MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.08.19
Medical Library 書評・新刊案内
塩入 俊樹,松永 寿人 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
《評 者》村井 俊哉(京大医学研究科教授・精神医学)
不安障害に関する知識のアップデートに最適
本書は,「精神科臨床エキスパートシリーズ」の一冊である。私自身,このシリーズの本を読むのは『多様化したうつ病をどう診るか』以来で2冊目となる。『多様化したうつ病をどう診るか』のほうは,「私の臨床観」を全面に打ち出した本だったので,今回も同様のスタイルを予想して読み進めたが,本書のスタイルは大きく異なっていた。このシリーズは,各巻の編者の裁量権が大きいのか,それぞれのカラーが出ているところがよいと思ったが,本書は,編集の先生方の誠実な人柄を反映してか,それぞれの不安障害について,概念・疫学・診断・病態・治療に至るまでの「すべて」が非常にバランスよく紹介されていた。各章の執筆者は,それぞれが日本における当該分野の第一人者であり,そういう意味でも,本書は数ある類書の中での決定版の位置付けにあると感じた。
精神科医療の対象がますます拡大し,一人の精神科医が精神医学のすべての領域を把握することが困難になった現代でも,「不安障害は私の専門外なので診断や治療は苦手です」と言う精神科医はほとんどいないと思う。このことは,広汎性発達障害,アディクション,器質性精神障害,摂食障害などとは対照的である。各章の疫学の項でも示されているように,不安障害の有病率は非常に高く,またその他の精神障害の併存率も高い。不安はほとんどの精神医学的病態の基礎にある症状であり,精神科医にとっては,不安障害についてよく知っていることは当たり前のことなのである。ただしそこには落とし穴がある。うっかりすると精神科医は,不安障害の診断や治療にそもそも専門的知識が存在するということを忘れてしまいかねないのである。専門的知識とは,すなわち年々更新されていく科学的知識のことであるが,このような知識は,数十年前に師匠から学んだ知識を,その後は自らの臨床経験のみを頼りに更新していくというやり方だけでは決して到達することができない。折々に意識的に勉強していかなければ,私たちの知識は確実に古くなってしまうのである。
そういう意味で,本書のスタイルやボリュームは,精神科医が不安障害についての知識をアップデートしていくのにちょうどよい。まずざっと通読してみて,不安障害の臨床のおおよその現状を知り,そしてその後は診察室の書棚に置いておき,外来診療のそれぞれの局面で適宜参照するのがよいと思う。不安障害の薬物療法は治療導入時には定型的な処方で対処可能なことが多い。しかしその効果が不十分であったとき,精神科医は迷うことになる。そんなとき,次にどういう戦略を立てるのが合理的かについて,本書は指針を与えてくれるだろう。また,不安障害のほとんどで推奨される認知行動療法については,日本の医療現場の状況では定式的な治療が提供できないことも多いが,少なくとも基本的なコンセプトは知っておくべきだろう。本書は,それぞれの不安障害で推奨される認知行動療法について,その考え方をコンパクトに紹介してくれている。
図表もたくさん挿入され丁寧に作られた本であり,不安障害を専門としないけれども日々その診療には携わっている,私と同じような精神科医の皆さんにお薦めします。
B5・頁308 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01798-5


肝臓の外科解剖
門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方
第2版
竜 崇正 編著
《評 者》藤元 治朗(兵庫医大主任教授・肝胆膵外科学)
豊富な症例の徹底した画像解析に基づく納得の新解剖を提唱
私が竜崇正先生の『肝臓の外科解剖 第1版』を手にしたのはもう7-8年前になる。学会での竜先生のお話を拝聴した後すぐに買い求め,まさに「目からうろこ」であった。それまではHealeyおよびCouinaudの肝区域分類が中心であり,肝静脈を基にした「肝癌取扱い規約」の区域・亜区域分類が一般的であった。しかし実際の肝切除においては,肝臓外科医はこれらが実情に合わないことを経験的に察知していた。すなわち,S5-S8間,S6-S7の画一的な境界などあるべくもなく,また中肝静脈に沿ったmain portal fissureに沿い肝を切離し,右肝のいわゆる「前区域枝・後区域枝」分岐に達しても,必ずしも前区域枝は頭・尾側1本ずつに分岐せずさまざまな分岐形態を有し,またこれらをテーピングして阻血領域をみると,Couinaud分類とはかけ離れた症例が多々存在した。竜先生の本は大変新鮮で「ああ,こういうことだったのか」と納得させられる内容であった。
2009年には日本語版の内容をさらに充実された英語版の『New Liver Anatomy』(Springer社)を発刊され,さらに今回日本語では第2版となる本書を上梓された。
本書では,多くの症例において前区域門脈枝(3次分枝)が頭側・尾側ではなく,腹側・背側に分岐する概念・事実を示された。また肝切除の鍵となる(1)中央入口(main portal fissure), (2)左の入口(umbilical fissure),に続く第3の扉である(3)右の入口(anterior fissure)がわかりやすく解説され,それにより,前腹側領域切除・前背側領域切除・左肝+前腹側領域切除・後区域+前背側領域切除,など極めて合理的な新たな概念の肝切除術式が提唱されている。これらは今後,再発様式の研究を経て,「系統的切除」と認識されると考えられる。
本書の礎となっているのは,豊富な症例と徹底した術前の美しくかつ正確詳細な画像解析に基づいた事実の検証である。ことに本第2版においては,肝静脈のドレナージ形態・尾状葉の詳細・右側肝円索・胆管の詳細・肝門板など,詳しく知りたい点についてわかりやすくかつ詳細に述べられており,「あれ,どうだったかな?」というときに必ず役に立ってくれる頼りになる1冊である。
本書はこれから肝臓外科を志す若い外科医には必須の書であり,またこれまでに多くの肝切除を経験されてきたベテラン医師にもぜひ読んで納得していただきたい素晴らしい1冊である。
A4・頁240 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01421-2


金城 光代,金城 紀与史,岸田 直樹 編
《評 者》松村 真司(松村医院院長)
一般外来で必要な知識を簡潔にまとめた良書
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