医学界新聞

対談・座談会

2012.11.26

座談会
“JCI”に学ぶ,これからの病院医療

福井 次矢氏(聖路加国際病院院長)=司会
落合 慈之氏(NTT東日本関東病院院長)
夏目 隆史氏(亀田総合病院 メディカルディレクター)


 医療機能評価の世界標準であり,「患者安全」「医療の質改善」の実践を目的としたJCI(Joint Commission International)認証(MEMO)。現在,アジアを中心に世界で本認証を取得する医療機関が急速に増えている。

 本座談会では,日本におけるJCI認証の取得施設である亀田総合病院(2009年取得),NTT東日本関東病院(2011年取得),聖路加国際病院(2012年取得)の代表者を迎え,受審の経験を振り返りながらこれからの病院医療の在り方を展望した。


福井 亀田総合病院は,日本での第1号として2009年8月にJCI認証を取得されましたが,何が受審のきっかけになったのでしょう。

夏目 当院には,病院管理の質向上に長年力を入れてきたという背景があります。1991年,病院管理学の大家であるジョン・ウォーカー氏(現亀田総合病院顧問)の招聘をきっかけとして,今中雄一氏(現京大教授・医療経済学)らと医療の質を高めるための病院管理体制の構築を始めていました。

福井 JCIの誕生は1994年ですから,それ以前から医療の質向上に取り組んできた長い歴史があるということですね。当時は外部評価を受けることはなかったのですか。

夏目 JCIの本家,JCAHO(現JC)の認証取得を計画したのですが,当時は米国内の医療機関のみが対象と断られました。その後,質保証の規格であるISO9001を取得したり,日本医療機能評価機構の認定を受けました。しかし,それだけでは患者安全,医療の質向上には不十分という思いが残っていたため,より高い質が求められるJCIをめざすこととしました。ただ,当時は病院のハード面を中心に認証取得に不足している部分もあったため,全個室病棟の稼働をタイミングとして2009年に受審を決めました。

福井 NTT東日本関東病院では,2011年3月にJCI認証を取得されましたが,どのような経緯で受審を決められたのでしょう。

落合 当院では,主に2つの理由から受審を決意しました。

 1つは,2000年の現病院施設の完成時に,「せめて東京にいる外国人ぐらいは当院を利用してほしい」という思いを私が持っていたことです。その原点にあるのは,私が高校生のときに起こったライシャワー米国大使の刺傷事件で,ライシャワー氏が入院中「汚い病院では日本の恥になる」と要人との面会を断られていたことや,世界的な脳神経外科の権威であった大学時代の恩師・佐野圭司先生が,「トイレが汚い」という理由で海外からの来客と病院内で会われなかった記憶です。また院長就任後に読んだ,在東京の外国人記者による「日本の病院には個室がなくプライバシーが守られないため,病気になったら母国に帰らざるを得ない」という記事も国際化への萌芽となりました。

 もう1つは,「日本の病院は決して諸外国に劣るものではない」という点で野心がわいたのです。1999年の横浜市大病院と都立広尾病院での医療事故を受け,2000年代の日本の医療は逆風下にありバッシングが続いていました。卑屈な気持ちで診療に当たる医療者も多くいたため,その状況を打開するためにも「当院は患者安全や医療の質向上に十分取り組んでいる」と示して,特に看護師たちに自信を持ってもらいたかったのです。

福井 最初からJCIの認証取得をめざしたのですか。

落合 実は,当初はANCC (米国看護認証センター)のマグネット・ホスピタル認証1)の取得を模索しました。それを受けられれば,看護師に「自信を持っていい」と言えると考えていました。しかし,看護師一人ひとりの卒業資格が問われるなど要件が非常に厳しく,取得は難しいと感じていました。記憶から忘れかけていたころ,開原成允先生が日経新聞に寄せた手記2)でJCIを知りました。

福井 その記事は,私も強く記憶に残っています。

 最後に聖路加国際病院ですが,面白いことに当院のきっかけはまた異なります。私が臨床研修を行った1970年代,当院は外国人患者がとても多かったのですが,8年前に戻ってきたときにはずいぶん減っていて,調査の結果,外国人は全患者数の2.5%ほどでした。そこで国際部を設置したり,英語で対応可能なスタッフによるクリニックを開設したのですが,外国人患者数は大きく変わることはありませんでした。

 一方でここ数年,海外,特にアジアの病院を見学する機会が多くあり,その水準の高さに衝撃を受けました。良し悪しは別としてメディカルツーリズムに熱心な国が多く,それらの国ではJCI取得は当たり前のようにとらえられていました。各国のトップクラスの病院だけの見学でしたが,日本が立ち遅れているという印象を強く持ったのです。

 日本でも,せめて何か所かは日本在住の外国人が安心してかかれるレベルの病院が必要だと思い,2011年の新年の挨拶で「当院は国際性をいっそう高める方向に舵を切ります」と宣言し,JCIに取り組むことにしました。

準備で感じた,「文化」の違い

福井 JCIの審査項目は,14章,1220項目に上ります()。先生方の施設では,いつごろから準備を開始されたのでしょう。

表 JCIの審査項目の14章

落合 職員に最初に受審を伝えたのは,実は審査一年前の2010年4月です。当初,看護師は非常に驚いていましたね。「皆さんの実力なら大丈夫」と職員の背中を押して準備を始めたのですが,実際はいろいろ大変でした。

夏目 当院では2007年後半から準備を開始しました。それまでも患者安全や医療の質管理について勉強はしていましたが,やはり不備が目立ちました。何しろ予算がなく,審査項目リストの翻訳作業もプロに頼まず全部自分たちで手分けしたため,わからないことだらけだったのです。韓国・セブランス病院のJCIのモックサーベイ(模擬審査)も参考にしましたが,全体的には暗中模索のまま体当たりという感じでした。

福井 当院でも,病院内のサインを英語,日本語,中国語,韓国語の4か国語表記にしたりと,国際性を高めるよう努めてきたつもりでしたが,審査項目にはプロセスが多くハードルの高さにはあらためて驚きました。

 審査項目にはどう対応していったのですか。

落合 各章の担当できる部分を部署ごとに割り当てる形としました。しかし行ってみてわかったのですが,実は各部署に関連する評価項目は,すべての章に散らばっており,極めて複雑に振り分けられていました。つまり,14章全部に医師,看護師,臨床検査技師,薬剤師など全職種の仕事がかかわるという具合なのです。その網羅的な項目をどう整合性を保って割り振るかは,非常に苦労した部分です。

福井 その過程で文化の違いを感じることはありましたか。

落合 ええ。日本では「あうんの呼吸」のようなルールで通じる事柄が,JCIではすべて評価項目に方針として記され,適切に実施できているかを記録に残すことが問われました。それまで「当たり前」と考えてきたことも多かったため,何を用意すればよいか最初は全くわかりませんでした。

福井 確かにJCIに書かれている文章には,読んでも意味がわからないものがいくつもありました。サーベイヤーに不備を指摘され,こんこんと説明されて初めて理解できた項目もあります。

夏目 その点では,当院はモックサーベイが役立ちました。そこで,サーベイヤーが意図していることが多少わかりました。ですが,いかんせんその受審には金銭的な負担がかかります。

落合 そうですね。当院でもコスト面からモックサーベイの受審を渋っていたのですが, JCIアジア地域の責任者から「半分だけでも」という打診があり,受けることにしました。その際にA4・

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