医学界新聞

寄稿

2013.03.18

【寄稿】

看護師,医療スタッフのための
『移行期支援ガイドブック』とは

丸 光惠(東京医科歯科大学大学院教授・国際看護(開発)学)


 2001年より,当時私が所属していた北里大の附属病院や近隣病院の看護師とともに,10代の小児慢性疾患患者の事例検討会を開催しています。当初はセルフケア困難,心の問題,親子関係の問題,ターミナル事例が中心だったものの,徐々に20代患者の事例が増え,小児医療のなかで成人を迎えた患者へのケアの困難さが語られるようになりました。そこで08年より,石崎優子氏(関西医大小児科学講座准教授)を共同研究者として迎え,「移行(Transition)」をキーワードにこの問題へ取り組み始めました。

『移行期支援ガイドブック』の完成まで

 われわれはまず,米国の取り組みを調査することから始めました。米国では,1980年代より国立衛生研究所(NIH ; National Health Institute)を中心に,成人に達した小児慢性疾患患者に関する会議が開催されています。その動きは障がい者に対する差別を撤廃する「障がいを持つアメリカ人法」(Americans with Disabilities Act of 1990)以降より一層の加速を見せ,90年代には政府・学会レベルの複数の組織で合同委員会を開催。その後も議論が重ねられ,「小児科・小児病院などの小児中心型医療から,成人中心型医療へ医療の場を移行(Transition)させるべき」という見解が示されるようになりました。

 そのようななか,米国小児科学会,米国家庭医療学会,米国内科学会(内科専門医会)の3学会と,米国思春期学会から声明が発表され,成人した小児慢性疾患患者に対する小児医療の限界や,10代早期より発達年齢と医療ニーズに見合った成人中心型医療への段階的移行の推奨の必要性が示されました。これらの声明を受け,08-09年にはシカゴ大,マイアミ大などの移行外来(Transition Clinic),ボストン小児病院などの基幹病院に移行プログラムが作られ,ウェブ上のホームページからダウンロードできる患者向けのパンフレットや,患者に成人中心型医療への移行期であると伝えるための手紙など,さまざまなかたちのツールの開発が進みました。

 そうした数あるツールのなかから,石崎氏にご紹介いただいたマニュアルが,『Crossings』1)です。段階的な移行を進める方法論が医療職向けに詳細に記述されており,患者本人が使用するチェックリストのほか,医療サマリーのサンプルも含まれた点で優れたマニュア

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