難病や障害のある子どもたちに,生まれてきた喜びを(細谷亮太,富和清隆)
対談・座談会
2013.11.25
【対談】難病や障害のある子どもたちに,
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現在日本では,小児がんをはじめとする難病の子どもたちが約20万人,重症心身障害や知的障害などの子どもたちが約40万人いるとされる。医療の進歩によって多くの命が救われるようになった一方,病気や障害を抱えながら日々生活する子どもや家族へのサポートは,いまだ十分とはいえない。
こうした子どもや家族への支援の一つとして,「日常から離れた場所で特別な時間を提供する」という取り組みを実践しているのが,小児科医の細谷亮太氏と富和清隆氏だ。本紙では,医療でも福祉でもない新たな活動への思いについて,両氏にお話しいただいた。[収録地:そらぷちキッズキャンプ(北海道滝川市)]
富和 今回初めて訪れましたが,このキャンプ場はとてもすてきな所ですね。空が広くて,大自然に囲まれていて。昨日は野生の鹿も出てきましたし!
細谷 鹿は奈良のほうがたくさん見られるじゃないですか(笑)。
このツリーハウスも立派でしょう?(写真背景)車いすの子どもも利用できるバリアフリーなんですよ。昨年(2012年)の8月にようやく施設が完成したので,これからどんどん活用の幅を広げていきたいと考えているところです。
富和 細谷先生は15年ほど前から,難病の子どもたちのキャンプを主催されていますが,この「そらぷちキッズキャンプ(以下,そらぷち)」はどのような経緯で設立されたのでしょう。
細谷 そらぷちのお手本となっているのが,米国で開催されている“The Hole in the Wall Gang Camp”という,小児がんをはじめとする難病の子どもたちのためのキャンプ場です。最初は私と石本浩市先生(あけぼの小児クリニック院長),月本一郎先生(東邦大名誉教授)がこのキャンプを目標に日本でもやろうと考え,小児がん患者のための「スマートムンストンキャンプ」を始めました。それが1998年のことです。当時はキャンプ地を固定せず,既存の施設を利用しながら継続してきました。
一方で,「病気の子どもの幸せをサポートする公園を作りたい」と考えた公園作りの専門家たちが,2002年に米国のキャンプを視察し,北海道滝川市などと協力しながら,理想とする公園の整備に動き始めました。
医療者と公園を作る人々,この二つの流れが一つになって,「病気とたたかう子どもたちに夢のキャンプを」というスローガンのもと実現したのが,病気の子どもたちのための日本初の常設キャンプ場,「そらぷちキッズキャンプ」です。
自分のやりたいことを「選択する」経験
富和 キャンプではどのようなプログラムが行われるのですか。
細谷 季節や,そのときの子どもの様子に応じて,キャンプのスタッフたちがプログラムを考案してくれています。ユニークなものだと乗馬やアーチェリー,もちろん冬は雪遊びも楽しめますし,雨の日は屋内でゲームをすることもあります。
ただ,一番大切なのは,子どもたちが自分のやりたいことを「選択する」経験だと思っています。小さい頃から病気を抱える子どもたちは,病気やその治療のために自らの行動を選択する機会に恵まれていません。ですから,このキャンプに来ている間だけは自分がやりたい遊びを選ぶことに挑戦してほしいのです。
富和 小児がんの子ども向けのキャンプでは,親は同伴しないことが多いそうですね。それもまた,病気の子どもにとっては非常に新鮮で貴重な体験でしょう。
細谷 ええ。3-4日間離れて過ごすことはおそらくご両親にとっても初めての経験です。数日ぶりに会う子どもが楽しそうに幸せそうに帰ってきたら,それだけで心から喜んでくださるのではないでしょうか。
富和 キャンプという形で,一度に十数人の子どもを集めるというのもユニークですよね。
細谷 元々キャンプを始めたときの思いの一つに,親がいる場では話せないような病気への不安や将来への希望などを,同じ境遇の子どもたちが集えば互いに話せるかもしれない,そんな場を作りたいというのがありました。子どもたちの不安や希望を,医療者も含めたキャンプメンバーが一緒にサポートできればいいなと考えたのです。
子どもたちに少しでも心を開いて話してもらうためには,広い自然の中が一番だというのは,米国のキャンプを見て実感していました。そらぷちの大自然は,そのためにも非常に重要な役割を果たしているのです。
富和 子どもたちの自主性や自発性を促すことを考えて,環境が整えられているのですね。
細谷 最終的には病気を抱える子どもたちをそれぞれ一人の人間として尊重したいし,尊重されるべきだとも思うのです。小児がんが治る病気になったからこそ,これからどう生きるべきかを考えてほしいと子どもたちに期待しています。
「そらぷちキッズキャンプ」のもよう 親元から離れ,自然あふれる環境で3泊4日の共同生活を送る子どもたち。キャンプ中はチームに分かれ,それぞれに医療者が付き添う。施設には医師と看護師が常駐し,万一の事態にも備えている。子ども同士での遊びや語り合う時間を通して,「自分と同じように病気とたたかう仲間がいることを知って,今後の支えにしてほしい」と細谷氏。(写真提供=そらぷちキッズキャンプ) |
どれだけ深く生きたかが大事
細谷 富和先生は,臨床においては長年小児神経の分野で非常に重度の脳障害がある子どもを診てこられて,主宰される「奈良親子レスパイトハウス(以下,親子レスパイト)」でも,そうした病気の子どもたちを対象に活動されていますね。
富和 ええ。小児神経の分野にかかわることになった原体験は,おそらく東大寺の境内で過ごした中高時代にまでさかのぼります。通学途上に東大寺整肢園(現・東大寺福祉療育病院)があって,肢体不自由の子どもや長期入院の子どもがリハビリをしているのを毎日何気なく見ていたのですね。そこの子どもたちに対して何か強い思いがあったわけではなかったのですが,医師になって以来,ふとしたときに思い出すのが,その風景でした。
それから40年以上が過ぎて,重度の障害をもつ子どもへのケアは大きく変わりました。特に,一生を病院や施設で過ごすのではなく家庭での生活や成長も重視するようになったため,その家族を支えるにはどうすればいいかと考えるようになりました。そんなときに出会ったのが,英国の小児ホスピス(ヘレン・ダグラス・ハウス)の創始者であるシスター・フランシス・ドミニカです。
細谷 シスターとの出会いは,私にとっても非常に大きかったですね。
私はシスターが初めて聖路加国際病院にいらした2005年にお会いしたのですが,それまで「子どもホスピス」という言葉は聞いたことが
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