「急に腰が痛くなって……」(前野哲博,小曽根早知子)
連載
2012.05.14
外来診療
次の一手
【第2回】「急に腰が痛くなって……」
前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆
(2973号よりつづく)
本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。
【症例】Sさん 45歳男性見るからにつらそうな表情で入室してきた。 Sさん 「1時間前に急に腰が痛くなって……,いてて!」
バイタルサイン:体温36.7℃,血圧168/90 mmHg,脈拍数88回/分(整)。 ⇒次の一手は? |
■読み取る
この病歴から言えることは?
45歳男性の腰痛の症例である。45歳だと,心血管疾患,悪性疾患があってもおかしくはない年齢だ。「荷物を取ろうとした瞬間」ということから,突然発症であろう。突然発症と言えば,病態生理からは,管(血管のほか尿管・胆管など)が詰まった,破れた,は外せない。筋骨格系でも,骨折,断裂,ヘルニアなど,何かが物理的に破壊された病態を考える。
■考える
鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?
「本命=急性腰痛症(ぎっくり腰)」。何といっても頻度が高い。明らかな受傷機転がなくても突然起こりうることから,「魔女の一撃」とも言われるのがこれである。「対抗=尿管結石」,さらに大穴として「大動脈解離」を挙げたい。突然発症で激しい痛みである点はいずれも合致する。大動脈解離は本命・対抗に比べれば頻度は低いが,致死的な疾患であり絶対に見逃せない。「圧迫骨折」を起こすには年齢的にまだ若く,「骨転移」も頻度は低い。神経症状がなければ緊急性は低いだろう。
■作戦
ズバッと診断に迫るために,次の一手は?
「安静時に痛みはありますか?」「下肢に症状はありますか?」
尿管結石・大動脈解離などの筋骨格系以外の疾患は,安静時にも痛みがあり,痛みが体動で大きく変化することはない。安静時痛がなく,痛みが体動時のみに限定されれば,腰痛の原因は筋骨格系にあると断言できる。
腰痛の原因となる筋骨格系疾患のうち,大部分を占める「本命」の急性腰痛症は,通常2週間以内に改善する。筋骨格系で見逃せない疾患は,病的な圧迫骨折や転移性骨腫瘍などであるが,下肢に神経症状がなければ緊急性は高くないと判断し,まずは2週間待つ。これで改善すれば急性腰痛症である。2週間待って改善しなければ,あらためて画像診断を含む精査を始める。
つまり,腰痛患者で上記2つの質問への答えがいずれも「いいえ」であれば,まずは2週間対症療法で経過を見ることができる。
その後
患者には安静時痛,下肢神経症状ともになく,急性腰痛症の診断で帰宅となった。翌日には何とか歩行できるようになり,3日後には仕事に行くこともできたとのことだった。
■POINT
急性発症の腰痛では,「安静時痛」「下肢神経症状」の有無を確認しよう!
(つづく)
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