医学界新聞

2013.10.07

Medical Library 書評・新刊案内


ゾリンジャー外科手術アトラス

Robert M. Zollinger, Jr.,E. Christopher Ellison 著
安達 洋祐 訳

《評 者》猪股 雅史(大分大准教授・消化器外科学)

読んでよし! 見てよし!贈ってよし!-「10の特色」を持つ待望の1冊

 医学書院から「すごい本」が出版された。70年余の歴史と伝統ある世界的名著が,卓越した外科医の感性で,日本人向けにわかりやすく,そして実践的に翻訳された。もちろん,『ゾリンジャー外科手術アトラス』のことである。

 原書の『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』は,1937年の初版から絶対的な信頼と実績を誇り,世界中の外科医に読まれている手術書である。私も研修医時代に,先輩に真っ先に薦められ,この書籍とともに外科医の仲間入りをした。初版から70年にわたり改訂を重ね続け,2011年,内容をさらに充実させ第9版が出版された。そしてこのたび,同書が日本の外科医のために,原書の内容を正確に伝えつつ,日本人の感性に沿った表現を用いながら,わかりやすい手術の翻訳書として刊行された。日本の外科医にとってまさしく待望の1冊である。

 訳者は,『消化器外科のエビデンス――気になる30誌から 第2版』(医学書院),『外科の「常識」――素朴な疑問50』(医学書院)など,これまで多くの外科医に愛読されている名著を世に送り続けている外科医の安達洋祐さんである。驚くことに,今回は500ページにもわたるボリュームの世界的名著を,たった一人で翻訳しているのである。この翻訳書には,訳者の足かけ3年にわたる渾身の力と日本の外科医の成長を願う熱い想いを随所に感じることができる。

 さて,今回の『ゾリンジャー外科手術アトラス』で特筆すべきは,第9版として改訂された「原書の特色」と安達さんによる「翻訳の特色」の2つを併せ持っていることである。「原書の特色」としては,(1)右ページの美しい線画と左ページの詳しい解説のバランス,(2)正確で美しい高品質のイラストがすべてカラー表示,(3)時代の進歩に応じて腹腔鏡手術や自動縫合器を使用した手術などが追記され外科全体をさらに網羅,(4)手術方法に加えて適応・術前準備・麻酔・体位・術後管理まで解説,(5)Zollinger-Ellison症候群(1955年)を提唱したR. M. ZollingerおよびE. H. Ellisonの息子同士が著者になったこと,の5つを挙げることができる。

 一方,「翻訳の特色」として,(1)全ページを一人で翻訳しており,翻訳の仕方や語彙の用い方など,細かな部分の統一性に優れている,(2)原文を正確にわかりやすい文章に翻訳し,原書の内容をさらに理解しやすくするため,随所に適切な「訳注」を記載している,(3)手術書の命であるイラストが精緻で,レイアウトは原書より見やすい,(4)「訳者 序」で本書の特徴と使い方を解説している,(5)原書の価格よりかなり安く設定され購入しやすくなっている,の5つを挙げることができる。すなわち,この『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,日本の外科医にとって,原書の改訂と翻訳によって合わせて「10の特色」を持つ優れた手術書だといえよう。

 外科医である安達さんの手術手技は,かつて数多くの手術指導を受けた私は今でも克明に思い出すことができる。「組織の愛護」と「無駄のない手術操作」を何よりも重んじ,出血のない短時間の手術が印象的であった。『ゾリンジャー外科手術アトラス』の原書には,合併症を避ける安全第一の手術手技が満載されており,"gently"と"carefully"の2つの副詞に代表される愛護的な手術手技のコツが紹介されている。世界的名著であるこの手術書は,安達さんの外科手術に対する姿勢とピッタリと一致したため,優れた翻訳書として世に出版できたに違いない。

 『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,研修医や専門医の手術前のイメージトレーニングや術後の手術記録の記載に役立ち,指導医の知識の確認と忘れかけている他領域の手術手技や外科処置のフィードバックの手助けにもなる。医局だけでなく,手術室や外科病棟,自宅にも置いておきたい手術書であり,さらには巣立つ後輩にプレゼントしたくなる書籍でもある。

 「読んでよし! 見てよし! 贈ってよし!」。日本の外科医にとってまさに待望の1冊の登場である。

A4・頁520 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01714-5


薬剤師レジデントマニュアル

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評 者》安原 眞人(日本医療薬学会会頭/東医歯大教授・医学部附属病院薬剤部長)

白衣のポケットに携帯できて頼りがいのある情報源

 初めて病棟のスタッフカンファレンスに参加するとき,薬剤師として何を持参しますか。医薬品集,治療マニュアル,それとも医学辞典でしょうか。専門家として,薬の正確な情報を伝えるには手元に薬の資料を持ちたいでしょうし,医療チームのコミュニケーションには,薬物療法以外の知識も欠かせません。両手にあふれるほどの資料を抱えて,メモも取れないということになりかねません。『薬剤師レジデントマニュアル』は,新人の薬剤師にとって白衣のポケットに携帯できて頼りがいのある情報源と申せましょう。

 本書の中心は,15章からなる各種疾患に関する解説で,呼吸器感染症から心不全,消化性潰瘍,慢性腎臓病,糖尿病,てんかん,うつ病,アトピー性皮膚炎,緑内障,白血病まで51種類の

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