医学界新聞

2012.09.17

Medical Library 書評・新刊案内


プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部

坂井 建雄,天野 修 監訳

《評 者》熊木 克治(新潟大名誉教授・肉眼解剖学/日歯大新潟客員教授/新潟リハ大教授)

歯学に,STに,外科に,そして一般に火のごとく世に広がる

 世の中にいわゆる“解剖学書”があふれるように出版されている。『プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部』が出版され,じかに拝見,拝読の機会があった。日歯大で解剖学実習に参加し,新潟リハ大(PT,ST)で解剖学の講義を受け持っている立場と経験から,人体解剖学を学ぶに当たっての困難や問題点,教えるに当たっての重要性を考えながら,このプロメテウスを読み返してみた。まだまだ新しいことを学ばせてもらい,考えさせられる点もたくさんあり新鮮な印象だった。

 歯学部の学生たちは解剖学実習に臨み,登場する多くの学名(ノミナ)になじみが薄く,大きな壁にぶつかる。実物と教科書の間を行ったり来たりして,それらを使いこなせるように努力すると,このプロメテウスはいつの間にか筋肉や関節,さらには脈管系までも上手にくっつけてその機能まで知りたいという気にさせてしまうところが驚きである。特に,神経系については,知覚と運動の伝導経路を示し,中枢と末梢の知識を一体化して構築できるように工夫されている点がユニークといえる。

 解剖の勉強には広い机が必要であると冗談半分に言うが,骨・筋,脈管・神経,内臓などの多くの成書を全部広げて,見比べながら,局所解剖学的な知識を組み立てていくのが常套手段である。このプロメテウスは1冊で,そのすべてをこなしている点が特筆に値する。

 昨今,歯学部では「歯だけ診ている歯科医師はダメ」「摂食・嚥下までわかる歯科医師であらねばならぬ」と強調されている。年を取るにつれて,おしゃべりに夢中になっていると,危うくむせ返ったりする。献体の会・新潟白菊会の“集い”で,前新潟大歯学部生理学教授の山田好秋先生の「長生きの秘訣-楽しく食べること」というお話で,食べ物の摂食・嚥下の流れを,〈咀嚼期,咽頭期,食道期〉などリハビリの学校で行うように難しく講義しないで,平易に説明してもらった。こんな折の参考書として,専門家にも,学生にも,また一般の人々にも,使い方はそれぞれ違っても,このプロメテウスが大いに役立つと思う。

 最近は外科学系の各分野で,手術手技の修練のための解剖の必要性について議論されている。コメディカルの分野での解剖学実習の必要性と合わせて重要な問題である。しかしいずれの場合も,安易に解剖してみるというだけの考えでは不十分なので,常に科学的に観察,考察する解剖学が必要である。そのときにもこの『プロメテウス解剖学アトラス 口腔・頭頸部』は先の3巻の姉妹編ともども,大事なよりどころ,指針として役立つと確信する。

 安永3年(1774年),杉田玄白らによって,『ターヘル・アナトミア』の翻訳『解体新書』の出版という偉業が達成された。これを機に西洋医学が世に広がった。このプロメテウス解剖学アトラスも同様に,大きく世に貢献できるに違いないと確信している。日本人の手による解剖学教科書の誕生を後世に期待しつつ。

A4変型・頁384 定価14,700円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01338-3


OCTアトラス

吉村 長久,板谷 正紀 著

《評 者》天野 史郎(東大大学院教授・眼科学)

臨床で出合う眼底疾患の知識を身につけられる一冊

 京大眼科の吉村長久教授と板谷正紀准教授の執筆によるOCTアトラスが発行された。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は1997年に眼底疾患の診断装置として国内に導入され,網膜の3次元構造を簡単に観察できる装置として急速に臨床の場に普及した。その後,ハード,ソフト両面での改良が大幅に進み,現時点での最新鋭のspectral-domain OCTでは深さ分解能5-7 μmが実現されている。

 最新鋭のspectral-domain OCTによる画像が多用されている本書では,まずOCT読影の基礎として,細胞層が低反射,線維層や境界が高反射という原則,正常網脈絡膜のOCT像の解説,スペックルノイズと加算平均による除去,アーチファクトなどの事項がわかりやすく解説されている。次いで,各論として,黄斑円孔・黄斑上膜など網膜硝子体界面病変,糖尿病網膜症,網膜血管病変,中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,網膜変性症,ぶどう膜炎,病的近視,網膜剥離の各疾患が論じられている。疾患ごとにまず概要としてそれぞれの疾患メカニズム研究のこれまでの歴史が語られ,次いで最新のOCT所見を基にした各疾患の発症機序が詳細に述べられている。そしてそれに続く180超の症例でのOCT像が本書の最大の見せ場である。各症例の病態が経時的に変化していく様子がOCT像,眼底写真,造影写真を用いて詳細に示されている。そして,各疾患における典型例はもちろんのこと,バリエーション例も多数示されている。これらの症例をすべて読んでおけば,臨床で出合う上記疾患におけるほとんどのバリエーション症例を経験したのと同じだけの知識を身につけることができるであろう。

 本書を読んだ印象としては美しい本だということである。こんなことをいうと不謹慎と言われそうであるが,普段,角膜などの前眼部疾患の患者さんを診察していて,眼底疾患の患者さんの診察をすることが少ない私などがこの本を読んでいると,その美しい写真や装丁を見て感心してしまい,ついついこれら網膜硝子体疾患で悩んでいる患者さんのことを忘れてしまいそうである。しかし,美しく撮られたOCT画像を詳細に検討することが,各種眼底疾患の発症メカニズムを解明することに発展し,個々の患者さんにおいて正しい治療方針を導くことにつながる。このことがこれらの疾患で悩んでいる患者さんに大いに役立つことは明らかであろう。病気の図譜であるのにどうして美しいと感じるかと考えると,spectral-domain OCTで撮られた画像が各種眼底疾患における立体的な変化を手に取るように示しているからであり,これを見ることでそれぞれの疾患の成り立ちが理解できるからである。

 網膜硝子体疾患を専門とする先生はもちろんのこと,他のsubspecialityを持つ眼科医,開業医,研修医など多くの先生方に推薦したい。

A4・頁368 定価24,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01513-4


今日の小児治療指針 第15版

大関 武彦,古川 漸,横田 俊一郎,水口 雅 総編集

《評 者》神川 晃(神川小児科クリニック院長)

小児を診療する幅広い読者のための実践書

 まず本書を手に取ってご覧ください。今回の改訂からA5サイズに小型化され,辞書のように手に持ちやすくて,急いでいるときにぱっと調べてみたくなる本になっています。

 内容は小児科全般にかかわることが網羅され,小児科診療に携わる医師が遭遇する疾患を,それぞれその分野で名前が浮かぶ第一人者が執筆しています(全27章,713項目)。

 本書では,必要なときにすぐに確認できるよう,各疾患の病態,治療方針の要点が簡潔に解説されています。小児科医は子どもの全身を診察し,重症度や専門性に応じ二次,三次医療機関との連携,境界領域疾患で他科との連携を要求されます。また,ここ数年,インターネットからの医療情報収集は医師のみでなく保護者も日常的に実施しており,外来診療の際,子どもの病気をインターネットなどで検索し,得た情報について質問されることは時々あります。そのような場合でも本書が役立つと思います。

 私は健診をはじめとして相談されることの多い口腔疾患の領域で,聞き慣れない言葉である「再石灰化療法」の項目に注目しました。齲蝕といえば切削・充填処置が基本と覚えていましたが,初期治療はフッ化物塗布,患者教育による口腔清掃と,フッ化物を用いた洗口による再石灰化療法が究極の予防治療であることを知りました。このように気になる1項目をご覧いただければ随所に新知見が認められます。

 なお,各項目の治療方針に記載されている処方例では,薬剤は商品名で用法・用量とともに記載されており,その場で対応できるよう工夫されています。さらに,付録「小児薬用量」では医療用医薬品添付文書に記載されている小児の用法・用量がまとめられています。

 今版では新たな章として次の2章が設けられました。「第3章 小児診療にあたって」では,医療を行うにあたっての基本的な観点について在宅医療を含め記載され,小児科診療所のマネジメントについても言及されています。「第20章 思春期医療」は妊娠,性教育,性感染症,薬物・飲酒・喫煙など小児科医があまり関与していない分野の情報をまとめています。

 小児科医は診療所や病院で医療を行うだけでなく,地域の医療・保健・福...

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