看護師の役割拡大に向けて(南裕子,嘉山孝正,小松浩子)
対談・座談会
2012.03.19
【座談会】 看護師の役割拡大に向けて
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医師の不足や偏在,医療ニーズの複雑化や多様化など,さまざまな問題が山積する医療現場。そのなかで安全かつ安心な医療を患者へ提供していくために,多職種が専門性を生かして連携・補完し合うチーム医療を推進することが必要と指摘されている。特にチーム医療のキーパーソンとして看護師に寄せられる期待は大きく,現在では看護師の裁量権の拡大に関する議論も進んでいる。
本座談会では,がん看護領域に焦点を当てて,看護師の担うべき役割をあらためて確認し,役割拡大や看護教育の在り方について議論した。
南 2007年度から2011年度にかけて,文科省は「がんプロフェッショナル養成プラン」(以下,がんプロ;MEMO)に取り組んできました。
このがんプロが始まるときに私がうれしかったのは,「専門看護師」という言葉が政府の文書上に初めて記載されたことでした。これまでの看護界の取り組みや現場の看護師の努力が認められたのだと感じたのです。
2011年10月に開催された,第49回日本癌治療学会学術集会のシンポジウム「がんプロフェッショナル養成プラン――評価と展望」(司会=東大医科研・今井造三氏,高知県立大・南裕子氏)においては,千葉大・東大・阪大などの各施設からがん医療を担う医療者の養成やその取り組みの5年間の成果が報告されました。本シンポジウムにおいても,がん看護専門看護師の活動を評価していただいたものと理解しています。
本シンポジウム中,嘉山先生にはフロアからご発言をいただきましたね。
嘉山 ええ。シンポジウムには文科省の方も登壇されていましたから,がん医療を担う専門家の養成支援を政府は継続して行う必要性があると訴えました。私が勤務する病院においても,がん看護領域の専門看護師や認定看護師は活躍しています。
がん領域で活躍する看護師たち
南 日本がん看護学会の理事を務める小松先生,がん領域で活躍する専門看護師や認定看護師の現状について教えてください。
小松 現在,日本には327人のがん看護専門看護師がいます。がんプロの開始以前は1年当たり10人前後の認定にとどまっていたところ,2007年度以降は30人,70人と増加していき,現在では毎年約90人が認定を受けるようになりました。1-2年後には,がん看護専門看護師は総数500人ほどになると推定しています。
また,がん領域の認定看護師については,緩和ケア1089人,がん性疼痛看護558人,がん化学療法看護843人,乳がん看護163人,がん放射線療法看護64人の認定登録者がいます(注:上記の専門看護師・認定看護師の認定者数は2012年1月時点)。どちらもまだ十分な人数がいるとは言えませんが,ともに社会のニーズに応えるかたちで増加傾向にあります。
南 がんプロの開始は,がん看護専門看護師養成の素地を固めたとも言え,非常に意義のあるものになりましたよね。
嘉山 がんの専門家を養成するシステムが全国的に整えられ,各施設が一斉に取り組み始めたことが専門看護師の増加にうまく結び付いたのでしょう。個々の施設ごとに取り組んでもなかなかうまくいくものではありません。
小松 そうですね。がんプロの開始は人数の面だけでなく,専門看護師に対する教育面でも良い影響をもたらしており,各大学院では質の高い教育が行われていると感じます。病気に伴う身体的な変化だけでなく,患者さんの生活の変化に焦点を当てて調整が必要な健康問題に取り組む。その上で病院内で横断的に活動し,各専門職から構成されるチームの舵取り役を担うがん専門看護師の有用性は,患者さん・家族にも実感できるものになってきているのではないでしょうか。
また,制度設立当初,終末期にある患者の緩和ケアを中心に活動するがん看護専門看護師が多くいましたが,緩和ケアが治療初期から求められるようになるに従い,最近では外来化学療法室に身を置き,そこで緩和ケアと治療過程支援の専門性を発揮する専門看護師も増えています。
このようにがん看護専門看護師は,患者さんの声に耳を傾け,医療の進展を見ながら社会の要請をキャッチアップし,役割や働く場を柔軟に変化させてきています。その点では,他の領域の専門看護師とは少し異なる性格を持っていると言えるのかもしれません。
"場"を作ることで専門看護師の力を引き出せる
南 嘉山先生,国立がん研究センターに勤務する専門看護師や認定看護師はどのような活動をされていますか。
嘉山 臨床の場での活躍はもちろんですが,意外だったのは当センターが行っている「がん相談対話外来」においても専門看護師や認定看護師が力を発揮していることです。
当センターでは,2010年5月に,医療者ががん患者さんの目線に立ち,患者さんや家族の方々と対話をしながら,現状で可能な限り最良の医療について考える「がん相談対話外来」を開設しました。担当医,看護師,がん専門相談員としてソーシャルワーカー,精神腫瘍科医の4職種で構成するチームで,患者さんのさまざまな悩みに対応しています。医師が言っても伝わらない言葉でも,看護師が同じことを言うと患者さんに伝わり,安心されることもある。会話の中で患者さんの心をつかむことに長けた看護師たちの力量にあらためて驚きました。
小松 素晴らしいですね。国立がん研究センターでは,専門看護師や認定看護師たちが能力を発揮できる「がん相談対話外来」という"場"が作られたことで役割が明確になり,その能力をうまく引き出すことができたのではないでしょうか。
南 そうですね。そういう意味では,どのように専門看護師や認定看護師を活用するかや,雇用した場合の職務体系に関する体制の整備などのビジョンを病院管理者や看護管理者が持っている必要があると言えますね。
嘉山 山形大医学部附属病院でも
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