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ゾリンジャー外科手術アトラス

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“Zollinger”の日本語版がついに刊行。消化器を中心に婦人科、甲状腺、血管系その他の手術まで、内視鏡外科を含む標準的な外科手術を網羅。定評ある精緻で美麗なイラストを用い、手技を丁寧に解説する。手術の適応、術前準備、麻酔、体位、術後管理等もポイントをおさえて記載。二世代にわたり磨き上げられた最新の手術手技アトラス。
Robert M. Zollinger, Jr. / E. Christopher Ellison
安達 洋祐
発行 2013年04月判型:A4頁:520
ISBN 978-4-260-01714-5
定価 16,500円 (本体15,000円+税)
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訳者 序


 本書は約70年前,一般の外科医が日常的に行う確立された手技を記載する目的で出版した.第8版では多数の改訂や変更があったが,その後2つの革命的な変化があり,1つは約30年前の自動縫合器の改良と普及,もう1つは1990年前後の腹腔鏡下低侵襲手術の開発であった.器械吻合は手縫い吻合に比べて迅速かつ均質であり,腹腔鏡下胆嚢摘出の成功によって普及した低侵襲手術は術後の疼痛が軽く回復が早い.第9版においては縫合器と腹腔鏡を併用した手術が全盛期を迎えており,10年前に難易度が高いと考えられていた腹腔鏡手術が,今では日常的に行われて外科レジデントのトレーニングに組み込まれている.
 今回の第9版には自動縫合器を使った手術や腹腔鏡手術を加えた.例えば,右側結腸切除・左側結腸切除・脾温存膵体尾部切除・副腎摘出のほかに,肥満減量手術のRoux-en-Y胃バイパスと調節性胃バンディング,鼠径ヘルニア修復の経腹的腹膜前法(TAPP)と完全腹膜外法(TEP),そして腹腔鏡手術の鼠径部解剖図である.また,頻繁に行われる3つの重要な小手術である透析用血管アクセスの動静脈シャント,鎖骨下静脈・内頸静脈アクセスとポート留置,経皮的気管切開も掲載した.すべての本文と図に多数の更新を行い,肛門手術・手感染巣・腱縫合・植皮は大幅に改訂した.
 出版社McGraw-Hill社は,印刷と情報通信の大幅な改革に取り組んでいる.今では印刷と製本の改良によって500ページ以上の本が作れるようになり,改訂するとき新しい手術を追加するのに古い手術を削除しなければいけないという歴史的障壁を克服できた.カラー製版と印刷技術も進歩し,メディカルイラストレーターのMarita BitansとJennifer Smithは新しい図と古い図の両方に着色し,解剖学的に明快な図が生き生きとした現実感のある図になった.前回は本文をコンピューター化したが,今回は図のコンピューター加工やファイル転写に加え,著者とイラストレーターがやりとりした1,000通のメールとビデオにもインターネットを活用した.McGraw-Hill社は電子媒体の新方式を採用しており,本書はAccessSurgeryのオンラインサイトで利用でき,インターネットの端末で個人用にダウンロードできる.
 Cutler医師が共同執筆者を後継に指名したように,父は私を後継に指名したが,今度は私が指名する番であり,E. Christopher Ellison医師が新しい共同執筆者になった.彼もZollinger-Ellison症候群のEllisonの息子であり,オハイオ州立大学(OSU)医療センターの外科主任教授である.本書の共同執筆を承諾し,私の父が40年以上にわたって本書を育てたコロンブスのOSU外科部門に製作拠点を戻すことも承諾した.父の論文や書籍と本書の初期の図はOSU健康科学図書館医学遺産センターに保管されており,これらの資料が目録にまとめられてオンラインで利用できることを歴史的な留意点として追記しておく.
 本書の改訂は医科大学の教員と執筆者の外科スタッフの援助の賜物であり,ハーバード大学のPeter Bent Brigham病院のあとOSUとクリーブランドのCase Western Reserve大学病院に引き継がれ,現在は再びOSUが支援的役割を担っている.貴重な助言・批評・意見・校正をもらった多くの外科医と内科医,とくにMark W. Arnold,P. Mark Bloomston,Jeffery H. Boehmler IV,Ginny L. Bumgardner,Charles H. Cook,Elizabeth A. Davies,William B. Farrar,Jeffery M. Fowler(産婦人科),Gayle M. Gordillo,Gregory E. Guy(放射線科),Alan E. Harzman,Jeffery W. Hazey,Mitchell L. Henry,Eric H. Kraut(血液内科,腫瘍科),W. Scott Melvin,Dean J. Mikami,Susan Moffat-Bruce,Peter Muscarella,Bradley J. Needleman,William L. Smead,Jordana L. Soule,Steven M. Steinberg,Patrick S. Vaccaro,Cecilia S. Wang,David A. Zvara(麻酔科)に感謝する.また,M.Renee Troyerの秘書業務とJerome A. Johnsonのインターネット補助がなければ今回の改訂は不可能であった.最後に,貴重な指導と援助を受けたMcGraw-Hill社のスタッフ,とくに医学編集者Marsha S. GeblerとRobert Pancottiに感謝する.

 Robert M. Zollinger, Jr., MD
 E. Christopher Ellison, MD


訳者 序
 「ゾリンジャー」は世界中の外科医が読んでいる手術書です.左ページが解説,右ページが線画というスタイルは定評があり,正確で美しい高品質のイラストが魅力です.1937年の初版から絶対的な信頼と実績を誇り,2011年に第9版が出版されました.
 第9版を新車に例えると,「長年にわたって愛されてきた風格ある高級車が,優れた性能と美しい外観を保ちながら時代にふさわしいモデルチェンジを行い,昔からのファンの期待にこたえるとともに,新たに若者のハートもつかむだろう」という期待感があります.
第9版の特徴は,器械を使った手術と腹腔鏡手術が豊富に掲載されていること,すべてのイラストがカラーになったこと,そしてZollinger-Ellison症候群(1955年)の息子同士が著者になったことで,今回は70余年の歴史の中で記念すべき改訂と言えます.

 「ゾリンジャー」には,合併症を避ける安全第一の手術手技が記載されています.例えば,「丁寧に(gently)」という言葉は99か所,「注意して(carefully)」という言葉は163か所に使われています.「ゾリンジャー」の源流はアメリカ外科学の元祖ハルステッドですが,ハルステッドが提唱した「丁寧な手術」(gentle surgery)は,(1)組織の丁寧な扱い(gentle handling of tissue),(2)確実な止血(accurate hemostasis),(3)解剖に沿った鋭的剥離(sharp anatomical dissection),(4)出血のないきれいな術野(clean & dry field),(5)集束結紮の回避(avoidance of mass ligation),そして(6)細い縫合糸(fine suture material)です.

 「ゾリンジャー」は日本の外科医にも長く親しまれてきた標準的な手術書です.この本で手術を勉強した外科医は多く,イラストを見ながら手術記録を書いた外科医も多いはずです.重厚感のある原書が手術室や医師室に置いてあるのを見た人も多いでしょう.
 本書は,手術を学び始めた研修医と第一助手や術者を経験するようになったレジデントに最適ですが,外科医が専門医試験を受けるときや指導医が基本を学び直すときにも役立ちます.知人や後輩へのプレゼントになり,勤務した病院に寄贈しても喜ばれるでしょう.

 翻訳にあたっては,「原文を正確に訳し,わかりやすく示す」を心がけ,適宜「訳注」で説明しました.不慣れな領域の専門用語は教科書や手術書で確認しましたが,不適切な記載や誤った表現があるかもしれませんので,お気づきの点は遠慮なくご教示ください.
 最後に,伝統ある世界的名著の翻訳という光栄で貴重な機会を与えてくださった医学書院に心から感謝します.また,私に手術を指導してくださったすべての先輩にお礼を申しあげ,私と一緒に手術したすべての同僚・後輩に本書を捧げたいと思います.

 2013年3月
 安達 洋祐

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第1章 手術手技
第2章 麻酔
第3章 術前準備と術後管理
第4章 外来手術

外科解剖 SURGICAL ANATOMY
PLATE
 1 上腹部臓器の動脈
 2 上腹部臓器の静脈とリンパ管
 3 大腸の解剖
 4 腹部大動脈と下大静脈の解剖

消化器手術 GASTROINTESTINAL PROCEDURES
PLATE
 5 開腹
 6 閉腹
 7 閉腹
 8 閉腹
 9 胃瘻造設
 10 内視鏡的胃瘻造設(PEG)
 11 穿孔閉鎖,横隔膜下膿瘍
 12 胃空腸吻合
 13 胃空腸吻合
 14 幽門形成,胃十二指腸吻合
 15 幽門形成(器械)
 16 迷走神経切離
 17 迷走神経切離(横隔膜下法)
 18 迷走神経切離(横隔膜下法)
 19 胃半切除(Billroth I)
 20 胃半切除(Billroth I)
 21 胃半切除(Billroth I,器械)
 22 胃半切除(Billroth I,器械)
 23 胃切除(亜全摘)
 24 胃切除(亜全摘)
 25 胃切除(亜全摘)
 26 胃切除(亜全摘)
 27 胃切除(亜全摘),大網切除
 28 胃切除(Polya)
 29 胃切除(Hofmeister)
 30 胃半切除(Billroth II,器械)
 31 胃全摘
 32 胃全摘
 33 胃全摘
 34 胃全摘
 35 胃全摘
 36 胃全摘
 37 胃全摘(器械)
 38 胃全摘(器械)
 39 胃空腸吻合(Roux-en-Y)
 40 胃空腸吻合(Roux-en-Y)
 41 噴門形成
 42 噴門形成
 43 噴門形成(腹腔鏡)
 44 噴門形成(腹腔鏡)
 45 Roux-en-Y胃バイパス(腹腔鏡)
 46 調節性胃バンディング(腹腔鏡)
 47 小腸切除
 48 小腸切除(器械)
 49 小腸切除(器械)
 50 腸管吻合(器械)
 51 腸瘻造設
 52 幽門筋切開,腸重積修復
 53 Meckel憩室切除
 54 虫垂切除
 55 虫垂切除
 56 虫垂切除(腹腔鏡)
 57 大腸の外科解剖
 58 回腸ストーマ
 59 横行結腸ストーマ
 60 ストーマ閉鎖
 61 結腸吻合(器械)
 62 右側結腸切除
 63 右側結腸切除
 64 右側結腸切除(腹腔鏡)
 65 左側結腸切除
 66 左側結腸切除
 67 左側結腸切除(腹腔鏡)
 68 左側結腸切除(腹腔鏡)
 69 腹会陰式直腸切除(腹腔操作)
 70 腹会陰式直腸切除(全直腸間膜切除)
 71 腹会陰式直腸切除(全直腸間膜切除)
 72 腹会陰式直腸切除(腹腔操作)
 73 腹会陰式直腸切除(会陰操作)
 74 腹会陰式直腸切除(会陰操作)
 75 結腸全摘,大腸全摘
 76 結腸全摘,大腸全摘
 77 結腸全摘,大腸全摘
 78 結腸全摘,大腸全摘
 79 結腸全摘,大腸全摘
 80 直腸前方切除(端端吻合)
 81 直腸前方切除(器械)
 82 直腸前方切除(器械)
 83 直腸前方切除(Baker)
 84 直腸前方切除(Baker)
 85 直腸前方切除(Baker)
 86 直腸前方切除(Baker)
 87 回腸肛門吻合
 88 回腸肛門吻合
 89 回腸肛門吻合
 90 胆嚢摘出(腹腔鏡)
 91 Hasson法(腹腔鏡)
 92 胆嚢摘出(腹腔鏡)
 93 胆嚢摘出(腹腔鏡)
 94 胆嚢摘出(腹腔鏡)
 95 胆嚢摘出(開腹)
 96 胆嚢摘出(開腹)
 97 胆嚢摘出(開腹)
 98 胆管切開
 99 胆管切開(経十二指腸法)
 100 胆管十二指腸吻合
 101 胆嚢摘出,胆嚢部分切除
 102 胆嚢外瘻,胆管形成
 103 胆管空腸吻合,胆管端端吻合
 104 肝門部腫瘍切除(Klatskin)
 105 肝門部腫瘍切除(Klatskin)
 106 肝門部腫瘍切除(Klatskin)
 107 胆嚢胃吻合,肝生検
 108 肝臓の解剖と切除
 109 肝腫瘍局所切除(非解剖学的切除)
 110 肝右葉切除(区域5-8±1)
 111 肝右葉切除(区域5-8±1)
 112 肝左葉切除(区域2-4±1)
 113 肝左葉切除(区域2-4±1)
 114 拡大肝右葉切除(区域4-8±1)
 115 拡大肝右葉切除(区域4-8±1)
 116 膵嚢胞ドレナージ
 117 膵嚢胞ドレナージ
 118 膵嚢胞ドレナージ
 119 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 120 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 121 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 122 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 123 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 124 膵空腸吻合(Puestow-Gillesby)
 125 膵体尾部切除
 126 膵体尾部切除
 127 膵体尾部切除
 128 膵体尾部切除(脾温存,腹腔鏡)
 129 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 130 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 131 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 132 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 133 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 134 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 135 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 136 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 137 膵頭十二指腸切除(Whipple)
 138 膵全摘
 139 膵全摘
 140 膵全摘

その他の腹部手術 MISCELLANEOUS ABDOMINAL PROCEDURES
PLATE
 141 摘脾
 142 摘脾
 143 摘脾(腹腔鏡)
 144 摘脾(腹腔鏡)
 145 脾温存
 146 両副腎摘出
 147 両副腎摘出
 148 左副腎摘出(腹腔鏡)
 149 右副腎摘出(腹腔鏡)

血管手術 VASCULAR PROCEDURES
PLATE
 150 血管アクセス(動静脈シャント)
 151 静脈アクセス(ポート留置,内頸静脈)
 152 静脈アクセス(中心静脈カテーテル,鎖骨下静脈)
 153 腹部大動脈瘤修復
 154 腹部大動脈瘤修復
 155 腹部大動脈瘤修復
 156 腹部大動脈瘤修復
 157 大動脈大腿動脈バイパス
 158 大動脈大腿動脈バイパス
 159 頸動脈内膜剥離
 160 頸動脈内膜剥離
 161 頸動脈内膜剥離
 162 大腿膝窩動脈バイパス
 163 大腿膝窩動脈バイパス
 164 大腿膝窩動脈バイパス
 165 大腿膝窩動脈バイパス
 166 大腿膝窩動脈バイパス
 167 伏在静脈動脈バイパス
 168 伏在静脈動脈バイパス
 169 伏在静脈の高位結紮と抜去
 170 伏在静脈の高位結紮と抜去,下大静脈遮断
 171 門脈圧亢進症シャント法
 172 門脈下大静脈シャント
 173 門脈下大静脈シャント
 174 門脈下大静脈シャント
 175 脾腎静脈シャント(Warren)
 176 脾腎静脈シャント(Warren)

婦人科手術 GYNECOLOGIC PROCEDURES
PLATE
  婦人科臓器の経腹法
 177 腹式子宮全摘
 178 腹式子宮全摘
 179 卵管切除,卵巣摘出
  婦人科臓器の経腟法
 180 子宮頸部の診断的手技(円錐切除,拡張掻爬)

その他の手術 ADDITIONAL PROCEDURES
PLATE
 181 甲状腺亜全摘
 182 甲状腺亜全摘
 183 甲状腺亜全摘
 184 甲状腺亜全摘
 185 副甲状腺摘出
 186 気管切開
 187 気管切開(経皮拡張法)
 188 気管切開(経皮拡張法)
 189 根治的頸部郭清
 190 根治的頸部郭清
 191 根治的頸部郭清
 192 根治的頸部郭清
 193 Zenker憩室切除
 194 耳下腺切除(浅葉切除)
 195 後側方開胸
 196 後側方開胸
 197 センチネルリンパ節生検(黒色腫)
 198 センチネルリンパ節生検(黒色腫)
 199 乳房の解剖と切開
 200 胸筋温存乳房切除
 201 胸筋温存乳房切除
 202 センチネルリンパ節生検(乳がん)
 203 センチネルリンパ節生検(乳がん)
 204 腹壁ヘルニア修復(腹腔鏡)
 205 腹壁ヘルニア修復(腹腔鏡)
 206 臍ヘルニア修復
 207 外鼠径ヘルニア修復
 208 外鼠径ヘルニア修復
 209 外鼠径ヘルニア修復(Bassini)
 210 外鼠径ヘルニア修復(Bassini)
 211 外鼠径ヘルニア修復(Shouldice)
 212 内鼠径ヘルニア修復(McVay)
 213 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Lichtenstein)
 214 鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Lichtenstein)
 215 外鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Rutkow & Robbins)
 216 内鼠径ヘルニア修復(メッシュ,Rutkow & Robbins)
 217 大腿ヘルニア修復
 218 大腿ヘルニア修復(メッシュ)
 219 腹腔鏡手術のための鼠径部解剖
 220 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,経腹的腹膜前法(TAPP)〕
 221 鼠径ヘルニア修復〔腹腔鏡,完全腹膜外法(TEP)〕
 222 陰嚢水腫修復
 223 直腸脱修復(会陰法)
 224 直腸脱修復(会陰法)
 225 直腸脱修復(会陰法)
 226 痔核のゴム輪結紮と切除
 227 裂肛の治療,肛門周囲・坐骨直腸窩膿瘍ドレナージ
 228 痔瘻の治療
 229 毛巣洞切除
 230 切断の原則
 231 下肢切断(膝上)
 232 下肢切断(膝上)
 233 手感染巣の切開ドレナージ
 234 腱縫合
 235 植皮

索引

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読んでよし! 見てよし! 贈ってよし!-「10の特色」を持つ待望の1冊
書評者: 猪股 雅史 (大分大准教授・消化器外科学)
 医学書院から「すごい本」が出版された。70年余の歴史と伝統ある世界的名著が,卓越した外科医の感性で,日本人向けにわかりやすく,そして実践的に翻訳された。もちろん,『ゾリンジャー外科手術アトラス』のことである。

 原書の『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations』は,1937年の初版から絶対的な信頼と実績を誇り,世界中の外科医に読まれている手術書である。私も研修医時代に,先輩に真っ先に薦められ,この書籍とともに外科医の仲間入りをした。初版から70年にわたり改訂を重ね続け,2011年,内容をさらに充実させ第9版が出版された。そしてこのたび,同書が日本の外科医のために,原書の内容を正確に伝えつつ,日本人の感性に沿った表現を用いながら,わかりやすい手術の翻訳書として刊行された。日本の外科医にとってまさしく待望の1冊である。

 訳者は,『消化器外科のエビデンス-気になる30誌から 第2版』(医学書院),『外科の「常識」-素朴な疑問50』(医学書院)など,これまで多くの外科医に愛読されている名著を世に送り続けている外科医の安達洋祐さんである。驚くことに,今回は500ページにもわたるボリュームの世界的名著を,たった一人で翻訳しているのである。この翻訳書には,訳者の足かけ3年にわたる渾身の力と日本の外科医の成長を願う熱い想いを随所に感じることができる。

 さて,今回の『ゾリンジャー外科手術アトラス』で特筆すべきは,第9版として改訂された「原書の特色」と安達さんによる「翻訳の特色」の2つを併せ持っていることである。「原書の特色」としては,(1)右ページの美しい線画と左ページの詳しい解説のバランス,(2)正確で美しい高品質のイラストがすべてカラー表示,(3)時代の進歩に応じて腹腔鏡手術や自動縫合器を使用した手術などが追記され外科全体をさらに網羅,(4)手術方法に加えて適応・術前準備・麻酔・体位・術後管理まで解説,(5)Zollinger-Ellison症候群(1955年)を提唱したR. M. ZollingerおよびE. H. Ellisonの息子同士が著者になったこと,の5つを挙げることができる。

 一方,「翻訳の特色」として,(1)全ページを一人で翻訳しており,翻訳の仕方や語彙の用い方など,細かな部分の統一性に優れている,(2)原文を正確にわかりやすい文章に翻訳し,原書の内容をさらに理解しやすくするため,随所に適切な「訳注」を記載している,(3)手術書の命であるイラストが精緻で,レイアウトは原書より見やすい,(4)「訳者 序」で本書の特徴と使い方を解説している,(5)原書の価格よりかなり安く設定され購入しやすくなっている,の5つを挙げることができる。すなわち,この『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,日本の外科医にとって,原書の改訂と翻訳によって合わせて「10の特色」を持つ優れた手術書だといえよう。

 外科医である安達さんの手術手技は,かつて数多くの手術指導を受けた私は今でも克明に思い出すことができる。「組織の愛護」と「無駄のない手術操作」を何よりも重んじ,出血のない短時間の手術が印象的であった。『ゾリンジャー外科手術アトラス』の原書には,合併症を避ける安全第一の手術手技が満載されており,“gently”と“carefully”の2つの副詞に代表される愛護的な手術手技のコツが紹介されている。世界的名著であるこの手術書は,安達さんの外科手術に対する姿勢とピッタリと一致したため,優れた翻訳書として世に出版できたに違いない。

 『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,研修医や専門医の手術前のイメージトレーニングや術後の手術記録の記載に役立ち,指導医の知識の確認と忘れかけている他領域の手術手技や外科処置のフィードバックの手助けにもなる。医局だけでなく,手術室や外科病棟,自宅にも置いておきたい手術書であり,さらには巣立つ後輩にプレゼントしたくなる書籍でもある。

 「読んでよし! 見てよし! 贈ってよし!」。日本の外科医にとってまさに待望の1冊の登場である。
手術手順や細部の解剖を学ぶために最適な一冊
書評者: 森 正樹 (大阪大学大学院教授・消化器外科学)
 またまた安達洋祐先生がやってくれました。これまでに『消化器外科のエビデンス—気になる30誌から』(医学書院),『外科の「常識」—素朴な疑問50』(医学書院),『外科研修ハンドブック』(医学と看護社),『エビデンスで知るがんと死亡のリスク』(中外医学社)など,医師(特に外科医)や医療関係者の必読書となる本を出版してきた著者が,今回は外科手術書のバイブルである『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations, 9th ed』の日本語版を刊行しました。

 本書を手にした最初の感想は,「これだけの量の本を,よくもたった一人で翻訳できたものだ」ということでした。今までに多くの医学翻訳書が出版されていますが,これだけの量をただ一人で翻訳したものを見た記憶はありません。多人数での翻訳は,翻訳の仕方,語彙の用い方など,細かなところで統一性に欠けており,読みづらくなることが少なくありませんでした。本書の場合,安達先生の翻訳にかける迫力・執念を随所に感じながらも,楽しく読むことができます。それにしても一人での翻訳作業にはいかほどの時間を費やしたことか……,脱帽!

 『ゾリンジャー外科手術アトラス』の特色は,「右ページの美しい線画と左ページの詳しい解説」です。絵を見ただけで『ゾリンジャー』とわかる独自な線画はファンが多く,豊富なイラストと丁寧な解説を順に追っていくと,手術の場面が手に取るように浮かび,手技や手順が頭に刻み込まれます。私の二番目の感想は,(当然ですが)その特徴が日本語版でもそのままに生かされていることです。すなわち,手術書の命である図が精緻で,線画はすべて色づけされて見やすくなっており,そこから躍動感あふれる美しさを感じることができます。日本語版では原著で不揃いだったイラストの大きさを調整することで,より素晴らしさが伝わるように工夫されています。ちなみにカラーになったのはこの第9版からのようで,この点,幸運と思います。

 三番目の感想はオリジナルの改訂が的確に行われていることです。『ゾリンジャー外科手術アトラス』は1937年に初版が出され,その後70年以上にわたり刊行され続けています。まさに奇跡と言って良いと思います。長く読み続けられているのは,改訂が的確に重ねられているからであり,1993年には第7版,2003年には第8版,そして2011年にはこの第9版が出されました。改訂を重ねる際は,時代の流れを的確に反映することが意図されているようで,今回の第9版ではヘルニア修復・結腸切除・膵切除・脾摘出・減量手術の腹腔鏡手術が収載されています。肛門手術などは大幅に改訂され,動静脈シャントなど,頻繁に行われるいくつかの小手術は新たに掲載されています。

 四番目の感想は,著者名が「Zollinger & Ellison」になっていて驚いたことです。「Zollinger-Ellison症候群」(ガストリン産生膵腫瘍による難治性胃潰瘍)の息子同士なのです! まさに「父から子へ」伝えられた伝統ある本の記念すべき再出発が,今回の第9版です。そのような記念になる第9版が安達先生の手によって日本語に翻訳され,われわれの手元に届くのは,本当に嬉しく,ありがたいことです。

 研修医や勉強中の若い外科医は手術に入る前の頭の整理,手順の整理に本書を用いてください。また,手術後に手術記録を書く際に参考にしてください。最近は手術動画での勉強の機会が多くなっていますが,手術動画では全体の流れや術者と助手の連携などを学び,本書のイラストでは手順や細部の解剖を学び,両方を上手に利用して欲しいと思います。中堅以上の外科医は若い外科医に指導する際に動画とともに本書を用いてください。本書を手に取った暁には,手術場に一冊,医局に一冊,自宅に一冊,それぞれ欲しいと思うことでしょう。
研修医はもちろん指導医にも推薦の一冊
書評者: 中川 国利 (仙台赤十字病院副院長/東北大学臨床教授・外科学)
 私の本棚に古ぼけた『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations』がある。最後のページには1976年10月5日購入と記載されている。私が研修医時代に,薄給にもかかわらず大枚を叩いて買い求めた最初の本にして現在も愛読している本である。そして当時の指導医から強く薦められ,先輩研修医も持っていた憧れの本でもあった。

 外科医は主に消化器疾患を対象とし,専門分野は消化管と肝胆膵に大きく分かれ,さらに消化管は上部消化管と下部消化管とに,肝胆膵は肝臓,胆嚢,膵臓とに細分化されている。しかし,研修医は基本的には人間全てを対象として臨床を学ぶ必要がある。また私の専門は消化器外科であるが,研修医時代に「頭からつま先まで」全ての外科的疾患を経験したことが日常臨床では大いに役に立っている。『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations』は消化管や肝胆膵ばかりではなく,血管外科,婦人科,甲状腺,乳腺,ヘルニア,さらには腱縫合や皮膚移植まで記載されており,外科全体を網羅する手術書である。

 現在,手術書はカラー表示は当然のこと,DVDによる動画まで付けられて販売されている。しかし,私が研修医時代の手術書は文章表記が主体で,図が少なく理解することがはなはだ困難であった。一方,『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations』は右ページには各手術における要点を的確な線画で手順を追って記載していた。また標準術式ばかりではなく,症例に応じた術式を行えるように他の術式も列記していた。さらに左ページには手術方法に加えて,適応,術前準備,麻酔,体位,術後管理までを的確に解説していた。研修医の私は手術の直前にアトラスを見ながら,手術のシミュレーションを何度も繰り返したものである。そしてアトラスを参照して手術所見を記載し,さらに術後にアトラスを精読しながら手術を反省した。

 外科手術の進歩と共に版を重ねる『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations』が,2011年に内容をさらに充実させて第9版が出版された。第9版には最新の腹腔鏡下手術や自動縫合器を使用した手術などが追記され,イラストもすべてカラー表示され大変読みやすくなった。この実績と伝統ある名著を安達洋祐さん(「先生」と敬称されることを嫌われるため,あえて「さん」とします)が一人で翻訳され,『ゾリンジャー外科手術アトラス』として出版された。

 安達さんは『外科の「常識」—素朴な疑問50』(医学書院),『最新エビデンスに基づく乳がん診療ガイド』(金原出版),『消化器外科のエビデンス—気になるテーマ30』(医学書院)など,外科医に愛読されている名著を世に送り続けている。これは安達さん自身が優れた臨床外科医であるとともに,常日頃から膨大なる医学雑誌を熟読し,最新の医学知識を取り入れているからこそできる偉業である。『ゾリンジャー外科手術アトラス』では読者に理解しやすい文章に翻訳するとともに,随所に適切な訳注をつけて原著の内容をさらに充実させている。一例を挙げると,虫垂切除では「訳注:手術せずに抗生物質で治して虫垂切除も行わないことがある」と記載してある。さらに詳細なエビデンスを知りたい読者は,安達さんの名著『消化器外科のエビデンス—気になる30誌から(第2版)』(医学書院)を参照すると明解となる。

 安達さんは若き医師や看護師の教育に情熱を燃やし続ける「教え魔」である。原著でしか読むことができなかった名著が,安達さんによって読みやすく日本語に翻訳された。しかも値段はなぜか原著に比べて格段に安く,買い求めやすい価格に設定されている。手術を行う際には慣れた術式でも,解剖書に目を通すことが大切である。さらに手術書を読むと,新しいヒントが得られるものである。外科手術全体を網羅した『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,平易で示唆に富む手術書である。外科医を志す初期・後期研修医は勿論のこと,熟練の指導医にも是非推薦したい必携の書である。

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