医学界新聞

連載

2012.10.01

在宅医療モノ語り

第31話
語り手:心を込めて押させていただきます 印鑑さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「印鑑」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


三文判ではなく認め印で
私は三文判とか認め印と呼ばれます。実印さんや銀行印さんと区別されるのは仕方ないけど,「二束三文」と決めつけなくてもねえ。普段は,ライトのキーホルダーをつけ,小さい朱肉付きのケースに収められています。
 免許取りたてのころはびっくりしたと,ウチの主人も時々回想しています。研修医になったばかりの新社会人にもかかわらず,突然「先生」と呼ばれるようになり,さまざまな場面で署名や押印を求められたそうです。実力もなければ,尊敬されている感じもない。それでも“先生”の責任は重大でした。「診察しました」とカルテにポチ,「処方しました」と処方箋にポチ,「診察をお願いします」と他科依頼書にポチ。手軽な押印ですが,実は案外重い責任がのしかかっていたのです。

 私はある往診鞄に生息する印鑑です。ザイタクで押印が求められ

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