医学界新聞

2012.04.09

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


産婦人科ベッドサイドマニュアル 第6版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》吉村 泰典(慶大教授・産婦人科学)

心憎い配慮で,病態の包括的理解と実践的医療の問題解決能力の陶冶に資する良書

 われわれが専攻する産婦人科学は,生殖医学,周産期医学,婦人科腫瘍学,さらには女性のプライマリ・ケアのそれぞれの専門分化が推奨されるほどその範囲は広く,女性の生涯を通じてその健康に奉仕する女性医学としての性格を有するようになってきている。どの学問においても分化と統合は常に必要であり,教育においては方法論的に産科学そして婦人科学として器官別に細分化して論ずるよりは,産婦人科学は女性の生態学,病態学として大きくとらえられるべきである。

 医師は日々の臨床において,症例から多くのことを学ぶ。臨床医は症例から学ぶだけではなく,その診療の基盤となる科学的エビデンスに注目し,臨床に当たらなければならない。日常診療においてもいずれの領域であっても高いエビデンスに基づいた診療が要求され,治療の標準化が叫ばれ,診療の指針となるガイドライン作りが盛んに行われるようになってきている。すでに日本産科婦人科学会においても,「診療ガイドライン」が『産科編2011』『婦人科外来編2011』それに『ホルモン補充療法ガイドライン2009』として刊行されている。日進月歩する産婦人科医療においては,患者の予後改善に寄与する可能性のある新知見が見いだされ,それに伴う新技術も陸続と開発されていることより,これらガイドラインは3年ごとに改訂されることになっている。

 このたび,徳島大学前学長・青野敏博先生,同大学院産科婦人科分野教授・苛原稔先生により,『産婦人科ベッドサイドマニュアル第6版』が上梓された。両先生のご編集の下,徳島大学医学部産科婦人科学教室の先生方の総力を結集して編纂されている。本書は1991年に初版が発刊され,以来21年にわたり産婦人科学の代表的な診療マニュアルとして揺るぎない評価を受けている。今回の改訂においては,内容の大幅な見直しによる項目の改廃,新しい検査法や治療法など,さまざまな診療ガイドラインに準拠する形で,2006年度版を改稿したものである。

 本マニュアルは外来診療時や病棟のベッドサイドで直ちに利用できるようにコンパクトにまとめられている。内容も文章の羅列による教科書的な記述を避け,極めて明快に論述されており,また適応や管理のアルゴリズムがフローチャートで記されていることも特徴である。治療に使用する薬剤は実地臨床に役立つように商品名も記載されており,心憎い配慮が読み取れる。各分野の病態の包括的理解を容易にし,かつ医療の実践に向けての問題解決能力の陶冶に資するよう意を尽くされている。本書はまさにこのような趣意で草されたもので,類書を見ない。

 初期研修医はもちろん,産婦人科専攻医,実地医家の先生方のほか,助産師や産婦人科看護師の方々にも,clinical expertiseを高める意味でぜひとも本書の活用を祈ってやまない。

B6変・頁592 定価6,930円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01064-1


WHOをゆく
感染症との闘いを超えて

尾身 茂 著

《評 者》高久 史麿(日本医学会長)

本書が,多くの医学生,若い医師の人生の指針となることを期待する

 医学書院から,尾身茂教授が刊行された『WHOをゆく――感染症との闘いを超えて』の書評を依頼された。

 尾身教授は自治医科大学の1期生である。新設の医科大学の1期生には開拓精神の旺盛な元気な学生が多かったが,自治医科大学の1期生も例外ではなかった。自治医科大学の場合,卒業生は各県に戻り,離島・へき地の医療に従事するという,世界に例を見ない新しい試みであったから,特に威勢のいい1期生が多かったと思う。

 私は開学時から10年間教授として学生を教えたので,多くの1期生のことを憶えているが,尾身教授についてはご本人には失礼であるが,あまり記憶に残っていない。恐らく尾身教授が学外活動にもっぱらエネルギーを注いで,私の授業やゼミにあまり顔を出されなかったからであろう。

 しかしWHOに行き,マニラに勤務されるようになってからの尾身教授の活躍には,目を見張るものがあった。本書『WHOをゆく』に詳しく書かれているように,アジア西太平洋地区のポリオの根絶は,尾身教授の努力なくしては成り立たなかったと言っても決して過言ではない。その活躍のせいもあって,尾身教授はWHOの西太平洋地区の事務局長になられた。私は自治医科大学の学長になってから毎年6年生に最終講義を行い,卒業生の国内外の活動について紹介しているが,その際必ず尾身教授がWHOの西太平洋地区の事務局長として活躍しておられることを話した。医学生の中には国際医療協力に興味を持つ者が多いが,自治医科大学の学生の中にも義務年限終了後,国際医療に貢献する事を希望している者が少なくない。私が知っている限りでも,現在UNICEFのソマリア支援センターで働いている11期生の国井修医師などがその良い例である。尾身教授は国際医療で活躍する医師のロールモデルであった。本書では,尾身教授が事務局長になられた後に起こったSARS制圧対策,鳥インフルエンザ対策についても詳しく述べられている。

 また,本書で尾身教授はWHOにおけるご自身の活動報告のほかに,「リーダーシップ論」,「日本の医療と社会を考える」「健康と文明」についてのご自身の見解を述べられ,最後に「若者へのメッセージ」でもって締めくくられている。私は本書が,多くの医学生,若い医師によって読まれ,彼・彼女らの人生の指針となることを強く期待している。

A5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01427-4


総合診療・感染症科マニュアル

八重樫 牧人,岩田 健太郎 監修
亀田総合病院 編

《評 者》川島 篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)

コンパクトな中に内容の詰まった心強いマニュアル

 「総合診療・感染症科,えっ? こんな科あるの?」

 日本の医療界ではあり得る発言かもしれない。ただ,外来などでの診断アプローチや,医療を行う上での“総合診療”的なマインド,“感染症”(発熱)診療は,常に臨床医の周りにあるべきものである。亀田総合病院と環境は異なると思うが,地方都市でみられるような医療崩壊の解決策には総合診療が大きな鍵になることを,医療行政や病院幹部などを含め多くの人が気付き始めている。

 地域基幹病院での総合内科医(Hospitalist)として勤務を続ける自分自身は,総合内科の一つの軸(もしくはSubspecialty)として,感染症診療は必須だと思っており,今回まさにドンピシャの本が出たものだと思い,読み始めた。

 「序」を読み始めた途端,いきなりワクワクしてきた。「米国標準+α」という表現に加えて,「日本で実践するために知らなければいけない」ことに本の存在意義をおいている監修の八重樫先生の気持ちが伝わってくる。

 目次を見ると,各臓器別の疾患論に入る前の項目に圧倒される。「患者ケアの目標設定」や「屋根瓦式・チーム医療」などでは,普段言いにくいこと・気付きにくいことが,岩田・八重樫節で熱く語られている。さまざまな場や状況で患者さんを診ることが求められるジェネラリストにとっては必読の,外来診療/在宅診療や高齢者医療・疼痛緩和などの原則論が続く。

 終盤の「ヘルスメンテナンス(健康増進と予防)」「女性/男性の健康」などの項目を,“亀田”のもう1つの顔である家庭医療の先生方がまとめあげられていることも特筆すべき事項である。病院勤務医が忘れてしまう可能性のある項目が,漏れなく記載されている。この序盤・終盤で全ページの3分の1弱を占めているが,ここには全臨床医に伝えたいメッセージが満載である。

 疾患の部分に関しては,どの部分を厚く,どの部分を薄くするか,悩まれたのではないかと思う。主要臓器疾患を外すわけにはいかないが,深過ぎては紙面が足らない。必須な部分を厳選し,アルゴリズムや図表を整理,工夫してまとめている。また総合診療の軸になり得る感染症診療やリウマチ・膠原病(“極上の亀田ブランド”?)が厚く(写真も多彩),しかも「米国標準+α」を基に記載されているのが心強い。また入院診療で必ず遭遇する皮膚・精神の分野もコンパクトに記載されており,診療の幅が膨らみそうである。

 概念的なことは,Clinical pearlsのような箇条書きであり理解しやすい。「オッカムのカミソリ」には大笑いしたのでぜひ探して欲しい(自分の人生を振り返ってみて,ようやく真実に気付いた)。

 欠点も少し挙げておくと,実践的なマニュアル本は各個人でさらにつくりあげていくものだが,メモを書き足すスペースが少ない印象がある。ただ,逆にこれだけの内容が詰まったマニュアルを持ち歩けるサイズにしていることは執筆者や監修者に敬意を表したい。

 多数のマニュアル所持者の存在は,「患者さんの全体像を助けたい」と思うジェネラル・マインド(序より抜粋)をめざす医師が多数いることを意味している。純粋医学的項目はもちろんだが,マニュアルの序盤・終盤から,「こう書いてあるのですが……」と若手から示される状況は指導医にとって,ある意味脅威(驚異)かもしれない。総合診療を志す医師だけでなく,臓器別専門医を含めてすべての医療従事者に必携・必読の本になることを期待している。

三五変・頁464 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00661-3


めまいの診かた・考えかた

二木 隆 著

《評 者》北原 糺(大阪労災病院耳鼻咽喉科部長)

めまい診療にかかわるすべての方に勧める1冊

 めまい診療に関するテキストは今までにもたくさん出版されていますが,内容は患者さん向け,研修医向け,専門医向けと別々に企画されているものが多く,膨大な内容を網羅するため分冊の形態を取らざるを得ないか,1冊にまとめられたとしてもページ数が多くなり分厚くならざるを得ない傾向がありました。

 ところが,このたび医学書院から出版された『めまいの診かた・考えかた』は,初期研修医,若手耳鼻咽喉科医,めまい非専門の耳鼻咽喉科医,内科医,他科医,さらにはめまい専門医にとっても充実した内容の1冊であり,このような幅広いニーズに対応できるテキストはほかに例を見ません。しかも,現場のコメディカルスタッフにも学習しやすく書かれており,それでいて150ページ程度に簡潔にまとめられているので,持ち運びしやすく誰もが必要時に参照することができて便利です。

 「第1章 図解:めまい診療」には,めまい患者への基本的な救急対応の仕方が解説されていて,めまいを内科救急で診る必要がある初期研修医,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医が診察と治療を勉強するのに役立ちます。「第2章 めまいの基礎講義」には,めまい患者の病理・病態を考える上で必要不可欠な基礎知識が解説されていて,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医,めまいのことを今さら人に聞けないめまい非専門の耳鼻咽喉科医が,めまい平衡の基礎知識を充実させる上で有用です。「第3章 重要なめまいの診かた・考えかた」には,めまい患者の鑑別診断,確定診断に必要な専門知識が解説されていて,めまい専門医にとっても日ごろ行っているめまい診断の道筋を整理し直す上で役立つレベルの高い内容です。また,次の時代を担う新しいめまい治療法のヒントが隠されているかも知れません。「第4章 症例から学ぶさまざまなめまい」には,著者がめまい診療最前線で取り扱いに難渋した症例を中心に呈示されていて,広くめまい患者を日常的に診療している内科医や他科医にとって便利な内容です。その他,めまいに関する歴史的な逸話が豊富に盛り込まれたコラムも楽しめます。

 著者は,私が生まれた1966年に京都大学の耳鼻咽喉科めまい平衡グループの門をたたかれている大先輩で,のちに東京大学に移られてからも多くのめまい患者を手掛けられ,また多くのめまい専門医を育てられました。著者のめまい診療とめまい教育に関する経験から得られた叡智が,この1冊に凝縮されていると言えるのではないでしょうか。

B5・頁178 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01124-2


問題解決型救急初期診療 第2版

田中 和豊 著

《評 者》志賀 隆(東京ベイ・浦安市川医療センター救急部長)

救急診療・当直に必携の書

 本書は,救急の現場の最前線で働く医師たちへぜひお薦めしたい本である。通常,救急の参考書・マニュアル本は,複数の著者が執筆することが多い。本書は,日本と米国において外科と内科の臨床の最前線で研修をされ,さらに日本有数の教育病院である聖路加国際病院,国立国際医療センター,済生会福岡総合病院にて指導医として数多くの研修医を指導してこられた田中和豊先生によって執筆されている。そのため,通常はセクショナリズムに陥りやすい内科や外科の救急も連続性をもって記載されている。一貫して現場で役立つ本であることが意識されており,忙しい医師が求める事項が簡潔に記載されている。

 本書を開くと,はじめに救急診療におけるプラクティカルな基本戦略が記されている。サッカーに例えられた救急医としての診療姿勢は実にわかりやすい。さらに,Oslerの格

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