医学界新聞

連載

2012.03.05

学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第13回(最終回)
微生物検査

培養同定検査

迅速抗原検査

核酸検査

前川 真人(浜松医科大学教授・臨床検査医学)


前回からつづく

 感染症の原因菌特定に必須な微生物検査。患者さんから採取した検体を培養し,微生物の同定を行う培養同定検査のほか,今日では微生物に特異的な抗原・抗体反応を利用した迅速抗原検査や,微生物の遺伝子から同定を行う核酸検査が微生物検査として行われています。今回は細菌感染症を例に,これらの使い分けについて学びます。


 に肺炎の微生物検査の概略を示しました。微生物検査用の検体を適切に採取するところから検査は始まります。細菌感染症を疑う場合,まずグラム染色を行い,どのような菌がいるのかを見ます。これにより起因菌がおおよそ判明することもありますが,口腔内常在菌の混在もあり同定は容易ではないことから,培養検査を進めます。単一コロニーが得られれば,菌種の同定・感受性検査が可能となります。この培養検査には分離・同定で約2日かかります。発育が遅い菌種ではもっと時間が必要です。また,特殊染色の施行,特殊培地を用いた培養を行う必要があることがあります。

 肺炎の微生物検査

 時間がかかるという培養検査のデメリットから,迅速抗原検査が開発されてきました。迅速抗原検査といえば,まずインフルエンザウイルス感染症を思い起こすのではないでしょうか。この原稿を書いている2月上旬はまさに流行中で,毎日何人かが抗原検査で陽性となっています。現在では多くの細菌・ウイルスで迅速抗原検査が可能となり,臨床現場でも広く浸透してきました()。ウイルスなどの培養できない病原体では,簡便・迅速な検査法として特に利用されています。

 迅速抗原検査が可能な主要病原体,毒素,抗体

迅速抗原検査を補う核酸検査

 迅速な検査は,素早い診断と焦点を絞った治療を可能とし,感染拡大を未然に防ぐという感染対策の観点からも有用です。ただし,キットによっては感度や特異度が低いものもあるため,迅速抗原検査の結果判読には注意が必要です。検査の長所,短所,限界などを理解して活用することが大切です。

 迅速抗原検査で感度不足や特異性が低い場合には,核酸検査も用いられます。まだ日常検査で頻繁に用いてはいませんが,PCR法,LAMP法,TRC法などの遺伝子増幅法が基本的技術として使用されています。迅速抗原検査よりも,感度・特異度が高いものの試薬が高価で専用の設備が必要で,測定時間もそこそこかかります。

微生物検査を行うとき

 感染症を疑う所見があり,起因菌など原因を明らかにし,最適の治療法を見つけるために微生物検査を行います。

症例
 81歳男性。38℃の発熱と呼吸困難を訴え外来を受診。肺炎疑いで緊急入院となった。身長158.6 cm,体重54.3 kg,血圧123/60 mmHg,脈拍数107/分・整,体温38.6℃,SpO2 92%。臨床検査所見:白血球数5300/μL,赤血球数342万/μL,Hb 9.8 g/dL,Ht 29.8%,血小板数20.8万/μL,総蛋白5.3 g/dL,Alb 2.1 g/dL,CRP 35.3 mg/dL,プロカルシトニン 7.32 ng/mL,T-Bil 0.6 mg/dL,AST 18 U/L,ALT 14 U/L,γ-GTP 45 U/L。喀痰培養検査を実施し,尿中レジオネラ抗原検査にて陽性を認めた。

 症例では,尿中レジオネラ抗原陽性を受け特殊培地で培養し,3日後にレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の発育を確認しました。当初,カルバペネム系抗菌薬が投与されたものの,原因菌がレジオネラと判明したのでニューキノロン系抗菌薬に切り換え,治癒に至りました。

 患者は市中肺炎で入院となりましたが,鑑別診断の一つとして尿中レジオネラ抗原検査を行っていなければ迅速に正しく診断できたか疑わしいケースです。レジオネラはグラム染色では染まらず,通常の培地では育ちません。迅速抗原検査のおかげでレジオネラ肺炎を疑い,培養同定もでき,正しく抗菌薬を選択でき救命できたものと考察できます。当初使用したカルバペネム系抗菌薬は細胞内寄生菌には有効ではないため,細胞内寄生菌であるレジオネラには細胞内に浸透するニューキノロン系抗菌薬などの使用が大切です。

レジオネラ症の注意点

 レジオネラは水系・土壌など自然界に広く分布し,汚染されたエアロゾルを吸入することによって肺炎を引き起こします。温泉や循環式浴槽が感染源として報告されていますが,感染源がはっきりしないケースも多いです。臨床症状や検査データ,胸部X線像でレジオネラ肺炎と診断することは困難なため,グラム染色で起因菌が見つからない,βラクタム系抗菌薬などで改善しない,急激に進行する,などの特徴がみられる場合は,尿中レジオネラ抗原検査やレジオネラ用の特殊培地を用いた培養を行うことが重要です。ただ,通常の細菌よりも発育が緩やかであるため培養に時間がかかることも知っておく必要があります。

 尿中レジオネラ抗原検査は,尿中に排泄される細菌由来の糖抗原を検出するため,特異性はかなり高いと言えます。ただし,一度陽性になると数週間から数か月陽性を持続するので,既往による陽性も考えられます。また,抗原検査で陽性となるのはレジオネラ・ニューモフィラの血清型1の場合だけです。それ以外の血清型,または他のレジオネラ属菌では陰性となるため,抗原検査で陰性となってもレジオネラ症でないとは言い切れません。つまり,感度に問題があると言えます。

 核酸検査としてはPCR法も使用可能ですが,LAMP法に基づく試薬キットが市販されており,昨年10月から保険適用もされました。感度も高く約1時間で判定可能なため,抗原検査で判明しない場合の検査法として,または抗原検査の代わりとして活用できる可能性があります。

まとめ

 微生物検査には,直接鏡検法,培養法,迅速抗原検査,核酸検査などがありますが,それぞれ長所,短所があります。それらを理解しつつ,臨床所見といろいろな検査を組み合わせて総合的に診断することが肝要です。

ショートコラム

 イムノクロマトグラフィ:クロマトグラフィは混合物を分離・分析する技術で,「色を分けて記録する」という意味です。ギリシャ語のChroma(色)とGraphos(記録)よりChromatographyと呼ばれました。イムノクロマトグラフィは,免疫学的に分離分析します。すなわち,毛細管現象により抗体がメンブレン上を移動する際,検体中の抗原を色素標識抗体と捕捉抗体が2段階で挟み込むサンドイッチイムノアッセイです。金コロイド粒子を抗体の担体とすることが多く,その粒子が捕捉抗体のある場所に集積することで形成される赤いバンドを肉眼で判定します。

(了)

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