医学界新聞

連載

2012.08.06

「型」が身につくカルテの書き方

【第2講】 カルテ記載の基本の型 SOAP(1)

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


2985号よりつづく

 「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

 本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


外来でのカルテ記載例

 高血圧・不整脈で治療中だったが,突然発症し増悪する腹痛を訴え受診した78歳男性。(1)

【主訴(2)】腹痛。鎮痛薬の処方希望。

【受診理由(3)】腹痛の原因精査・治療。

【現病歴】後述の併存症で近医定期受診していたが,病状は安定していた。今日は孫の結婚式に出席するためビールを飲みながら新幹線で移動していたが,トイレで排尿中に突然の腹痛が出現した。手持ちの痛み止めを飲み安静にしても改善せず徐々に強くなってきたため次の駅で降り,タクシーで当院救急外来を受診した。(4)

 腹痛は突然発症で,強さは9/10。右季肋部中心で右腰部に放散あり,移動なし,周期性はなく持続痛。背筋を伸ばすと増悪する。初めて経験する痛み。(5)

 嘔気あり・嘔吐なし,排ガスあり・腹部膨満感なし,尿が少し赤かったが排尿痛なし,咳・痰や息切れ,胸痛なし。(6)

 いつものぎっくり腰だと思うので,さっさと座薬を出してラクにしてほしい。(7)

【併存症(8)】高血圧症(15年前に指摘され内服治療中,普段は血圧140/80mmHg程度),不整脈(詳しい病名不明。血液がサラサラになる薬を飲んでいる)。

【既往症(9)】急性腰痛症(3か月前発症し整形外科で座薬処方,2か月前から無症状),左腎結石(経過観察中),手術歴・輸血歴なし,アレルギー歴なし。

【内服薬(10)】エナラプリル5 mg 1×,アムロジピン5 mg 1×,アスピリン腸溶錠100 mg 1×。市販薬などの使用なし。

【家族歴(11)】兄が高血圧,心疾患なし。妻と同居,孫を溺愛。

【生活歴(12)】ビール700 mL/日,喫煙20本/日×60年。

【身体所見】中肉中背だが,痛みで顔をしかめ青い顔で椅子にうずくまっている。(13)

 JCS0・GCS15,BP124/86,PR90・不整,RR26,SpO2 96%(room air),BT36.8。(14)

 頭頸部:結膜蒼白あり,黄染なし。頸静脈怒張なし。胸部:心音不整,過剰心音・心雑音なし。呼吸音正常,ラ音なし。腹部:軽度膨隆,腸蠕動音低下,血管雑音聴取せず。右季肋部で圧痛軽度あり,Murphy sign(-)。右CVAで叩打痛あり。皮疹なし。四肢:浮腫なし,末梢動脈触知良好。(15)

【検査所見】尿:蛋白(++),潜血(+++),白血球(++)。

 血液:血算・肝機能正常範囲,BUN20.1,Cr1.02,電解質正常。(16)

 心電図:心房細動リズム,平均HR100,ST─T変化なし。(17)

 胸部Xp:CTR55%,ほか特記すべき異常なし。(18)

【問題リスト】

 #1.急性右季肋部痛 #2.心房細動 #3.高血圧症

(以下省略。次回以降で扱います)


導入……見通しをよくするため,詳細に入る前にまず全体像と軸を明確にする。
(1)年齢・性別,背景,主訴の4つで全体像を要約する。
(2)患者側の視点で今回の主題を明確にする。基本的に「医学用語」に置き換える。
(3)医師側の視点で今回の診察の目的を明記する。本人が困っていない場合や,本人と周囲の問題意識が異なる場合は特に重要。

現病歴……病気が発生してから現在に至るまでの出来事すべてを記載する。
(4)経過:診断上最も価値の高い「時間経過」を明確にする。医師が知った順番ではなく患者に起きた順番に並び替え,かつイベントの前や間が抜けないように。
(5)症状解析:キーとなる症状の特性を,「痛みのOPQRST」などで詳述。
(6)Review of systems:頭のてっぺんからつま先まで,鑑別にかかわる臓器系に絞って記載する。
(7)ナラティブ:「か・き・か・え」を記載(

既往歴……生まれてから現在に至るまでの,既に確定している疾患の情報を網羅する。基本的には時系列で記載するが,数が多い場合は臓器別・科別に整理したほうが見やすい。
(8)今も活動性のある疾患。病状や治療内容,かかりつけ医なども併記。問題リストに登録され,評価・介入の対象となることが多い。
(9)過去に治癒した疾患。発症時期と治癒時期,後遺症の有無などを併記。輸血歴,アレルギー歴,妊娠・出産歴も忘れずに。主疾患の診断や方針決定の参考となる。
(10)治療内容:医原性の問題を検討しやすくため,併存症・既往症と独立して記載すると有用。
・内服薬:用量・用法も明記。他科や他院の処方薬,市販薬・漢方薬,サプリメントや健康食品も忘れずに。
・手術歴:過去に受けたすべての手術・処置を記載。

その他……その他の背景情報をまとめる。
(11)家族歴:同居家族のほか,重要人物(介護上のキーパーソンや濃厚接触者)も。人間関係も記載すると効果的な問題把握・介入に活かせる(参考文献:S.H.マクダニエル,他著『家族志向のプライマリ・ケア』シュプリンガー・フェアラーク東京)。家族の疾患歴は,疑う疾患によって,血縁者(遺伝性疾患),同居者(生活習慣病),職場の濃厚接触者(感染症)など聞く範囲を広げる。
(12)生活歴
・嗜好品:飲酒・喫煙など。
・生活習慣:食事・運動,排泄状況など。
・社会歴:仕事,交友関係,居住地・家屋など。

身体所見……医療者が,現時点で直接観察した身体診察の結果。
(13)全身状態:パッと見の重篤感・ABCの評価。
(14)バイタル:重症度・病態判断に必須。意識(JCS/GCS)→循環(BP/PR)→呼吸(RR/SpO2)→体温(BT)の順番に記載すると病態をイメージしやすい。
(15)全身診察:上下・前後,全身性所見の...

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