MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.09.10
Medical Library 書評・新刊案内
名越 康文 著
《評 者》岩田 健太郎(神戸大院教授・感染治療学/感染症内科)
ハウツーだけど,ハウツーじゃない。名越流対人関係改善法
人間関係,対人関係に悩む人は多い。外来患者が抱えているストレスも,たいていは職場や家庭での人間関係が原因である。よって,対人関係に関する書物もとても多い。その多くは,コミュニケーションや作法の「スキル」を伝授するものである。
名越康文先生の『自分を支える心の技法』も,「技法」と書かれているのだから,スキルを伝授する本である。しかし,そのスキルはアメリカなどのビジネス本にありがちなスキル,ハウツー本的なスキルとは違う。かなり,違う。
通常のハウツー本は「こうすればうまくいくんですよ」といきなりスキルを伝授する。ハウツー本の読者は「結局どうすればよいのか,早く教えてよ」といつも考えているからだ。しかし,本書は違う。のっけから読者に問いを立てるのである。それも難しい問いを。
例えば,「心とは何か」「赤ちゃんはなぜ泣くのか」。一見,対人関係とは関係なさそうなところから謎かけをする。本の文章と読者は対話をする。ついに「怒り」の概念に突き当たる。
ここでの「怒り」は,ぼくらが通常用いる怒りとはちょっと違う。例えば,「不安」も怒りの一亜型であると名越先生は言う。「リアリズム」も怒りの一亜型であるとも言う。また,自己卑下は「見下し」の一種だとも言う。
なぜ,こんな逆説が成り立つのか? 読書という名の対話を通じて,その謎が次第に明らかにされていく。
ぼくらが対人関係で失敗するのは,たいていは「怒り」のせいであると本書は説く。相手の怒りじゃない。「私の」怒りである。私の心に怒りが宿り,これが対人関係をぎくしゃくさせる源泉になるのである。「私は怒ったりしない」と信じている人も,多くはやっぱり(われわれが信じている「怒り」とは異なるやり方で)怒っている。
ぼくらは「もっとも自分のことを気遣ってくれる人に,もっとも感情的な怒りをぶつけてしまうことを宿命づけられた存在」(本書42ページより。傍点は原典ママ)なので,人が怒りから完全に自由になることは,ほとんど不可能に近い。そしてこの怒りこそが,われわれを消耗させ,そして対人関係を難しくするのだ。では,ぼくたちの心にビルドインされ,容易に消去はできない怒りの感情を,ぼくらはどう扱ったらよいのだろう。
本書は,自分の心に宿る怒りの扱い方を教える。自らの怒りの感情に自覚的であること。そして他者の存在を他者として(私と同じ存在ではなく),他者たる他者として認めること。つまりは謙虚であること。他者の言葉に耳を傾けること……本を読むという「他者の言葉の傾聴」行為と,本の内容とがシンクロしていく。そして,他者とのあり方について具体的なスキルがいくつも開示されていく。
それはどういうものか……と,ここでは言わぬが花。ぜひ本書を手に取って読んでいただきたいと思う。柔らかく,温かい文章で,気軽に読み通すことができますよ。
四六判・頁202 定価1,470円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01628-5


聖路加国際病院内科チーフレジデント 編
《評 者》清田 雅智(飯塚病院総合診療科診療部長)
学び手のニーズを知る「先達」の思いがつまった本
伝統というのは名前だけではなく,その中に脈々と受け継がれる「魂」というものがそれを規定していると感じる。聖路加国際病院は,私が研修医になった1995年当時も遠い九州にも知られた有名な研修病院であり,老舗である。研修医用のマニュアルが多く存在しなかった当時の研修医は,ワシントンマニュアルが日本語になっていなかったこともあり,えんじ色の『内科レジデントマニュアル 第4版』(編:聖路加国際病院内科レジデント,医学書院...
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