医学界新聞

連載

2013.05.06

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第244回

オバマケアーー保守派知事がメディケイド拡大を拒否する理由

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


3023号よりつづく

 メディケア・メディケイドの公的保険制度が創設されたのは1965年のことである。前者は高齢者,後者は低所得者が主たる受給者であるが,民を主体として医療保険制度を運営する米国にあって,これら二つの公的保険は,半世紀近く,「弱者」の医療へのアクセスを保障するセイフティネットとして,重要な役割を担ってきた。

 しかし,同じ公的保険とはいっても,両保険の仕組みは大きく異なる。例えば,財源を見たとき,メディケアの運営費はすべて連邦政府が負担するのに対して,メディケイドは連邦政府と州政府が折半する。さらに,財源の違いを反映して,メディケアの運営主体が連邦政府であるのに対して,メディケイドは州政府である。「米国には50の異なるメディケイドが存在する」とはよく言われるところであるが,各州が独自の制度を運用しているため,受給資格・給付内容等が大きく異なるからにほかならない。

「結構ずくめの善政」に保守派の抵抗

 例えば,受給資格(成人)における世帯当たり所得基準を比べたとき,一番基準が甘いコネチカット州では連邦貧困基準(4人家族の場合,2013年の数字は年収2万3550ドル)の300%未満と定められているのに対し,一番厳しいアラバマ州では24%未満と,「極貧」にあえがないと受給資格が得られないようなところで線引きが行われている。ちなみに,通常,成人が受給資格を得るためには「親」であることが要件とされ,子どもがいない場合,どんなに貧乏であってもメディケイドの給付を受けることはできない(註1)。

 これに対し,無保険社会解消をめざして2010年に成立したオバマケアは,「メディケイド受給者拡大」をそのための手段の一つとしている。具体的には,成人に対する受給資格の線引きを「2014年以降連邦貧困基準の133%以上の範囲で行う」と定めただけでなく,「親である」という要件も撤廃した。さらに,ただ受給資格を緩和しただけでなく,メディケイド拡大のために必要な財源はほとんどすべて連邦政府が負担する仕組みとして,州政府に財政負担がかからないようにする配慮もなされた(註2)。

 普通に考えれば,米国民にとっても,州政府にとっても「結構ずくめの善政」であるように見えるのだが,現在,保守・共和党の州知事の多くが「自分の州ではメディケイドを拡大しない」と言明,オバマケアへの協力を拒んでいる。メディケイド拡大処置によって,1700万人の米国民が新たに医療へのアクセスを保障されるはずだったのであるが,実際に恩恵にあずかることができる米国民の数ははるかに少なくなると見積もられているのである。

不合理な反対の被害者は患者と医療施設

 では...

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