第3回日本プライマリ・ケア連合学会開催
2012.10.01
第3回日本プライマリ・ケア連合学会開催
第3回日本プライマリ・ケア連合学会が,9月1-2日,福岡国際会議場(福岡市)で開催された。大会テーマは「プライマリ・ケアによるパラダイム・シフト――さらなる前進への第一歩」。このほど同学会理事長に選出された丸山泉大会長(豊泉会丸山病院)のもと,日本のジェネラリストが足並みをそろえ,その地位の確立へ一歩を踏み出すべく,“連携”をキーワードとしたプログラムが多く組まれた。
丸山泉大会長 |
英国の家庭医療に学ぶ
第一部ではまず武田裕子氏(ロンドン大キングスカレッジ)が,最近の英国医療を概説。英国では国営医療サービス(NHS)によりほぼ無料で医療を享受できる一方,外来受診の待ち時間や入院までの待機期間が社会問題化していたが,2000年の医療改革以降著しく改善。家庭医への信頼感やNHS,救急医療への満足度も大幅にアップしたという。「稀な疾患の鑑別より,ありふれた疾患から考える」「できること・できないことを明示する」というGPのスタンスは,賛否あるものの英国民に受け入れられているようだ。
07年より,英国家庭医学会(RCGP)認定の3年間の後期研修プログラムの受講と専門医資格の取得が,英国でGPとして働くために必須となった。日本人初のRCGP認定後期研修医である澤憲明氏によると,GPの人気は上昇中で,研修希望者も定員の約2倍に上るという。専門医は,臨床応用試験・臨床技能評価・職場基盤評価(WPBA)の3段階で選抜され,特にWPBAでは,研修中の省察記録や診療行為のビデオレビュー等をすべて電子ポートフォリオに記録,継続的な「形成的評価」を行うのが特徴。現在,研修プログラムの満足度は全診療科中で最も高く「研修が均質化し環境が整うことが,世界標準の人材を生む」と氏は語った。
元RCGP会長のRoger Neighbour氏は,プライマリ・ケアが医療の質やコストを改善させることは先行研究等から明らかと語った。RCGPは,ジェネラリストの役割の確立や教育の質担保,患者中心の政策決定に貢献し続けており,NHSも「二次ケアへのゲートキーパー」としてGPに多くを依存している。14年からはNHSの全予算の80%がGPに委託される予定だが,待機時間の改善や臨床水準の向上,資金調達など課題も多いと明かした。
第二部では井伊雅子氏(一橋大国際・公共政策大学院)が医療経済学の視点から地域医療再生を提言した。氏は既存の出資制度に頼らず,住民と医療者が共に利する医療費の支払制度を考える必要を示唆。住民の主体的な地域医療へのかかわりが民主主義を学ぶ機会を生み,グローバル化に伴う課題を克服する可能性を示した。また英国にならいデータベース構築等でプライマリ・ケアを“見える化”し,データを活用し質の高い研究を行うことで,専門性の確立もかなうと期待を寄せた。
医療政策的観点からは前厚労省医政局の武内和久氏(現マッキンゼー&カンパニー)が登壇。プライマリ・ケア確立の戦略について,必要性と定義,手段を考察した上で,(1)ストーリーを集め具体像を設定すること,(2)医療サービスがどう変わるか設計図を描くこと,(3)時間軸に沿ったシナリオ作成の3点を挙げた。
最後にNeighbour氏が再登場し,国民(患者),医療専門職(同僚),政治家(政策立案者)のそれぞれから信頼と納得を得ることがプライマリ・ケアの確立に必要と主張。RCGPの歴史から得た教訓として,メディアの活用や卒後研修・評価システムの構築などが重要と語り,「評価が学習を促す」「実績が尊敬を促す」「協働が改善を促す」というメッセージを発表。RCGPと日本プライマリ・ケア連合学会との協働を提案して降壇した。
質疑応答では,若いジェネラリストのアイデンティティ確立には「GPの指導医がよいロールモデルとなる」,医療費負担増への反発については「使途が透明化され,医療への主体的な参加を実感できれば国民も納得しやすい」などの発言があった。英国医療の最新状況をよく知り,その応用をオープンに議論していく重要性が確認され,シンポジウムは盛会裏に閉幕した。
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