医学界新聞

対談・座談会

2013.12.09

【座談会】

地域でつながる,多職種でつなげる
高齢者の「食」支援

江頭 文江氏(地域栄養ケアPEACH厚木代表/管理栄養士)
菊谷 武氏(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長)
葛谷 雅文氏(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野教授)=司会
原田 典子氏(原田訪問看護センター代表/訪問看護認定看護師)


 高齢者が住み慣れた地域で,QOLを保って暮らしていくには「食べること」への支援が欠かせません。「食」の充実こそが,明日を生きる力を引き出すとともに,終末期に向かってなだらかな下降線をたどる身体と心を支えるのです。

 しかし,地域における食の支援には,制度や人材育成,職種間連携,そして支援の重要性そのものへの理解など,検討すべき課題が多々あります。そこで今回の座談会では,食の視点を持って,地域で活動する医療職の方々に,支援の充実のために求められること,そして,終末期に食が果たす役割についてお話しいただきました。


葛谷 実は私はもともと,どちらかといえば"過栄養"を中心に研究してきた身です。しかし,老年科医として高齢者医療の現場にいると,過栄養の人より,栄養を思うように取れず,やせてきている人のほうが目に付く。大学病院の院内NSTにかかわり始めたこともあって,高齢者の栄養障害を研究テーマにすえるようになり,さらに所属する講座も「地域在宅医療学・老年科学」と変わって,こと地域における高齢者への「食」支援には,ますます関心を深めているところです。

 そこでまずは,皆さんが地域でどんな方にどんな支援をしているか,というところから教えていただけますか。

江頭 当団体では,管理栄養士3人で約60人の利用者に外来・訪問での栄養サポートを行っています。利用者のほとんどが高齢者で,割合としては7割が食べることに何かしら支障のある方,2割弱が経管栄養法に移行された方ですね。胃ろうを拒否して経鼻胃管で病院から自宅に戻られた方,病院で中心静脈栄養にしたけれどもう一度口から食べたいという方など,個々の事情に合わせ,食べ物の工夫や,食べ方・食べさせ方の指導を行っています。

菊谷 当院は,口腔リハビリテーションにほぼ特化した診療を行う施設として開院し,約1年になります。1400-1500人ほどの利用者の約半数が高齢者で,外来と訪問診療が3対7の割合です。歯科の訪問診療では,病院などの医療機関にも老健施設にも行けますので,そうした施設訪問が9割,残りの1割が在宅訪問です。

葛谷 施設と在宅では,それぞれどのような支援をされているのでしょうか。

菊谷 施設では,施設所属の管理栄養士のコーディネートのもと,機能評価に加え,職員へのリハビリ・環境設定の指導も行います。在宅訪問では,評価とリハビリのほか,当院の管理栄養士も同行して栄養指導を行っています。

 訪問診療により,患者さんが日ごろどんな環境で,どんな食事をしているか把握できますので,そのうえで外来で定期的な嚥下造影検査を行って機能の的確な評価に努めています。

原田 当施設は,利用者約170人の大規模な訪問看護ステーションで,昨年5月からは,20床のショート・ステイ施設も開設しています。

葛谷 170人のうちどのくらいの方に,食の問題があるのでしょう。

原田 約半数が,飲・食に関して何らかの支援が必要な方ですね。支援としては,介護者への調理教育から,いったん胃ろうになっても「口から食べたい」という意欲のある患者さんへの摂食・嚥下訓練までを幅広く実施します。ショート・ステイでも,常食をうまく食べられない状態で来る高齢者が約3分の1を占めますので,専任の栄養士,調理師を配置して,ソフト食の提供や食形態の工夫など,食に関する支援を行っています。

まずは問題に「気付いて」「つなげる」こと

葛谷 皆さんの立場は,在宅での食支援に関してはかなり先進的だと思いますが,地域に,そうした支援の必要性・重要性への理解は浸透していると思われますか?

菊谷 摂食・嚥下ケアや栄養指導など,専門的な介入を行うことで何がどう変わるのか,十分に周知されているとは言い難いですね。

 何らかのきっかけで依頼を受けると「結構効果があるものだ」と理解され,半ば偶発的にサービスがつながり出すこともありますが,「もう少し早く呼んでくれれば,胃ろうにせずに済んだのに,肺炎にもならなかったのに……」と思わせるような,介入のタイミングを逃しているケースには非常に多く遭遇します。

原田 訪問看護への食に関する指示書も,誤嚥性肺炎を繰り返して入院後,退院してようやく出るような状況のため,もっと早くから適切なアプローチができれば,口から食べられる期間も延びるのに,と思うことはしばしばです。また,医師や歯科医師の訪問診療に比べ,特に看護師や,薬剤師・管理栄養士による居宅療養管理指導は,たとえ月1回,500円の負担であっても「何をしてくれるかよくわからない」と,利用者側から受け入れられにくいように感じます。

葛谷 なかなかスムーズにいかない現状があるのですね。

 一方江頭さんは,長年地域で栄養指導をされていますが,食支援への理解を広め,早期介入につなげるという点で,工夫されてきたことはありますか。

江頭 まずは,患者さんと一番距離の近いヘルパー(訪問介護員)やケアマネジャー(介護支援専門員)に,食についての問題意識を持ってもらうことからだと思います。

 利用者の方の,食事にかける時間が長くなった,すごくむせるようになった,といったちょっとした変化や,家族の「おむつのサイズが小さくなってきた」といった何気ない発言から「何となくおかしい」と気付き「このままではいけない」と思える。そういう視点を持ってもらえるよう,研修会などで情報の発信を続けています。

葛谷 観察・評価ができるようにする,ということですね。

江頭 はい。さらに,専門職が介入する意義を理解してもらうためには,事後報告的にでも,訪問したことを医師だけではなく,看護・介護職の方に伝えていくことが重要だと思っています。「栄養士が介入したら,患者さんの状態がこんなに改善した」と知ってもらえれば,別の事例の相談につながったり,介護職仲間にも話が広がっていく。私自身,当初は医師から直接依頼を受けることがほとんどだったのですが,そういう工夫を続けて3年ほど経つと,ケアマネジャーからの依頼が急増しました。

葛谷 訪問指導にまで結びつけば,支援に急を要するケースなのか,このままの食生活で問題ないのか,ということもわかりますし,問題の背景にあるのが食事なのか,摂食・嚥下機能の低下なのか,あるいは認知症が隠れているのか,「

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