急変時(1)(川島篤志)
連載
2012.03.19
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第18回】急変時(1)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
|
■解説
今回から,急変時の対応についての小テストを解説していきます。過去の問題の復習が多く,既に習熟度の高い人には少々退屈かもしれません。しかし,復習によって身につくこともありますし,実際,当院で作成したテスト通りになっていますので,お付き合いください。
急変:症状
(1)ショックについては,Vital signの小テスト(連載第2回,2905号)で概説しました。ショック時には一般的に,血圧の低下・脈拍の上昇,そしてそれに伴う臓器障害が生じます。それを客観的に把握・定義するために,収縮期血圧と脈拍の比から成るショック指数や他の要素を含めたショックスコアなどがあります。ただ,まずは"何かおかしい"と認識することが重要であり,5P(順に蒼白・虚脱・冷汗・無脈・呼吸不全)を意識することが求められます。5Pという表現は日本人には覚えにくいかもしれませんが,とにかくVital signを確認して,見た目(General appearanceとも表現するかもしれません)のチェックと,実際に患者さんに触ることが大事です。
Cold shock/Warm shockという言葉を聞いたことはあるでしょうか。感染症によるショックで,四肢末梢が温かくなっている場合があるのは想像に難くないですが,病態生理的には発熱で温かいわけではありません。
看護師さんがショックの原因分類を覚えなくてはならないのかどうか,筆者自身の答えは出ていません。当院でも,ショックの分類について資料の配布はしていません。ただ,患者さんの背景を理解できれば,ショックの状態を見抜くことも容易になるのではないかと思っています。ショックは重要項目であり,ちょっとしたテキストには必ずまとまった記載がありますから,可能であれば分類も勉強してみてください。頻度を意識すれば,そんなに難しいことはないですよ。
なお,ショックという表現は,医療者の間では共通言語ですが,患者さんやそのご家族には通じない言葉の代表格です。医師や看護師を含む医療従事者は,患者さんの理解度を意識する必要があるのではないかと思います。『病院の言葉を分かりやすく――工夫の提案』(勁草書房),『病院で使う言葉がわかる本』(実業之日本社)といった書籍も出版されています。わからない言葉を再認識する機会を,設けてもいいのかもしれませんね。
(2)これも過去問の復習です(連載第4回,2913号)。意識障害以外にも言えることですが,ベースの疾患を考えれば,何が起き得るのか想定しやすくなります。肝硬変を見慣れている病棟の看護師さんであれば,肝性脳症なんて「またか」と思うでしょうし,COPDの急性増悪を診る救急や呼吸器病棟の看護師さんなら「CO 意識障害の鑑別方法である「AIUEOTIPS」は,多くの医師(特に救急診療にかかわる医師)が知っていると思います(スラっと言えるかどうかはわかりませんが……)。ショックの分類と同じく,看護師さんにとって「AIUEOTIPS」は必須ではないかもしれません(当院でもAIUEOTIPSの資料は配布していません)。鑑別は比較的難しいため,RIMEモデルにおけるReporterレベルをめざすのか,その先のInterpreterやManager,そしてEducatorをめざすのかにもよるでしょう。鑑別方法が理解できればすばらしいことは間違いありませんので,余裕のある人は頑張ってみてください。
(3)「入院中の症状・症候」の小テストで,胸痛は少し取り上げています(連載第12回,2946号)。どんな症状でも発症のタイミングが極めて重要です。一般的にSudden onsetは,「切れた・詰まった・破れた」を意味しています。胸部で切れた・詰まった・破れたとなると,危ない疾患が想定されますよね。"Sudden onset"の聞き出し方は連載第13回(2950号)でも記載していますが,SuddenとAcuteの違いを意識することが重要になります。一方,慢性や亜急性の症状であれば,あまり急がなくてもよさそうですよね。
虚血性心疾患では,必ずしも胸痛を訴えるとは限りません。肩の痛み,顎や歯の痛みということもあり得ます(まさに心臓から半径30 cmですね)。嘔気や冷汗も要注意です(連載第12回)。「虚血性心疾患の診断ツールに『病歴・心電図・血液検査』があるとして,重要な順に並べなさい」という質問を外国の先生からされたことがあります。答えは半分冗談ながら「病歴・病歴・病歴」でしたが,それだけ病歴が大事だということです。病棟で最初に患者さんに接する可能性がある看護師さんの,病歴からの"アセスメント"がなければ,次につながらないことを十分に意識してください。
肺塞栓症は救急外来だけでなく,病棟で遭遇し得る,まれではない致死的疾患です。肺塞栓症の予防に関しては,診療報酬上でもサポートされているので意識は高まっていると思います。医療安全においても大きな話題ですよね。
しかし,内科救急に日常的に従事していない外科系医師が,肺塞栓症という内科疾患の診断に精通しているかどうかは,施設によっても異なるでしょう。看護師さんの適切なアセスメントにより,スムーズに内科医につなげられるほうが,よりよいアウトカムにつながる可能性もあります。初めての離床で起こることも多いので,起こってからではなく起こり得ることを予想して,院内の流れを再確認するのもよいかもしれません。肺塞栓症に対するデブリーフィングを行っている施設などあると,カッコいいですね。
(4)この項目も,連載第7回(2925号)の内容の復習になります。入院中に起こる心不全の話も連載第5回(2917号)で記載しましたが,覚えていますか? ぜひ復習してみてください。
(つづく)
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
PT(プロトロンビン時間)―APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)(佐守友博)
連載 2011.10.10
-
事例で学ぶくすりの落とし穴
[第7回] 薬物血中濃度モニタリングのタイミング連載 2021.01.25
-
寄稿 2016.03.07
-
連載 2010.09.06
最新の記事
-
医学界新聞プラス
[第4回]腰部脊柱管狭窄症_術後リハビリテーション
『保存から術後まで 脊椎疾患のリハビリテーション[Web動画付]』より連載 2024.10.14
-
医学界新聞プラス
[第3回]文献検索のための便利ツール(前編)
面倒なタスクは任せてしまえ! Gen AI時代のタイパ・コスパ論文執筆術連載 2024.10.11
-
対談・座談会 2024.10.08
-
対談・座談会 2024.10.08
-
神経病理の未来はどこへ向かうのか?
脳神経内科医と病理医の有機的なコラボレーションをめざして対談・座談会 2024.10.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。