医学界新聞

2012.10.01

Medical Library 書評・新刊案内


電子カルテ時代のPOS
患者指向の連携医療を推進するために

日野原 重明 監修
渡辺 直 著

《評 者》岩﨑 榮(NPO法人卒後臨床研修評価機構・専務理事)

すべての医療関係者にとっての必読書

 日野原重明の革新的著書であり深紅の表紙から"赤本"とも称され,1973年の初版刊行以来今日でもベストセラーの『POS――医療と医学教育の革新のための新しいシステム』の,実質的な改訂版ともいうべき『電子カルテ時代のPOS――患者指向の連携医療を推進するために』が,同著者の監修,渡辺直の執筆により医学書院より出版された。

 監修者を師匠と仰ぐ著者は,実に柔らかなタッチで,"ですます調"に終始し,POSの真髄を心ゆくまでに求める。ややもすれば,この種の著書は書式とか技術に偏りがちだが,本書からは診療録,いわゆるカルテの"こころ"が伝わってくる。

 患者の診療から得た診療情報は,医療情報の最たるもので,その記録が診療録(カルテ)といわれる。医療情報の情報化(IT化)が進展すると,診療記録を電子化し保存・更新するためのシステムとして,電子カルテシステムが構築された。カルテ記載の標準化が求められるなか,それに応えるものがPOSにおける診療録記載の基本構造である基礎データ,問題リスト,初期計画,経過記録,退院時要約なのである。

 著者は,「診療録は単にrecordではなく,"診療録というデータベース"なのであり,診療録記載は電子カルテ時代では,writingではなく,data inputなのである」「あなたは端末に向かい,キーボードを利用して診療録内容をデジタル記載している。それは単純に記載しているのではなく,データベースのアイテムを入力している」のだと語る。実に巧みに,しかも丁寧に易しく,アナログからデジタルの世界へと導いてくれる。

 本書は序章「はじめに――なぜ今,POSか?」において,POSのPは患者にとってのproblemであり,POSの根底には重要な医療哲学があり,患者協働参画医療のための重要ツールであると説く。さらに,チーム医療や臨床教育に寄与するとも述べている。続いて,第1章のPOSの沿革からはじまり,次章からはPOSの意義,構造,そして記載のための4つの基本構造を解説する。

 第8章では「外来におけるPOS」を加え,入院記録でもみられた事例を交えながら記述され,診療情報提供書にも触れている。第9章の「監査」ではその意義について,医療安全,臨床教育,良質な医療提供の確保にあることと解説され,さらに,サマリーにおける監査は量的・質的監査に大別されることを示し,その実例による解説が続く。「この質的監査が日常的に,綿密に行われている施設こそ,真に教育的な,医療向上性に指向した,最終的には患者にとって最も有益な情報を提供できる医療機関である」と著者は述べている。

 最終の第10章は,「多職種によるPOS,クリニカルパスとPOS」となっていて,その後,著者のあとがきが添えられている。いわゆる「日野原の赤本」では,当時の医学教育の革新を求めたが,いまだその域にない現状の医学教育界に向けての提言とも思われる。

 本書は,診療情報管理士をはじめ,医学生や臨床研修医はもちろんのこと,医師,看護師らすべての医療関係者にとって必読の書といえよう。

B5・頁168 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01635-3


双極性障害の心理教育マニュアル
患者に何を,どう伝えるか

Francesc Colom,Eduard Vieta 原著
秋山 剛,尾崎 紀夫 監訳

《評 者》神庭 重信(九大大学院教授・精神病態医学)

めざましく進歩した双極性障害の心理教育

 サイコエデュケーション(ここでは心理教育とする)が注目されだしたのは,1980年代に入ってからのことであり,それは統合失調症の治療においてであった。家族の表出感情の強度と再発頻度との間に関連が示され,しかも表出感情を軽減することで再発を減らせるという,印象的な結果が報告された。そのころから"内因性疾患"という疾病観は,脆弱性ストレスモデルに取って代わられ,ストレス・マネジメントや服薬アドヒアランス

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