医学界新聞

2013.07.15

Medical Library 書評・新刊案内


ゾリンジャー外科手術アトラス

Robert M. Zollinger, Jr./E. Christopher Ellison 著
安達 洋祐 訳

《評 者》森 正樹(阪大大学院教授・消化器外科学)

手術手順や細部の解剖を学ぶために最適な一冊

 またまた安達洋祐先生がやってくれました。これまでに『消化器外科のエビデンス――気になる30誌から』(医学書院),『外科の「常識」――素朴な疑問50』(医学書院),『外科研修ハンドブック』(医学と看護社),『エビデンスで知るがんと死亡のリスク』(中外医学社)など,医師(特に外科医)や医療関係者の必読書となる本を出版してきた著者が,今回は外科手術書のバイブルである『Zollinger’s Atlas of Surgical Operations, 9th ed』の日本語版を刊行しました。

 本書を手にした最初の感想は,「これだけの量の本を,よくもたった一人で翻訳できたものだ」ということでした。今までに多くの医学翻訳書が出版されていますが,これだけの量をただ一人で翻訳したものを見た記憶はありません。多人数での翻訳は,翻訳の仕方,語彙の用い方など,細かなところで統一性に欠けており,読みづらくなることが少なくありませんでした。本書の場合,安達先生の翻訳にかける迫力・執念を随所に感じながらも,楽しく読むことができます。それにしても一人での翻訳作業にはいかほどの時間を費やしたことか……,脱帽!

 『ゾリンジャー外科手術アトラス』の特色は,「右ページの美しい線画と左ページの詳しい解説」です。絵を見ただけで『ゾリンジャー』とわかる独自な線画はファンが多く,豊富なイラストと丁寧な解説を順に追っていくと,手術の場面が手に取るように浮かび,手技や手順が頭に刻み込まれます。私の二番目の感想は,(当然ですが)その特徴が日本語版でもそのままに生かされていることです。すなわち,手術書の命である図が精緻で,線画はすべて色づけされて見やすくなっており,そこから躍動感あふれる美しさを感じることができます。日本語版では原著でふぞろいだったイラストの大きさを調整することで,より素晴らしさが伝わるように工夫されています。ちなみにカラーになったのはこの第9版からのようで,この点,幸運と思います。

 三番目の感想はオリジナルの改訂が的確に行われていることです。『ゾリンジャー外科手術アトラス』は1937年に初版が出され,その後70年以上にわたり刊行され続けています。まさに奇跡と言っていいと思います。長く読み続けられているのは,改訂が的確に重ねられているからであり,1993年には第7版,2003年には第8版,そして2011年にはこの第9版が出されました。改訂を重ねる際は,時代の流れを的確に反映することが意図されているようで,今回の第9版ではヘルニア修復・結腸切除・膵切除・脾摘出・減量手術の腹腔鏡手術が収載されています。肛門手術などは大幅に改訂され,動静脈シャントなど,頻繁に行われるいくつかの小手術は新たに掲載されています。

 四番目の感想は,著者名が「Zollinger & Ellison」になっていて驚いたことです。「Zollinger-Ellison症候群」(ガストリン産生膵腫瘍による難治性胃潰瘍)の息子同士なのです! まさに「父から子へ」伝えられた伝統ある本の記念すべき再出発が,今回の第9版です。そのような記念になる第9版が安達先生の手によって日本語に翻訳され,われわれの手元に届くのは,本当にうれしく,ありがたいことです。

 研修医や勉強中の若い外科医は手術に入る前の頭の整理,手順の整理に本書を用いてください。また,手術後に手術記録を書く際に参考にしてください。最近は手術動画での勉強の機会が多くなっていますが,手術動画では全体の流れや術者と助手の連携などを学び,本書のイラストでは手順や細部の解剖を学び,両方を上手に利用して欲しいと思います。中堅以上の外科医は若い外科医に指導する際に動画とともに本書を用いてください。本書を手に取った暁には,手術場に一冊,医局に一冊,自宅に一冊,それぞれ欲しいと思うことでしょう。

A4・頁520 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01714-5


《標準理学療法学 専門分野》
日常生活活動学・生活環境学 第4版

奈良 勲 シリーズ監修
鶴見 隆正,隆島 研吾 編

《評 者》上岡 裕美子(茨城県立医療大准教授・理学療法学)

学生,臨床家を問わず常に手元に置いておきたい良書

 理学療法実践は,身体運動機能・動作の改善のみではなく,対象者の日々の生活における活動・行為のレベルで向上もしくは変化がみられて初めて,対象者やその家族にとって意味を持つのではないだろうか。2001年にWHOから国際生活機能分類(ICF)が発表され,心身機能・身体構造,活動,参加の各構成要素と環境因子などとの相互作用性が示され,その概念は広く認識されてきた。

 近年,わが国では超高齢社会を迎え,高齢者・障害者の在宅生活を支えるために,自立と生活の質を追求し,医療・保健福祉のさまざまなサービスが一体的に提供されることが求められている。このような中で,理学療法士にとっても「生活」の視点がより重要となってきた。身体運動機能・動作だけでなく,日々の生活における活動・行為に対してどのように関与できるか,理学療法のあり方が問われている。そのような時期だからこそ,『日常生活活動学・生活環境学 第4版』が発行

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook