カルテ記載の基本の型 SOAP(1)(佐藤健太)
連載
2012.08.06
「型」が身につくカルテの書き方
【第2講】 カルテ記載の基本の型 SOAP(1)
佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)
(2985号よりつづく)
「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。
本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。
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■導入……見通しをよくするため,詳細に入る前にまず全体像と軸を明確にする。
(1)年齢・性別,背景,主訴の4つで全体像を要約する。
(2)患者側の視点で今回の主題を明確にする。基本的に「医学用語」に置き換える。
(3)医師側の視点で今回の診察の目的を明記する。本人が困っていない場合や,本人と周囲の問題意識が異なる場合は特に重要。
■現病歴……病気が発生してから現在に至るまでの出来事すべてを記載する。
(4)経過:診断上最も価値の高い「時間経過」を明確にする。医師が知った順番ではなく患者に起きた順番に並び替え,かつイベントの前や間が抜けないように。
(5)症状解析:キーとなる症状の特性を,「痛みのOPQRST」などで詳述。
(6)Review of systems:頭のてっぺんからつま先まで,鑑別にかかわる臓器系に絞って記載する。
(7)ナラティブ:「か・き・か・え」を記載(註)
■既往歴……生まれてから現在に至るまでの,既に確定している疾患の情報を網羅する。基本的には時系列で記載するが,数が多い場合は臓器別・科別に整理したほうが見やすい。
(8)今も活動性のある疾患。病状や治療内容,かかりつけ医なども併記。問題リストに登録され,評価・介入の対象となることが多い。
(9)過去に治癒した疾患。発症時期と治癒時期,後遺症の有無などを併記。輸血歴,アレルギー歴,妊娠・出産歴も忘れずに。主疾患の診断や方針決定の参考となる。
(10)治療内容:医原性の問題を検討しやすくため,併存症・既往症と独立して記載すると有用。
・内服薬:用量・用法も明記。他科や他院の処方薬,市販薬・漢方薬,サプリメントや健康食品も忘れずに。
・手術歴:過去に受けたすべての手術・処置を記載。
■その他……その他の背景情報をまとめる。
(11)家族歴:同居家族のほか,重要人物(介護上のキーパーソンや濃厚接触者)も。人間関係も記載すると効果的な問題把握・介入に活かせる(参考文献:S.H.マクダニエル,他著『家族志向のプライマリ・ケア』シュプリンガー・フェアラーク東京)。家族の疾患歴は,疑う疾患によって,血縁者(遺伝性疾患),同居者(生活習慣病),職場の濃厚接触者(感染症)など聞く範囲を広げる。
(12)生活歴
・嗜好品:飲酒・喫煙など。
・生活習慣:食事・運動,排泄状況など。
・社会歴:仕事,交友関係,居住地・家屋など。
■身体所見……医療者が,現時点で直接観察した身体診察の結果。
(13)全身状態:パッと見の重篤感・ABCの評価。
(14)バイタル:重症度・病態判断に必須。意識(JCS/GCS)→循環(BP/PR)→呼吸(RR/SpO2)→体温(BT)の順番に記載すると病態をイメージしやすい。
(15)全身診察:上下・前後,全身性所見の順番で。頭頸部→胸部→背部→腹部→腰部→会陰部→四肢→神経系→筋骨格系→血管系,皮膚系など。
■検査所見……その時点でわかっている検査結果。
(16)検体検査:尿,血算・生化学・凝固・血ガス,感染症検体等
(17)生理検査:心電図(→スパイロ,エコー)等
(18)画像検査:単純Xp→CT等
今回から数回にわたり,「カルテ記載の基本の型」である「SOAP形式」について解説していきます。入院,外来などシチュエーションによって書くべき内容や書式は変わりますが,どんな場面でも守るべき型がこのSOAP形式になります。
SとOをどう区別するか
私たちが普段の診療で何気なく使っている思考形式は,1968年にL. Weedが提唱したProblem Oriented System(POS;問題志向型システム)というもので,このシステムで採用しているカルテ記載法がSOAP形式になります。患者の抱える問題ごとにSOAP(subjective/objective/assessment/plan)に沿って記述することで,複雑な病態を整理して把握できることが特徴です。
ただ,実際の医療現場では「とりあえずSOAPの枠に当てはめて書くだけ」で,内容が混乱しているものもよくみかけます。SOAPの各項目に何を書くかの解釈はさまざまで,「Sは患者のセリフそのまま。医学的に解釈し直した自覚症状も身体所見も検査結果もO」「検診結果を患者の口から聞いた場合はSだけど,検査結果用紙を取り寄せた場合はO」「区別が難しいのでいつもA/Pとまとめて書いている」など独自ルールが横行し,研修医の学習を妨げています。
例えばO欄に記載する身体所見も実は医師の主観を通して観察した所見であり,「Sは主観的情報,Oは客観的所見」という分類では混乱しやすいため,「誰が,いつとったか」という基準で以下のように区別します。
*Sは,「患者や家族,前医などの他人」から収集した,「過去から現在に至る」までの「間接的情報」であり「患者や家族の証言,前医の手紙やカルテに記載された情報」と定義(前医の身体診察所見や検査結果などは過去のものであり,その精度も自らは保障できない間接的な情報であるためSに入れる)。
*Oは,「医師自身や,診察能力を把握している同僚」が取った,「現時点」で「直接観察した所見」であり,「診察時の身体所見と検査所見」と定義。
背伸びせず,RIMEモデルに沿って成長しよう
「早く立派なアセスメント(A)やプラン(P)を書けるようになりたい!」とはやる気持ちもわかりますが,まずは「SとOをきちんと書けること」を最初の目標にしましょう。
医学教育の世界では,「RIME モデル」という研修医の発達段階を表すモデルがあります。
私がかかわってきた研修医もこの段階に沿って順番に成長し,またこのステップを飛ばして先のことを要求してもうまくいかないことが多い印象です。診断推論の根拠となるS・Oをちゃんと把握できていないと,どうしてもアセスメントが突飛なものになったり,プランも穴だらけになったりしがちです。背伸びせず,まずはReporterになってから次に行きましょう。
S・Oを所定の様式で記載すれば,そのまま読み上げるだけでReporterとして最低限の仕事はできます。また所定の様式を埋めることで自動的に聞き忘れに気付き,指導医に突っ込まれる前に追加聴取したり,慣れれば最初から漏れのない病歴聴取ができるようになります。
Sは「導入」「現病歴」「既往歴」「その他」の4つに,Oは「身体所見」と「検査所見」の2つに分けると覚えやすくなります。またこの6項目だけ書けば「必要最低限のカルテ」にはなります。診療する状況や患者の病状に合わせて,上記のように各項目を膨らませたり省略していきますが,詳しくは今後の応用編でじっくり説明していく予定です。
上に挙げた「外来でのカルテ記載例」を参考にしながら,S・Oの各項目の意義や記載すべき情報などを押さえていきましょう。
(つづく)
註:医師の視点で客観的事実を整理するだけでなく,患者の視点や価値観に沿った主観的情報も丁寧に把握することで,より適切な目標設定や患者医師関係構築につながり,効率と満足度を両立させた医療を実践しやすくなります(参考文献:モイラ・スチュワート著『患者中心の医療』診断と治療社)。具体的には「か・き・か・え」アプローチという方法が便利です。
*か(解釈)=今の状況・症状・病状をどういうふうに理解しているか。
*き(期待)=どうなりたいか,もしくは医師に何を望むか。
*か(感情)=どんな気持ちか。
*え(影響)=疾患の日常生活への影響。
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