医師が殺人罪に問われた理由(李啓充)
連載
2012.04.02
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第219回
医師が殺人罪に問われた理由
李 啓充 医師/作家(在ボストン)
(2971号よりつづく)
2012年3月1日,ロサンゼルス郡地方検事局は,ローランド・ハイツ市の医師,シウイン・ツェン(42歳)を殺人容疑で逮捕した。患者3人が中毒死した理由は,ツェンが麻薬性鎮痛薬等を安易に処方したことにあるとして,その責任を問うたのである。これまで,同郡検事局が医師の処方責任を問う際に適用してきた法律は医事・薬事関連の法律に限られてきたのであるが,今回は,「殺人」という,とりわけ厳しい罪が適用されたのだった。
処方薬乱用による中毒死が漸増
検事局が殺人の被害者とした3人はいずれも20代の男性であった。そのうちの1人,ジョーゼフ・ロベロ(死亡時21歳)はアリゾナ州立大学生だったが,「ツェンのところに行けば簡単に処方箋が手に入る」という評判を聞きつけて,2009年12月,わざわざアリゾナから車を運転してツェンのクリニックを「受診」したのだった。
ロベロが中毒死したのは受診の9日後。友人の誕生日と卒業を祝うパーティーを主宰した後,醒めることのない眠りについたのだった。死後,血中から,アルコールとオキシコドン(麻薬性鎮痛薬)とアルプラゾラム(抗不安薬)が検出されたが,いずれも単独では「致死量」には達していなかった。それぞれは「安全域内」の量であったにもかかわらず,三者を混合したことで致死的結果を招いたのだった。
母親のエイプリルによるとロベロは薬剤依存症ではなく,パーティー参加者に供する目的で薬剤を入手したというが,米国では,最近,処方薬・店頭販売薬を娯楽目的で服用するパーティーが流行って問題になっている(註1)。若年者が興味本位で使用する場合,薬剤の危険性に対する知識も乏しい上,「医師が処方する薬だから安全」という思い込みもあり,過剰投与や併用投与による中毒死が跡を絶たない(註2)。
国立薬物乱用研究所(NIDA)によると,2010年に麻薬性鎮痛薬・鎮静薬等の処方薬を娯楽等治療以外の目的で使用した米国民の数は700万(全人口の2.7%)と見積もられている。さらに高校4年生(米国の高校は通常4...
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