FAQ 不整脈診療の基本(小林義典)
寄稿
2012.04.09
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
不整脈診療の基本
初めに押さえるべきポイント
【今回の回答者】小林義典(東海大学医学部教授・循環器内科/東海大学医学部付属八王子病院循環器センター長)
不整脈を診療する際は,不整脈そのものに注目しすぎることなく,患者の全身状態,不整脈の発生背景を考慮して診断・治療を進めていくことが重要です。
■FAQ1
不整脈には多くの種類があり,判断に迷う場合があります。一般的な不整脈の分類の考え方について教えてください。
不整脈の分類法
不整脈にはたくさんの種類があり,その分類法も多様です。一般的に次のような分類法が用いられています。
1)徐脈性か,頻脈性か(徐脈:脈拍数<50回/分,頻脈:>110回/分)
・徐脈性不整脈:洞不全症候群,房室ブロック,脚ブロックなどの徐脈前駆状態を含む。
・頻脈性不整脈:心房細動,心房粗動,発作性上室頻拍,心室頻拍,心室細動など。
・どちらにも分類されない不整脈:期外収縮,促進性固有調律など。
2)不整脈重症度による分類
例)房室ブロック
・1度房室ブロック
・2度房室ブロック(Wenckebach型,Mobitz II型)
・高度房室ブロック(心房心室伝導比が2対1未満のもの)
・3度房室ブロック(完全房室ブロック)
3)不整脈責任部位による分類
例)房室ブロック
・房室結節内ブロック(A-Hブロック)
・ヒス束内ブロック(H-H'ブロック)
・ヒス束下ブロック(H-Vブロック)
4)不整脈メカニズムによる分類
例)発作性上室頻拍
・房室回帰性頻拍
・房室結節リエントリ性頻拍
・心房頻拍
・洞結節リエントリ性頻拍
・房室接合部頻拍,など
そのほか,不整脈持続時間による分類(発作性,持続性,永続性),有効薬剤による分類(ベラパミル感受性,アデノシン感受性など),心電図波形による分類などがあります。これらの分類法は不整脈の日常診療で一般に用いられており,不整脈のメカニズムの検討,重症度判定,治療法の選択の際に重要な道標になります。
Answer…徐脈性か頻脈性か,重症度,責任部位,メカニズムなどで不整脈を分類します。これらの分類に基づき適切な治療を選択します。
■FAQ2
治療が必要な不整脈とそうでない不整脈を見分ける方法を教えてください。
治療が必要な不整脈
(1)心臓突然死の原因あるいは前兆になる不整脈,(2)心不全の原因になる不整脈,(3)めまい,眼前暗黒感,失神などの脳虚血症状を惹起する不整脈,(4)血栓塞栓症の原因になる不整脈,(5)QOLや運動耐容能の低下につながる不整脈,が治療が必要な不整脈です。
このうち,(1)-(4)の状況では無条件で詳細な検査や治療が必要ですが,基礎心疾患・心機能などの不整脈発生背景を検討し,個人の病態に応じた治療法を選択することが大切です。基礎心疾患や合併症に対する治療が不整脈より優先されることも多く,やみくもに抗不整脈薬や非薬物療法で不整脈を抑えることは避けるべきです。
さて臨床現場では,(5)に相当する不整脈で治療やリスク評価の必要性に悩まされることが多いと思います。これには,徐脈性不整脈では軽症の洞機能不全,I度,II度房室ブロック,脚ブロック。頻脈性不整脈では期外収縮,特発性非持続性心室頻拍などが含まれます。徐脈性不整脈では症状が伴っているかどうかを判断することが,治療の是非決定の鍵となります1)。ただし,軽症の心不全などは見逃されることが多いため,注意すべきです。
心房性期外収縮では,心房粗細動などを誘発する場合に治療の対象となります。心室性期外収縮や,非持続性心室頻拍では,心機能低下を伴うハイリスク例では心臓突然死のリスク評価の対象となります。なお,Brugada型心電図2)や,早期再分極(図)3)については,リスクの高い心電図の特徴や臨床所見を熟知しておいてください。
図 J波陽性例の予後(文献3より引用) |
Answer…心臓突然死,心不全,脳虚血症状,血栓塞栓症の原因となる不整脈は無条件で治療の対象となりますが,個人の病態に応じた治療法を選択することが大切です。また,QOLや運動耐容能の低下につながる不整脈では,症状を伴っているかが治療の是非決定の鍵となります。
■FAQ3
心房細動の高齢者をよく診察します。心房細動の治療法は,どのように選択すればよいのですか?
心房細動治療の選択法
心房細動(AF)は,日常診療で遭遇することの多い不整脈の一つです。AFを診たら,まず最初に行うべきことは何か。答えはAFが発生する背景を知ることです。それと並行して,現時点での病気の進行度(発作性か,持続性か,永続性か)を判定します。また,弁膜症など基礎心疾患の有無,心房拡大(心房リモデリング)や心機能障害の程度,さらに血栓塞栓症リスクの程度を判定します。これらの情報は初診時に行われる詳細な問診,診察,心エコー,心電図,ホルター心電図などのスクリーニング検査で収集することができます。血栓症のリスクは一般的にCHADS2スコア(最近ではCHA2DS2-VAScスコア)を用いて行われます(表1)。
表1 心房細動における血栓リスク評価法 |
心房細動薬物治療のガイドライン4)では,非弁膜症性心房細動でCHADS2スコアが2点以上の場合はワルファリンの使用が推奨されており,1点でも投与を考慮してよいとあります。なお,2011年に日本循環器学会から発表された緊急ステートメントでは,リスクの低い(1点)患者さんに対しては,新しい抗凝固薬(ダビガトラン)の使用が推奨されています。
AFでは,最も重篤な合併症である脳梗塞を回避することが命題ですが,その後はAFそのものに対する治療方針を決定します。その過程で大事なことは,表2に示す多くの臨床的要素を勘案し,適切な治療戦略,治療法を個別に選択していくことです。例えば,比較的若い患者の症状の強い発作性AFでは,再発を予防し,洞調律を維持する方略(リズムコントロール)が選択されますが,選択する薬剤や,カテーテル・アブレーションの適応の判断は,基礎心疾患,心機能,リモデリングの進行度,好発時間帯などを考慮して慎重に決定されるべきです。
表2 心房細動に対して治療法を決定する際に考慮すべき要素 |
前述のガイドラインでは,治療方略を孤立性心房細動と器質的病的心(肥大心,不全心,虚血心)に分けて記載されていますが,リズムコントロールに使用される抗不整脈薬の内容は大きく異なっています。前者では,発作性AFに対しては主にI群薬(Naチャネル遮断薬),持続性AFにはベプリジルなどのIV群薬が推奨され,後者ではアミオダロン,ソタロールなどのIII群薬が推奨されています。また,治療の安全性,有効性を高めるためには,一つの治療法にこだわることなく複数の治療法(例えば,アブレーションと抗不整脈薬)を組み合わせることも重要です。
Answer…最も大切なことは,重篤な合併症である脳梗塞を回避すること。またAFの治療は表2の臨床的要素を勘案し,患者に適した治療戦略,治療法を個別に選択する。複数の治療法を組み合わせることも重要。
■もう一言
「異なる手法,標的を持つ複数の治療法を併用すること」は一般的にハイブリッド治療と呼称されています。不整脈ハイブリッド治療に期待されることは,当然有効性の向上がありますが,それ以上に安全性を高めることが最大の目的です。薬物の過量投与や広範囲のアブレーションによる合併症を回避するために,両者を上手に組み合わせることが重要です。
文献
1)2005年度合同研究班報告「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)」(班長:笠貫宏).
2)Priori SG, et al. Natural history of Brugada syndrome : insights for risk stratification and management. Circulation. 2002 ; 105(11) : 1342-7.
3)Tikkanen JT, et al. Long-term outcome associated with early repolarization on electrocardiography. N Engl J Med. 2009 ; 361(26) : 2529-37.
4)2006-07年度合同研究班報告「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」(班長:小川聡).
小林義典
1981年日医大卒。卒後,同大研究生,第一内科学入局。89-91年米国Cedars-Sinai Medical Centerに留学し,基礎心臓電気生理学分野を研究。2004年日医大第一内科助教授を経て,09年より現職。専門は不整脈の薬物・非薬物治療,心臓電気生理学。主な編著書に『プルキンエ不整脈』『不整脈診療レジデントマニュアル』(ともに医学書院)など。
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