標準神経病学 第2版

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医学生のみならずリハビリテーション学生にも好評を博してきた神経学教科書を11年ぶりに改訂。初版と同様、筋疾患から始まり、末梢神経から中枢神経へたどる構成で、初学者が抵抗なく、かつ順序立てて学習できることを心がけている。第2版では巻頭カラーとして「臨床に役立つ神経解剖」、さらに脳血管障害のリハビリや医療面接法の項目が追加。その他の項目も初版発行時から今日までの神経学の進歩に伴い、大幅に増補。

『標準医学シリーズ 医学書院eテキスト版』は「基礎セット」「臨床セット」「基礎+臨床セット」のいずれかをお選びいただくセット商品です。
各セットは、該当する領域のタイトルをセットにしたもので、すべての標準シリーズがセットになっているわけではございません。
シリーズ 標準医学
監修 水野 美邦
編集 栗原 照幸 / 中野 今治
発行 2012年03月判型:B5頁:632
ISBN 978-4-260-00601-9
定価 7,700円 (本体7,000円+税)

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第2版の序

 神経内科は疾患の数が多く,症状も色々あって,神経系の機能と解剖がわかっていないと整理がつかなくなる傾向がある.しかし,いったん頭の整理がつくと,神経系は理論的にまとまっていて,各疾患もそれぞれの引き出しにさっと収まるようになる.神経系は末梢のほうから大脳のほうに逆にたどっていくと,以下のようになる.

(1)筋肉(障害されると筋萎縮と筋力低下)
(2)神経筋接合部(障害されると易疲労性をきたし,朝より夕方に強く筋力低下の症状がみられ,特に目,口,咽頭,頸部と四肢近位筋を中心に筋脱力がでる)
(3)末梢神経(障害されると運動障害,感覚障害,自律神経障害をきたす)
(4)脊髄(あるレベル以下の運動・感覚障害と膀胱直腸障害がでる)
(5)脳幹(障害されると脳神経麻痺,運動・感覚障害,意識障害,失調症などがみられ,顔は右,体は左というように交代性片麻痺をきたす特徴がある)
(6)小脳〔障害されると手足の運動失調症(ふらつき),小脳性の構音障害(鼻声,言語緩徐,断綴性言語),筋トーヌス低下をきたす〕
(7)大脳〔障害されると運動・感覚障害,失語,失行,失認,視野欠損,認知症,意識障害,てんかん発作など様々な神経症候をきたす.大脳基底核の障害が起きると,Parkinson病や,不随意運動(舞踏病,振戦,バリズムなど)が起こったり,筋トーヌスの異常がみられる.間脳は視床,視床下部,視床上部,視床後部に区分される.視床は体性感覚や視覚,聴覚のリレー中継部位で,大脳基底核や小脳からの信号も視床を介して大脳皮質に送り,運動・感覚の調整をしている.視床下部・下垂体系の障害では,様々の内分泌系の異常(性早熟症,副腎や性腺機能障害,視床下部性甲状腺機能低下症,尿崩症)をきたす.肥満や痩せなどにも関係している.また下垂体腫瘍では,独特な視野欠損(両耳側半盲)をきたすので,部位診断上重要である〕

 これらの順序でそれぞれの部位の症状と所見を知っていれば,神経系の理解がしやすいであろうという企図で,本書は初版のときから,比較的症状が簡単な筋疾患から脳へとさかのぼるような順序で記載されている.
 第2版では各章が最近数年の間にも目覚ましい進歩をとげた内容をそれぞれの分野の専門家が大幅な改訂を行って,新しい知識が盛り込まれた.
 アメリカのレジデントプログラムのなかには,神経病理のローテーションが組まれていて,私は3年目の神経内科レジデントのときに,4か月間神経病理を回り,1日おきに当直をした.朝から晩まで毎日5~8体の剖検をするなかで,まず症例の病歴から臨床経過をreviewしてメモをとり,脳を取り出してホルマリンにつけて固定し,脳が固定されてから毎週brain cuttingをして,臨床経過と照らし合わせながら,マクロとミクロの報告書を書き,神経病理の教授に顕微鏡をはさんで1対1で見てもらって最終的な病理診断を出すという経験をした.およそ500個くらいの脳を見て,脳に触れたり見たり脳刀で切る経験をしているうちに神経解剖も立体的に体得でき,神経内科疾患の概念と実態が自分の頭の中でまとまってきた感じを得た.
 第2版では,幸いにして神経病理を米国で専門的に学んできた共同編者・中野今治教授がマクロの脳の主な疾患を写真に出して,「臨床に役立つ神経解剖」という項を巻頭に加えることにした.あまり細かい神経解剖にはこだわらずに,脳の写真を見ることで大局をつかみ,神経内科疾患の理解を深めることになると考えている.
 その他,神経内科疾患の問診のとり方(医療面接)の章を,栗原が米国でのインターンと神経内科レジデントの経験をふまえて書き加えた.米国での臨床は,厳しいものがあり,問診が不十分であると,何回もとり直しや追加の質問をしてくるように1年上のレジデントから指示され,週3回ある教授回診でも厳しく指導を受ける.神経学的診察は順序よく行えば,取り落としがないように診察をすることができるが,診察の前に行う問診は,患者からよく話を聞いて,鑑別するべき疾患も考慮に入れながら,医師の側からも質問をして,大切な臨床症状の始まり方や経過をよく聞き出す必要がある.そして問診の内容と神経学的診察所見が辻褄があうようでなくてはいけないので,良い問診はかなり疾患の知識をもっている必要がある.医師に対して患者が話しても大丈夫と感じるような雰囲気作りも大切で,良い問診のとり方は芸術的であるともいえる.このように問診と神経学的診察をすることからすべてが始まり,これで80%方の診断の予測をつけることができ,検査や画像は,問診と診察所見を裏づけるものである.最近では生化学,脳波,筋電図,画像検査,遺伝子検査などの著しい進歩によって,検査に頼る医師が多くなっている傾向があるが,問診と診察所見に基づいて検査の計画を立てるのが本来の姿であり,必要な検査に絞り込むことは,患者負担を軽減し,毎年増え続ける医療費を削減するためにも不可欠である.
 本書は,医学部,リハビリテーション学部,薬学部(6年制になって服薬指導や副作用の説明を患者に行うようになっている)の学生をはじめ,初期臨床研修医,神経内科を専門とする後期臨床研修医の方々,神経内科の実際の臨床にあたっている方々にも,知識の整理に役立てていただけると信じる.

 2012年2月
 編者を代表して
 栗原 照幸

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 巻頭カラー 臨床に役立つ神経解剖

第1章 神経学を学ぶ人に
第2章 筋肉疾患
  I.筋肉の形態
  II.筋ジストロフィー
  III.ミトコンドリア病
  IV.糖原病
  V.先天性ミオパチー
  VI.周期性四肢麻痺
  VII.内分泌性・代謝性ミオパチー
  VIII.多発筋炎,皮膚筋炎
  IX.神経筋接合部の形態と機能
  X.神経筋接合部の疾患
第3章 末梢神経疾患
  I.末梢神経の機能解剖
  II.末梢神経障害の病理
  III.末梢神経障害の検査法
  IV.末梢神経障害の分類
  V.遺伝性ニューロパチー
  VI.栄養障害性末梢神経障害-ビタミン欠乏性ニューロパチー
  VII.炎症性ニューロパチー
  VIII.内科疾患に伴うニューロパチー
  IX.単ニューロパチー
第4章 脊髄疾患,脊椎疾患
  I.脊髄の機能解剖
  II.脊髄疾患
  III.脊椎疾患
第5章 脳幹・小脳・大脳の構造・機能と症候
 脳幹の構造・機能と症候
  I.延髄の構造と主な症候群
  II.橋の構造と主な症候群
  III.中脳の構造と主な症候群
 小脳の構造・機能と症候
  I.小脳の形態
  II.小脳の機能
  III.小脳症状
 大脳の構造・機能と症候
  I.視床の構造
  II.視床の機能
  III.視床障害の臨床症候
  IV.視床下部の構造と機能
  V.視床下部障害の臨床症候
  VI.大脳基底核の構造-線維連絡,伝達物質も含めて
  VII.大脳基底核の機能
  VIII.大脳基底核の症状
  IX.大脳基底核障害を起こす疾患
  X.大脳皮質の構造と機能局在
  XI.前頭葉の機能とその障害
  XII.頭頂葉の機能とその障害
  XIII.後頭葉の機能とその障害
  XIV.側頭葉の機能とその障害
  XV.島の機能とその障害
  XVI.大脳辺縁系の機能とその障害
  XVII.大脳白質の構造・機能とその障害
第6章 脳血管障害
 脳血管障害の診断と治療
  I.脳血管障害の定義
  II.脳の血管支配
  III.脳血管障害の分類
  IV.主な脳動脈の閉塞・血流障害とその症候
  V.虚血性脳血管障害
  VI.出血性脳血管障害
  VII.その他の脳血管障害
 脳血管障害のリハビリテーション
第7章 変性疾患
  I.概念と分類
  II.認知症を主とする疾患
  III.パーキンソニズムを主とする疾患
  IV.不随意運動を主とする疾患
  V.脊髄小脳変性症
  VI.運動ニューロン疾患
第8章 神経遺伝学
  I.単一遺伝子疾患と多因子疾患
  II.単一遺伝子疾患-病因遺伝子,病態機序の解明から治療法の確立へ-
  III.多因子疾患(孤発性疾患)へのアプローチ
  IV.遺伝子解析の診療への応用
第9章 先天性代謝異常
  I.脂質代謝異常症
  II.ムコ多糖症
  III.糖蛋白代謝異常症
  IV.アミノ酸代謝異常
  V.その他の代謝異常
第10章 先天性疾患
  I.先天奇形
  II.胎内感染症
  III.周産期脳損傷
  IV.母斑症
第11章 神経感染症
  I.脳炎
  II.髄膜炎
  III.神経梅毒
  IV.脳膿瘍
第12章 脱髄性・非感染性炎症性疾患
  I.脱髄性疾患
  II.非感染性炎症性疾患
第13章 内科疾患に伴う神経障害
  I.肝・腎・肺疾患に伴う神経障害
  II.内分泌疾患に伴う神経障害
  III.ビタミン欠乏症に伴う神経障害
  IV.膠原病に伴う神経障害
  V.血液疾患に伴う神経障害
  VI.悪性腫瘍による神経障害
第14章 中毒性神経疾患
  I.重金属中毒
  II.有機物質中毒
  III.薬物中毒
第15章 脳腫瘍と脊髄腫瘍
  I.脳腫瘍
  II.脊髄腫瘍
第16章 水頭症,本態性頭蓋内圧亢進
  I.水頭症
  II.本態性頭蓋内圧亢進
第17章 頭部外傷,脊髄外傷
  I.頭部外傷
  II.脊髄外傷
第18章 機能性疾患
  I.てんかん
  II.頭痛
  III.めまい
第19章 医療面接(問診のとり方):history taking
第20章 診断学
  I.神経学的診察の進め方
  II.精神状態
  III.高次脳機能
  IV.脳神経
  V.運動機能
  VI.反射機能
  VII.感覚機能
  VIII.髄膜刺激症候
  IX.自律神経系
第21章 検査法
  I.脳脊髄液
  II.神経放射線学的検査
  III.電気生理学的検査

 和文索引
 欧文索引

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神経内科の専門医の座右の書としても活用できる内容
書評者: 岩田 誠 (女子医大名誉教授/メディカルクリニック柿の木坂・院長)
 これは,極めて便利な書物である。帯には,学生のための神経内科の教科書,と書いてはあるが,どうして,どうして,この書物に書かれている内容は相当に高度であり,研修医どころか,神経内科の専門医の座右の書としても,十分に活用できる内容である。しかも,高度な内容が実に要領よく,わかりやすく説明されているので,学生が読んだとしても,十分に内容を把握していくことができよう。それにしても,よくまあ,これだけの内容の濃い書物を,五百数十ページにまとめられたものと,感心するのである。

 評者が特に感心したのは,この書物の5分の1が,筋肉と末梢神経の病気の記述に当てられていることである。神経系の病気を取り扱う科としては,神経内科のほかに,脳神経外科,整形外科,そして精神医学があり,多くの神経系疾患は,これらのうちの複数の科における共通の診療対象である。しかし,筋肉疾患と末梢神経障害とは,それらのほとんどが神経内科の独壇場である。そこに大きく焦点を当てた編集方針は,極めて的を射たものとして,評者の共感を呼ぶ。

 この書物のもう一つの魅力は,巻頭に示された,脳解剖と脳病理のカラー写真,そして所々にちりばめられた,電気生理学検査の手技や所見に関する記載である。神経疾患の日常診療においては,電気生理学検査を神経学的診察の一部として利用していかねばならないとする著者らの想いが,ひしひしと伝わってくるのを感じる。この想いには,実は1世紀以上にわたる歴史がある。そろそろ出版後100年を迎えるDejerineの症候学の教科書『神経系疾患の症候学(Sémiologie des Affections du Système Nerveux)』においても,当時まだ未発達であったとはいえ,電気生理学的検査と脊髄液検査は,症候学の一部として取り込まれている。何もハンマーをふるうだけが症候学ではないということは,1世紀も前から主張されてきたことなのである。神経症候学の裾野の幅広さを知る上でも,本書の存在は心強い。

 ここであえて難点を挙げるとすれば,いくつかの説明図における明らかな誤りである。図1-1では,下行性運動路の内包における体部位局在が前後逆になっているために,皮質核路線維が脊髄にまで達しているように描かれてしまっているし,図1-2では薄核の位置が違っている。また,図5-1で示された滑車神経の走行も間違っている。また,図5-18の“Mollaretの三角”なる神経回路の描き方も,Mollaretの母国フランスにおける今日一般の概念とは大きく異なっている。これらの間違いは些細なことではあるが,何も知らずに本書物に接する初心者にとっては,生涯にわたる重大な影響を及ぼすものであるので,再版される際にはぜひ修正されるべきであろう。

 さて,評者の下には,かつて中国からの留学生が多かった。日本語をよくする彼らは,日本語で書かれた神経疾患の教科書を強く求めていた。この書物を読み終えた今,評者は,「今ここに新しく良書有り」と,今は母国に戻っている彼らに伝えて,この書物を薦めたいと思っている。

※図1-1,図1-2,図5-1,図5-18の正しい図は正誤表のページからご覧ください。
編者の熱意が随所にあふれた,ユニークで,高度な内容の神経学テキスト
書評者: 西澤 正豊 (新潟大脳研究所教授・神経内科学)
 神経学の代表的なテキストとして,医学生だけでなく,リハビリテーション学生,薬学生にも広く読まれてきた『標準神経病学』が,初版から11年ぶりに改訂されたことをまず歓迎したい。本書の母体となった『神経病学』は田崎義昭・吉田充男両先生の編集になるユニークな,しかも高度な内容を含んだ神経学のテキストとして名高く,当時レジデントであった筆者も愛読していたものである。

 その後継書として,標準シリーズの1冊として出版された本書の初版は,神経学をわかりやすくという視点から,神経系の構造と機能を中枢から説き起こすことを避け,神経系の症状を一番末梢の筋肉から順に末梢神経,中枢神経系にたどるという独創的な編集方針が採用された点で,類書に無いユニークな構成をとっていた。この考え方は,例えば,筋力低下を診て局在診断を考える場合,筋肉から順に中枢にさかのぼって考えるほうが確かに整理しやすく,多くの神経内科医が実践している実際的な方法であろう。

 今回の改訂第2版も,初版の末梢から中枢へという編集方針が踏襲されており,編者の神経学をよりわかりやすくという熱意が随所にあふれた構成となっている。冒頭に置かれたカラーの「臨床に役立つ神経解剖」と病理像は神経病理学への良い入門編となろうし,これに続く各章では,それぞれの分野の専門家が優れた各論を執筆しており,高度な内容が含まれている。特に,大脳基底核の機能に関する記載は詳細で,「ハイパー直接路」が臨床神経学のテキストに登場したのは初めてであろう。脳血管障害の丁寧な解説に続いて,リハビリテーションについて1章が充てられているのも本書の特色である。

 全体を通読してあえて要望するとすれば,大脳基底核に関する記述が目立つ反面,筋萎縮性側索硬化症におけるTDP43をはじめとして,最近解明されつつある神経変性疾患の分子病態に関する新知見にも触れてほしかったこと,『神経学用語集』の改訂第3版が出版されているので,「深部腱反射」などの用語は,次の機会に改訂用語集に従って修正されるよう期待することが挙げられる。また多系統萎縮症の分類や,病的反射としての「Babinski徴候」の記載などは,議論の多い分野だけに,いま少し解説があってもよかったと思われる。

 最近の医学生はテキスト離れが進んでいるが,医学部をはじめとする学生のみならず,神経学の知識を整理したい研修医にも,学生や研修医を指導する立場の専門医・指導医にも,神経学の優れた入門書として,この良書を強く推薦したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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