることはほとんどないですからね。誠実に話すということと,患者さんの心情に配慮することを両立させなければいけないのに,どうしていいかわからない。だから,医師自身もつらい思いをすることがあると思います。
加藤 知っていればできる基本的なことが,知らないためにできていないというケースが多くあります。患者さんによっては,事実を否認したり,怒りを表出したりすることで,心理的な危機的状況のなかで精神状態を維持している方もいます。しかし,否認とか怒りへの対応の基本を知らないがん治療医は多いと思います。
そのような患者さんへの対応には,一定の知識やスキルが必要だと認識し,対処法を学ぶことができればよいのですが,基礎教育以降,そういうことを考える機会がない。医師になると,自分のコミュニケーションについて振り返る機会がほとんどないのが現状だと思います。
濱 私は,外科医の立場で告知をする機会は多々ありました。患者さんから,どこまで具体的に病状を知りたいかを聞いた上でお話をしますが,そういったやり取りについて,トレーニングを受けたことがある外科医は極めて少ないと思います。若い時に先輩医師のやり方を見て,自己流で確立していく医師が多いのではないでしょうか。
加藤 中堅以上の医師になって,患者さんとのコミュニケーションに問題があると気付いても,どのように解決すればよいのかわからない。また,コミュニケーションの仕方を評価されることを,時には人格を評価されるように受けとめる方もいるので,他者が指摘し教育するのも難しいものです。
木澤 だからこそ,最初の刷り込みが重要になります。学生・研修医の時から正しい方法論を身につけておかないと,後で修正するのは非常に難しい。それから,医師が忙し過ぎることも問題です。日常診療以外で時間を取ることが難しいから,漫然と「このままではまずい」と思っていても,研修はおろか,ほかのスタッフからアドバイスを受ける機会すら持てていません。
濱 まずは,時間をつくることですね。
加藤 がんの告知など「悪い知らせ」を伝えなければいけない患者さんに対しては,時間を確保して診察し,告知後の患者さんの心情に配慮すること。必要に応じて看護師などにも同席してもらい,患者さんのフォローをしていくこと。時には,同席した看護師などから自分の告知の仕方などのコミュニケーションについて,フィードバックをもらうことが重要だと思います。
(2)適切な情報提供と意思決定支援
濱 「適切な情報提供」とは,具体的にどのようなことでしょうか。
加藤 意思決定支援を考えるのであれば,患者さんが判断するために必要な情報を提供することが求められます。医学的な情報だけではなく,生活面を含めた情報,例えば,「今後,こういう治療をしていくのであれば,生活上このような影響が出てきます」というような情報の提供が必要です。それは,主治医からだけではなく,ほかのメディカルスタッフからも提供されるべきでしょう。そして,情報提供は一方的でなく,患者さんが必要としている情報が何かを尋ね確認しながら行われるべきです。患者さんが何を大事にしているのか,どういうことを気にしているのかを聞きながら,困っていることに対して必要な情報を提供していくことが求められています。
木澤 最近思うのは,医師・患者間に,いわゆる「馴れ合い」が相当あるということです。日本の医師・患者関係は,欧米よりもずっと深いと思います。患者さ...
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