医学界新聞

2012.06.18

第108回日本精神神経学会開催


 第108回日本精神神経学会が5月24-26日,札幌コンベンションセンター(札幌市)他にて齋藤利和会長(札医大)のもと開催された。「新たなる連携と統合――多様な精神医学・医療の展開を求めて」をテーマに掲げた今回は,注目を集める発達障害やひきこもり関連の演題が多く設定され,疾患横断的な視点から議論が展開された。


齋藤利和会長
 パーソナリティ障害(Personality Disorder:PD)は,行動や考え方が周囲になじまず,社会生活をスムーズに送れない状態を指す。シンポジウム「パーソナリティ障害の臨床」(司会=慈恵医大・中山和彦氏,三田精神療法研究所・牛島定信氏)では,近年医療者以外からも高い関心を集めるPDについて,臨床の視点からその概念をあらためて定義すべく,4人の演者が登壇した。

パーソナリティ障害を再定義

 まず牛島氏が,表出している精神・身体症状だけでなく,背後にあるパーソナリティの問題に着目することが臨床現場では必要と強調。双極II型障害,アスペルガー症候群との鑑別も含め,臨床的にPDの概念を抽出する時期に来ていると述べた。また,1980年,DSM-IIIにより"自己愛的"で"第3者的視点に乏しい"境界性パーソナリティ障害(BPD)の臨床像が明確に示されたことを評価。ただし,時代の推移とともにPDにも多様な類型がみられるようになり,現状の診断基準は古典的に過ぎると指摘した。2013年改定のDSM-5では,PDは5類型(統合失調症型・反社会性・境界性・回避性・強迫性)が予定されているというが,氏は,DSM-IVから引き続き"演技性"の類型を残すことと,新たに循環気質も加えることを提言した。

 川谷大治氏(川谷医院)は,治療成績や社会適応の観点などからBPDを「退行型」と「発達停滞型」の2つに分類し,前者は寛解後速やかに社会復帰できるのに対し,後者は復帰が困難と指摘。その理由として,恥や失敗を恐れる心情とともに,「精神的な死」を挙げた。「精神的な死」は,過剰睡眠やだるさなど非定型うつ病に似た心理的特徴,空虚・無気力など統合失調症の陰性症状に似た精神的特徴に加え,それらの打開策としての飲酒や喧嘩など,双極II型障害に通じる行動的特徴を持つという。氏は,「精神的な死」の克服こそが治療の要点だと述べた。

 BPDと双極性障害(BD)の関連については阿部隆明氏(自治医大)が口演。氏は,DSM-IVに基づいたBPDの診断基準と気分障害の諸症状との類似,およびBPD様の症状を呈するBDの増加が,BDとBPDをめぐる議論を活発化させていると分析。こうしたBDの増加には,社会の価値観の変化や抗うつ薬の広範な普及が影響している可能性も示唆した。ただ本来のBPDは,情動不安定性という点でBDと共通するものの,双極スペクトラムに含まれる確たる論拠はないという。若年発症の双極II型障害や気分循環性気質など,軽微な躁的因子を内包する病態でBPD症状が出現しやすいとして,鑑別に当たっては発達歴・生活史などに注意を払うよう促した。

 最後に増子博文氏(福島医大)が,成人の発達障害の視点からPDを論じた。同大整形外科とのリエゾン活動の一環として,慢性腰痛などの患者にPDのスクリーニングを行ったところ,発達障害が高率で抽出されたという。一方,成人の注意欠陥・多動性障害(ADHD)のスクリーニングで意図せずPDが高率で抽出された経験も披歴。経過を追って複数の精神科医が行動観察を行うことで,併存診断率も上がる可能性を示した。さらに先行研究では,アスペルガー症候群と,シゾイド・回避性・強迫性PDとの併存,ADHDとBPDとの併存が主に報告されていることを紹介した。

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