いろいろなチューブ(4)(川島篤志)
連載
2012.02.20
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第17回】いろいろなチューブ(4)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
「いろいろなチューブ」の小テストも4回目,今回が最後となります。
尿道カテーテル
(15)バルーン留置によって,カテーテル関連の尿路感染症のリスクは1日当たり2-5%程度累積増加すると言われています(数値は出典により多少異なりますが,大事なのはイメージです)。つまり,長期間留置していると感染症が必発するということです。何のためにバルーンを留置しているのか,不要な留置になっていないか検討することが重要です。
医学的には,前立腺肥大や神経因性膀胱などによる腎後性腎不全での尿道閉塞の解除や,尿路感染症で尿が出ないときの閉塞解除,利尿薬の効果や循環動態の把握のための尿量測定が,カテーテル留置の主な目的になります。医師によるカルテ記載から,これらが既に解決していると確認できれば,抜去について相談してもよいと思います。案外,医師も気づいていないだけの場合があります。当院でも総合内科で回診を行う際,主治医(チーム)以外の医師が「何のために留置しているの?」と気づくことが重要だと感じています。
尿路感染症の可能性があれば,尿培養(+施設によってはグラム染色)の検査が提出されるかもしれませんし,菌血症を疑えば血液培養が必要となるかもしれません。また上級編として,「細菌尿の存在=尿路感染症」ではないものの,チューブの濁りを意識する必要もあると思います。比較的長期間留置されているバルーン(人工物)には,バイオフィルムという膜が病原体によって形成され,難治性になり得るため,バルーンの交換が必要となる場合もあります(詳細は成書参照)。
「パープル尿バッグ症候群(PUBS;Purple Urine Bag Syndrome)」という状態もあります。尿道バルーンカテーテルを留置されている患者さんで,慢性の便秘があると,そこに細菌感染が関連してバルーンバッグが紫色に変わることがあるのです(詳しい成因は成書参照)。見た目は派手なのですが,緊急性の高い状態ではありません。背景にあるバルーン留置,慢性便秘,尿路の細菌感染を治療するか否か,の判断が重要になってきます。
また,各種薬剤で尿の色が変わることも豆知識として知っていると面白いかもしれません。ビタミン剤関連や,抗結核薬のリファンピシンは有名だと思いますが,抗菌薬[セフゾン®:赤色,ファーストシン®:赤-濃青色,チエナム®:赤褐色など(筆者はあまり使用しておらず,直接見たことはありません)]や抗パーキンソン薬(マドパー®:黒色!)などもあります。これらは添付文書にも記載がありますが,最近はGoogleなどで検索してみると結構出てきます(上記のPUBSも画像検索すれば色がわかりますよ)。でも看護師さんに広まってしまうと,小ネタを知っている指導医や研修医が自慢する機会が減るかもしれませんね……。
(16)バルーンバッグを置く位置に関しては,医師よりも看護師さんのほうが精通しているかもしれません。体位変換や検査での移動のときに,バッグを膀胱より高い位置(腹部の上など)に置いてもいけませんし,床につくほど低くてもいけません。おそらく各施設のICTなどからも,指導があるのではないでしょうか。
さすがに"膀胱洗浄"は行われなくなりつつあると思いますが,ガイドラインにも基本的には行わないよう記載があります。一方,2週間ごとなどの"定期的な交換"そのものも,ガイドラインで推奨されているわけではありません。これらに関しては院内ルールの蓄積があるでしょうから,個別に議論するのではなく,「CDCのガイドライン(註)では……」と,上司やICTなど担当部署に持ちかけ,施設内でのルールの統一・改善を図ってみてもよいと思います(本連載は根拠にするにはちょっと弱いです)。
ルート全般
(17)管がたくさんつながっていると,それらに関連した感染症が発生する可能性も増えます。ですから不要になれば,可及的速やかに抜去を考えるべきです。医師も頭ではわかっていても忘れることがあるので,上述のように看護師さんからの一言や,回診時のリマインドこそが重要です。
ルートなどのチューブ類があると,不穏の原因にもなります。自己抜去を繰り返す患者さんを責めるのではなく,不要な管がつながっていないか,考えることが重要なのです。各種モニターのケーブルも同様です。また,管につながれていることで,ずっとベッドにいなければならない感覚に陥り,ADLや筋力の低下を引き起こす可能性もあります。
持続点滴にするか,それともルートをロックするかを選択する上で一つ問題になるのは,コストかもしれません。ルートのロックに使う製品(商品形態も含めて)についても施設内で議論があると思いますが,利便性,コスト,効果……バランスをとることはなかなか難しいですね。
持続点滴のメリットの一つは,夜間に患者さんを起こさずに済むことです。投与間隔と投与量の問題から,1日3-4回投与が基本となる抗菌薬が多くなりつつあると思います(添付文書ではまだ変更されていないのが残念です)が,その場合夜中に点滴をつなげる行為が必要になります。ロックだと手元で操作するので,目を覚ましてしまう患者さんもいると思いますが,持続点滴ならば比較的気づかれずに対応できるのではないでしょうか。病状が重い方が普段と違う入院生活を強いられているなか,こうした工夫こそが重要なのかもしれません。
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なお,外科的なルートについては,筆者自身が直接かかわっていないため,ここでは述べません。その点,院内の日常業務に携わる看護師さんの立場から問題を作っていただけると,的確なものができるのではないでしょうか。もしくは,看護師のフィジカルアセスメントに興味のある外科(系)ドクターからの出題も,面白いかもしれませんね。
小テストを受けて…(市立福知山市民病院看護師の感想から)●気管挿管は,迅速かつ確実に実施することが重要であるとあらためて理解できました。挿管する医師が優秀でも,補助する看護師が挿管の手順・注意点を理解していないと迅速な処置は実施できません。そのため,看護師はいつ・どのタイミングで物品を手渡すか,何に注意して観察するのか,理解しておく必要があると学びました。 チューブ管理に当たっては,感染および対象となる患者さんのADLについて考えることが大切であるとわかり,日々の観察・アセスメントの重要性が学べました。 (小児科・産婦人科病棟 酒井 佑菜) ●ルート全般で感染症の可能性を常に念頭に置き,患者さんのケアを行っていく必要性をあらためて感じました。本当に必要なルートなのか,バルーンはいつまで挿入するのかなど患者さんの状態をアセスメントし,医師に相談していくことが,大切だとわかりました。また,通常の補液にはカロリーがほとんどないこともわかり,食事摂取の大切さも痛感しました。 気管挿管では,物品をきちんとそろえることや,医師や看護師のポジショニングなど,細かい点に注意すると作業がスムーズになることがイメージできました。 (小児科・産婦人科病棟 雲丹亀 円香) |
(つづく)
註:満田年宏訳.カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009.ヴァンメディカル,2010.
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