医学界新聞

2012.07.09

Medical Library 書評・新刊案内


不整脈診療レジデントマニュアル

小林 義典,新田 隆 編

《評 者》村川 裕二(帝京大溝口病院内科科長/第四内科教授)

もれなく,かつコンパクトに不整脈診療を詰め込んだ本

 先日,博多で学会があった。書籍販売のコーナーをひとめぐりした。自分が書いた本が目立たないレジ近くの奥に1冊ポツンと置かれているようなら一大事。「これは評判がいい」とつぶやきながら自腹を切って買うつもりでいた。しかし,幸いなことに,人目に触れる「しかるべき場所」に置かれていた。

 安堵しながらふと見渡すと,旧知の小林,新田両先生の編集した『不整脈診療レジデントマニュアル』という本が積まれている。ポケットに入るサイズ。その手軽さに引かれて,うっかり買ってしまった。

 そして10日ほどたった。

 書評を書けと同じ本が送られて来た。

 前もって言ってくれたら,よかったのに……。

 この本はマニュアルではあるが,同時に小さな「臨床不整脈学全般のテキスト」である。日本医大の不整脈一派と,その縁のある東海大学八王子の諸氏が執筆している。

 本をたくさん売るためには読者母集団が広範であることが望ましい。編者は不整脈の診療にかかわる医師以外のスタッフも念頭に置いていると,「はじめに」に書いてある。中身をのぞいて「ほんまかいな」と思ったのだが,もう一度「はじめに」を見直すと,"一定以上の経験を積んだ"看護師,検査技師,うんぬんと書いてあった。さすがに,本書のレベルは専門的治療に携わるスタッフでないとこなせない。私なら,多く売るために誰でも簡単に読み通せるかのごとき誤解は恐れないのだが,正直に"多少は読者を選ぶ"と告げている。

 心電図による心室期外収縮のフォーカスやWPW症候群の副伝導路の部位の推定,ペーシングによる心室頻拍の興奮旋回路の判断など不整脈診療で必要なことは網羅されている。図や表の量が本のサイズとバランスが取れていて良い。

 各章で文献の数に差がある。こうしたコンパクトな本にたくさん文献を並べるのは格好が悪い。

 類書はあるかと問われれば,「ない」と答える。疎漏なく,かつコンパクトに不整脈診療を詰め込んだ本はなかった。

 使えるかと問われれば,「私は使える」と答える。最近,物忘れが激しく,当然知っているべきことも溶けて忘れてしまう。本書は知りたいことにアクセスすることが簡単だ。

 冒頭に略語一覧があるくらいでは驚かないが,「アルゴリズム,鑑別診断,診断基準などの一覧」,「ガイドラインの一覧」,「各種分類,図表の一覧」が載っている。このリストにより本書はタダの小さい本ではなく,本当のマニュアルになった。「入り口がなくて建物に入りにくい」本なら多い。この本は「入り口を作って客を招く」ことを知っている。これは,"ささやかな"工夫ではない。本質的に価値を高めるサービスだ。

 外科治療と心臓リハビリテーションの項は楽しんで読んだ。

 不整脈診療に携わるなら重宝するはずの本だ。

 ただし,2冊手元にあっても,2倍役に立つわけではない。

B6変型・頁432 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01225-6


標準神経病学 第2版

水野 美邦 監修
栗原 照幸,中野 今治 編

《評 者》西澤 正豊(新潟大脳研究所教授・神経内科学)

編者の熱意が随所にあふれた,ユニークで,高度な内容の神経学テキスト

 神経学の代表的なテキストとして,医学生だけでなく,リハビリテーション学生,薬学生にも広く読まれてきた『標準神経病学』が,初版から11年ぶりに改訂されたことをまず歓迎したい。本書の母体となった『神経病学』は田崎義昭・吉田充男両先生の編集によるユニークな,しかも高度な内容を含んだ神経学のテキストとして名高く,当時レジデントであった筆者も愛読していたものである。

 その後継書として,標準シリーズの1冊として出版された本書の初版は,神経学をわかりやすくという視点から,神経系の構造と機能を中枢から説き起こすことを避け,神経系の症状を一番末梢の筋肉から順に末梢神経,中枢神経系にたどるという独創的な編集方針が採用された点で,類書に無いユニークな構成をとっていた。この考え方は,例えば,筋力低下を診て局在診断を考える場合,筋肉から順に中枢にさかのぼって考えるほうが確かに整理しやすく,多くの神経内科医が実践している実際的な方法であろう。

 今回の改訂第2版も,初版の末梢から中枢へという編集方針が踏襲されており,編者の神経学をよりわかりやすくという熱意が随所にあふれた構成となっている。冒頭に置かれたカラーの「臨床に役立つ神経解剖」と病理像は神経病理学への良い入門編となろうし,これに続く各章では,それぞれの分野の専門家が優れた各論を執筆しており,高度な内容が含まれている。特に,大脳基底核の機能に関する記載は詳細で,「ハイパー直接路」が臨床神経学のテキストに登場したのは初めてであろう。脳血管障害の丁寧な解説に続いて,リハビリテーションについて1章が充てられているのも本書の特色である。

 全体を通読してあえて要望するとすれば,大脳基底核に関する記述が目立つ反面,筋萎縮性側索硬化症におけるTDP43をはじめとして,最近解明されつつある神経変性疾患の分子病態に関する新知見にも触れてほしかったこと,『神経学用語集』の改訂第3版が出版されているので,「深部腱反射」などの用語は,次の機会に改訂用語集に従って修正されるよう期待することが挙げられる。また多系統萎縮症の分類や,病的反射としての「Babinski徴候」の記載などは,議論の多い分野だけに,いま少し解説があってもよかったと思われる。

 最近の医学生はテキスト離れが進んでいるが,医学部をはじめとする学生のみならず,神経学の知識を整理したい研修医にも,学生や研修医を指導する立場の専門医・指導医にも,神経学の優れた入門書として,この良書を強く推薦したい。

B5・頁632 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00601-9


帰してはいけない外来患者

前野 哲博,松村 真司 編

《評 者》林 寛之(福井大病院教授・救急医学)

帰してはいけない患者か否か?疑う眼を養うことのできる一冊

 時に研修医からコンサルトを受けて,アドバイスをしたら,「あっ,大丈夫だと思って帰しちゃいました」……(タラー(~_~;))。そこからすったもんだの揚げ句,呼び戻す例,神様に無事を祈る例(オイオイ!)など,さまざまある。「コンサルトって患者を帰す前にするんじゃないの!?」って悲鳴を上げたくなってしまう。

 ここにこんな素敵な本が出版されたではないか。まさしく直球ストレートなタイトル,「そりゃ帰しちゃダメだろ! お前,患者を殺す気か? おととい来やがれ,このタコ!」と言いたいところを,ちょっとだけマイルドに変換して「その患者,帰しちゃったらどんな落とし穴が待ってるのか,わかってて帰す気なの? 勘弁してよぉ」となり,もっとマイルドにすると『帰してはいけない外来患者』というタイトルになったのだろう……そうに違いない……たぶんそうかも(^o^)?

 歩いて来院する患者の0.2-0.7%にはとんでもない重症患者が紛れて...

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