MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.04.23
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
澁谷 智子 編著
《評 者》信田 さよ子(原宿カウンセリングセンター所長)
世界の中心で,女って大変。と叫ぶ
本書は6人の看護師たちと,医師,研究者,作家の計10人の女性による率直な体験記である。本書のタイトルを最初に目にしたときはわが目を疑った。当たり前のことじゃない? 何を今さら,と思ったからだ。私自身,1970年代半ばから今日までの約40年間,そう感じなかったときのほうが少なかった。ところが読み進むと意外や意外,けっこう読みでがあり内容は濃い。私の体験と共振するところもあり,読み終わってぐったりしたほどだ。興味深いのは,著者たちのタイトルに対する反応。「男だって大変だし,この私の大変さが女だからだと言い切るのは……」といった留保があちらこちらに表明されている。少しこれについて考えてみよう。
◆それでも「女って大変」と言えない世界
70年代から80年代にかけては専業主婦率が高く,結果的に性別役割分業(男は外で仕事,女は家事育児)が一般的だった。あえて仕事を持つ女性は,よほどの貧困か,さもなくば女性解放の覚悟を持つ人と見なされた。まして子どもを預けて働くことは,血も涙もないという指弾を覚悟しなければならなかった。働く女性も専業主婦も,当時は文字どおり「女って大変」だったのだ。しかしながら,第二波フェミニズムの勃興期の勢いがそれを後押ししたため,子どもを預けて働くことにはどこかパイオニア的使命感があり,それが大変さをやり抜くエネルギーにもなっていた。
その後,男女雇用機会均等法や男女共同参画法の制定を経て,90年代から主流になっていったのが,表向きの男女平等と自己選択・自己責任論であった。女だからという理由で言い訳をすることは卑怯なこととなり,男も女もなく自分の責任に帰せられることが増えた。もちろん働く女性の割合は70年代に比べると飛躍的に増加したが,その裏側で進行したのが「新性別役割分業」である。男性も家事を分担するかに見えて,実は女性が仕事と家事の二重労働を背負うこととなったのだ。本書でも夫の存在はほとんど見えず,仕事ができる女性ほど家族へのケアと仕事の板ばさみになっていることがリアルに描かれている。これほど過酷な二重の負担を背負いながら,それでも「女って大変」となかなか言えない留保・ためらいの存在を明らかにしたところにこそ,本書の生まれた意義がある。
◆「女って大変」がタブーだった女性主流の職場
もうひとつのポイントは,本書が,雑誌『精神看護』に掲載時に大きな反響を呼んだ企画を母体として生まれたという点にある。看護職は女性主流の資格として働く女性の先駆者を多く生み出してきたが,フェミニズムが届くのがなぜか遅い職種でもあった。著者の一人がいみじくも述べているが,看護とは性差別がはっきりしている現場なのだという。そうであれば,「女って大変」という言葉は「それを言っちゃおしまいよ」として退けられてきたのかもしれない。職場の同僚が女性ばかりであることは,時にジェンダー構造を見えなくすることもある。家族との葛藤も「誰もが経験することなんだから」と扱われるかもしれない。だからこそ,「女って大変」と堂々と掲載されたことが新鮮な驚きとともに反響を呼んだのだろう。上述の見せかけの男女平等ゆえに,女であることを理由にできない留保とは異なり,女性主導の職場であるがゆえに半ばタブー化された言葉が「女って大変」だったのだろう。
長引く不況下「男だって大変」という現実が生まれたが,年収の男女差は縮まらず,育児や介護といった家族内ケア役割は相変わらず女性に期待され続けている。本書を読んで,事態が70年代とそれほど変わってはいないことにショックを受けた私だが,にもかかわらず本書のタイトルを口にすることへのためらいやタブー視が,この本の存在意義を際立たせている。
とにかく,世界の中心で「女って大変」と叫んでみよう,それを誰も責めることはできない。大声で叫ぶことで変わっていくものがあるはずだ。そう思わせるだけの迫力に,本書は満ちている。
(『精神看護』15巻2号,2012年3月号掲載)
四六・頁266 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01484-7


フィジカルアセスメント ガイドブック
目と手と耳でここまでわかる 第2版
山内 豊明 著
《評 者》高階 經和(臨床心臓病学教育研究会理事長/高階国際クリニック院長)
フィジカルイグザミネーションを通してフィジカルアセスメントをどう捉えるか
このたび,山内豊明先生の『フィジカルアセスメント ガイドブック 第2版』を一読した印象は,素晴らしいの一語に尽きる。
初版の『フィジカルアセスメント ガイドブック』(医学書院,2005)の出版に際して,先生のご講演を聴く機会に恵まれた。先生は日本の内科医師であり,またアメリカの看護師としての資格を取得され,看護大学院を卒業された日本ではただ一人の稀有なマイスターである。その経歴に裏打ちされた豊富な知識と,そして何よりも先生のソフトで卓越した経験を通した語り口に魅了された。
今回の第2版は装丁も新たに,第1版よりも実にシンプルでスマートである。内容はPart 1の症状・徴候からのアセスメント(総論),そしてPart 2の身体機能別のアセスメント(各論)の2つに大別されているが,何よりも山内先生の「フィジカルアセスメント」と「フィジカルイグザミネーション」の違いについての考え方が明確に示されている点が,従来の医師だけの目線で書かれた教科書との大きな違いである。そして「生きている」ことと「生きていく」ことの意味をさり気なく定義しておられることを私は高く評価したい。
Part 2では,基本技術から始まり,人間が生きていく上で最も大切な呼吸系,循環系を最初に取り上げられ,そして消化系,感覚系,運動系,中枢神経系と人体が生理的にバランスのとれた健常状態から,各系統の疾患によって,身体所見がどう変わっていくかを克明にHow,Why,Check,Memoなどのコラムの形でまとめられた読者への細かな配慮は,心憎いほどである。
私が1972年に提唱した医療概念として『臨床における三つの言葉』がある。第一の言葉は「日常語」,第二の言葉が「身体語」,そして第三の言葉が「臓器語」である。医師のみならず,医療に携わる者すべてが理解し,マスターして欲しいと考えていた。この三つの言葉の意味が,本書では表現を変えて見事に描かれていることに少なからず驚かされた。医師と患者が対等の立場でコミュニケーションができなければ,真の医療はない。
長年,敬愛する山内豊明先生を知るものとして,私は今回の『フィジカルアセスメント ガイドブック 第2版』の出版に改めて敬意を表するとともに,看護師のみならず,広く医療関係者にも読まれることをお薦めする次第である。
B5・頁224 定価2,520円(税5%込)医学書院...
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