医学界新聞

インタビュー

2013.12.02

【interview】

得意になるめまい診療

城倉 健氏(平塚共済病院神経内科部長/脳卒中センター長)に聞く


 めまいは原疾患を特定しにくい上に,診察も行いづらい。こうした症状のなかにも,脳の疾患や損傷が原因の危険なめまいが紛れているため,めまい診療への苦手意識や抵抗感を持つ医師は多いのではないだろうか。では,どうすれば自信を持ってめまいにアプローチできるのか。年間700人以上のめまい患者を診ている城倉健氏が考案した「誰でも簡単にできる」めまい診療のフローチャートを元に,その方法と,めまい診療に臨むに当たってのポイントを聞いた。


わかりにくい上に診察しづらい

――めまい診療を苦手とする若手医師や研修医は多いと聞きますが,なぜなのでしょうか。

城倉 めまいは1つの症状ではなく,とてもたくさんの症状を含んだ概念です。「ふわふわする」「ぐるぐる回る」などのさまざまな訴えを,すべてまとめて「めまい」と言っています。めまいという言葉を簡単に説明すると,「視覚,深部感覚,前庭感覚のミスマッチ」ということになる。この説明だけでもわかりにくいのに,それ以外にも,血圧が下がったり首が凝ったり,あるいは,単に気分が落ち込んでもめまいという訴えになります。そんなわけなので,「めまいがする」と言って受診してきた患者さんの原疾患を,問診のみから特定することは,とても難しいのです。

 また,めまいを訴えている患者さんは,診察することも困難です。めまいがひどいと,大抵の場合,患者さんはちょっと動かされただけで吐いてしまいます。したがって診察に協力してくれないばかりか,下手をすると診察を拒否されてしまう。ただでさえわかりにくい上に,ろくに診察することもできません。だから多くの医師は,めまい患者さんを診察することに苦手意識を持っており,できればめまいは診たくない。そう考えている医師すら大勢います。

――そのようななかにも,見逃してはならない危険なめまいが紛れているのですね。

城倉 ええ,危険なめまいの代表が,脳卒中による中枢性めまいです。脳卒中であった場合には,対応のタイミングが1-2時間遅れるだけで,患者さんには重大な影響が及び,場合によっては命にかかわります。

 一方,末梢性めまいの多くは,たとえ最初は嘔吐してしまうようなひどいめまいであっても,中枢の代償機構により,何もしなくても自然に良くなってしまいます。よくわからないので点滴などをしながら手をこまねいていると,そのうち自然に患者さんが回復してしまう。めまいの多くは末梢性なので,こうした診療を繰り返しているうちに,あたかも自分が正しい診療をしているかのような錯覚を起こしてしまいます。

 でもよく考えると,これでは「きちんと診察して診断をつける」という基本をまったく行っていないことになる。そんな状況で,突然脳卒中による中枢性めまいに遭遇すれば,対応が遅れてしまうことは容易に想像がつきますよね。また,たとえ末梢性めまいであっても,その場ですぐに治療が完結する良性発作性頭位めまい症に気付かないばかりに,結果的にめまいを長引かせてしまうことにもなりかねません。

プライマリ・ケアにおけるめまいの鑑別

――そんな診察しづらいめまいですが,経験の浅い研修医や若手医師のほか,めまいを専門としない医師が診る機会は多いのですね。

城倉 そうですね。急にめまいが起これば,患者さんは遠くにある耳鼻咽喉科や神経内科などの専門科を受診する余裕はないので,一番近くの医療機関に飛び込みで受診することになります。そのため,実際にめまいを診る診療科は,救急部や総合診療科,一般内科,開業医などが圧倒的に多いと言えます。

――プライマリ・ケアの場面で,危険なめまいを見逃さないためにはどうすればいいのでしょうか。

城倉 めまいを必ずしも専門としない医師が,わかりにくい上になんとなく苦手意識のあるめまいをちゃんと診療するのは大変です

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