医学界新聞

連載

2012.05.28

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第20回】急変時(3)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

処置後の急変

(7)各種処置を行った後に,予想される急変は?
 CVC:        (呼吸困難)
         (局所の問題)
 胸腔ドレーン留置:    (全身の問題)
     (呼吸困難)
 初日に    が多いのはある程度仕方がない
 各種カテーテル:    

急変時全般

(8)急変時にはまず    が大事。院内コールのかけ方は覚えていますか?

(9)急変時に,連携よく物品を集めるためには?

(10)急変時に医師にプレゼンテーションするコツは?
 ・まず相手の    をつかむ
 ・    を先に言う
 ・キーワードをうまくまぜる:例)        

(11)地味かもしれないが,急変時に    は極めて重要である。手があいていれば積極的に行い,可能であれば    も読み上げる。

(12)    対応を行うことも重要。連絡だけでなく,現場に入ってもらうときにも工夫が必要である。

(13)来院した家族が「何かいつもと違う」と言ったときは【いつも通りに対応・いつも以上に注意】する。

(14)BLSやAEDの使い方はわかりますか?
 BLS【自信ある・自信ない】/AED【使える・使えない】。AEDは購入したら終わりではなく,購入した時点で適切に使用する責任が生じるため,使い方を正しく理解する必要がある。

★あなたの理解度は? RIMEモデルでチェック!
 R   +I   +M   +E   =100
 Reporter(報告できる)/Interpreter(解釈できる)/Manager(対応できる)/Educator(教育できる)

※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

「急変時の対応」の小テストは,今回がラストとなります。

処置後の急変

(7)"CVC"が何を意味するか,覚えていますか(連載第15回,2957号)? CR-BSI(カテーテル関連血流感染)の予防という観点では,鼠径部からの留置は原則として避け,内頸静脈,もしくは鎖骨下静脈からのアプローチが一般的だと思います。

 問題はその合併症ですが,CVC処置後の呼吸困難には二パターンあります。一つは合併症としての気胸で,鎖骨下静脈からのアプローチの場合,その可能性は十分あり得ます。もう一つは血腫による気道の圧迫(特に両側穿刺後)ですが,通常は穿刺前に出血傾向などを確認していると思いますし,頻度は低いはずです。各種カテーテルに共通する局所の単純な腫脹なら問題ないでしょうが,患者さんが呼吸苦を訴えるなら注意が必要です。

 頻回の穿刺が合併症のリスクを上昇させることは知られていますが,重要なのはそれをどう抑制するかです。ベテランの医師でも致命的な合併症を起こし訴訟に発展している現実もありますが,若手の看護師さんがベテラン医師に「先生,もう三回以上刺してますよ」なんてなかなか言えないですよね。

 また,CVCの適応やスタンダードプリコーションの遵守も重要課題です。医療者間のヒエラルキーは単純に解決できる問題ではありませんが,医療安全の観点から,意見を言いやすい職場の雰囲気作りに努めたり,医師のスタンダードプリコーション・複数回穿刺について,看護師に指摘できる権限を与えることも必要かもしれません。

 CVCに関しては,独自に認定制度に取り組んだり,合併症のリスクを減じるべくエコーガイド下穿刺,シミュレーション実習を取り入れている施設もあるかと思います。手技を行う医師の判断力も重要ですが,施設ぐるみで医療安全管理に取り組む姿勢も大切です(連載第15回)。

 胸腔ドレナージの適応や,用いるべきデバイスは,連載第16回(2962号)に記載しました。なお胸腔穿刺時に,合併症として血胸があり得ます。CVCの鎖骨下動脈誤穿刺とも共通しますが,緊急の外科的処置が必要な場合の院内ルールは確認が必要です。緊急の場合を含め,時間外や休日に処置を行うと,対応が難しいことは容易に想像がつきますね。

 大量の胸水に対し,ドレナージを行う際に生じ得る合併症としては,再膨張性肺水腫があります。一日の排液量が多いと発生する可能性が高いので,気をつけましょう。咳嗽や呼吸困難の出現にも注意してください。初日はドレーン周囲からの漏液が見られるかもしれません(連載第16回)

急変時全般

(8)前回(2975号)にも記載しましたが,急変時にはとにかく人を呼ぶことが大事です。

(9)救急室なら物品はそろっていると思いますが,病棟での急変の場合は連携よく物品を集めることも重要です。日本救急医学会のICLSコースを受講された方はおわかりでしょうが,必要な物品,例えば「救急カートと酸素とモニター付き除細動器(もしくはAED)を持ってきて」とスムーズに伝達するのは意外と難しく,「"あれ"持ってきて」で伝わる文化を育む必要があります。となると,急変時対応のトレーニングを施設内でやっているかどうか,ですね。

(10)医師へのプレゼンテーションはなかなか難しいものです。医師に現場に駆けつけてもらうコツは,相手の弱みを握る……否,相手の心をつかむことです。大人のマナーとして当たり前のことですが,自分自身の名前を名乗った上で「今,よろしいでしょうか?」「○○なときにすみません」という一言は必須です。

 通常のプレゼンテーションのように順を追って話していると「結局何が言いたいの?」となるので,まず要件を言うことが求められます。この際,診断名や適応など,コンサルトされた側が決めるべき事項を言ってはいけません。が,ピンとくるキーワードを織り交ぜることは重要です。例えば「胸が痛い方が……」より「心筋梗塞疑いの人が……」と言われたほうが,医師はピンときます。「CPAです!」でのんびり現れる医師がいたら問題ですよね。

 ただ,毎回きわどいキーワードを使ってプレゼンしながら"空振り"ばかりだと,ちょっと信用してもらえなくなるかもしれませんね(これは,研修医に対してよく話していることです)。

(11)急変時は多くの場合,手が足りず忙しいものですが,もし余裕があればぜひ記録を付けてください。実際,胸骨圧迫心臓マッサージより記録のほうが楽ですし。なんて言っていると叱られるかもしれませんが……。加えて,時刻を読み上げることも重要です。現場にある時計の時刻が統一されていないこともありますので「私の時計で○時○分です」という表現を使うとよいかもしれません。薬剤投与のタイミングをみるためにも「○分に◇◇投与」「◇◇投与から○分経ちました」といった声は,急変時対応の医療スタッフにとってありがたいものです。

(12)急変対応中に,蘇生チームが現場に集中してしまい,患者家族への対応が手薄にならないよう,気をつけたいところです。蘇生チームの方針によっては,蘇生現場を家族に見てもらう場合もあるかと思いますので,チームのリーダーに確認を取ってみてもよいかもしれません。

 院外から駆けつけた場合も含め,家族が蘇生現場に立ち入るとき,現場があまりに乱れていたり,私語を交えつつ蘇生処置を行っていたりするのは,印象がよいものではありません。そうしたことも考慮に入れて,「今から家族さんに入ってもらいます」という一言があるとベターだと思います。

(13)患者家族の一言はいろいろな意味で重要です。「いつもと違う」と言われたら,医療者が気が付かない変化をとらえているかもしれないので,慎重に対応しましょう。普段あまり来院しない家族からの発言だと「いつも来ていないのに……」という思いが態度に出そうになるかもしれませんが,もし何かあったら問題になります。

 ただ一方で,アポイントなしで週末や夜間に来て,当然のように病状説明を求めるのがさすがにルール違反であることは,家族の方にも認識してもらいたいものです。

(14)皆さんの施設では,BLS/AEDのトレーニングはどのように行っていますか? いつ,どのくらいの頻度でトレーニングがありますか? 院内に,使い方を指導できる医師・看護師さんなどがいますか? 

 システムが整っていない場合,院外のOff the job trainingコースの受講を検討する必要があるかもしれません。また地域によっては,コースの開催頻度自体が低いかもしれません。「機械を購入した」=「適切に使えなければならない」と意識し,適切なBLSからAEDの使用につなげられるように意識したいものです。その意識は,基本的には施設内の全医療従事者に求められるものだと思いますので,そのためのトレーニングなどの取り組みを,施設で支援してもらえるとよいですね。

 さて,この小テストもあと1領域を残すのみとなりました。もう少し頑張っていきましょう!

つづく

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