いろいろなチューブ(3)(川島篤志)
連載
2012.01.23
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第16回】いろいろなチューブ(3)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
「いろいろなチューブ」の小テスト3回目です。がんばりましょう!
マーゲンチューブ? NGチューブ?
(10)経鼻胃管のマーゲンチューブという呼び方には少々問題があります(註)。現状では,比較的太めのチューブを“NGチューブ”と呼称する場合が多いと思いますが,本来NG(nasogastric)とは,“鼻から胃へ”という経路を指す言葉です。一方細めのED(elemental diet)チューブは本来,X線透視下での操作や内視鏡を用いて十二指腸に留置するものです。実際には,NGチューブより細く患者さんの不快感が減る可能性があることから,胃に留置して経腸栄養ルートとして用いられる場合が多いのではないでしょうか。
(11)胃管の挿入後は,医療安全の観点から単純X線撮影を行うことになっていると思いますが,在宅管理では不可能ですよね。また自己抜去を繰り返す患者さんでは,何度もX線撮影を行うことがおっくうになってくるかもしれません(撮影室までの移動もポータブル撮影依頼も,ともに面倒なものですね)。
そこで通常は,胃内に空気を送って聴診器で胃泡を確認したり,振動を手で確認したりしています。胃液が引けてくるとより安心かもしれません。しかし,院内で挿入している場合は,どれだけ面倒であっても,X線での確認が必須であることを忘れないでください。自己抜去が頻回であるときは,X線撮影を省略するのではなく,代替栄養ルートの要否や抜去の防止策を検討したほうがよいと,個人的には考えます。この種の医療事故のニュースを耳にしたこともあると思いますので,決して他人事と考えずに対応してほしいと強く望みます。
他施設では,経鼻胃管の挿入は看護師が行う場合もあると聞いたことがあります。最終的な確認方法や責任の所在は各施設で決まっているはずですから,十分に気をつけて実施してください。
胸腔ドレナージ
(12)気胸は一般的に「やせ型で背の高い若年者に起こる自然気胸」と「基礎疾患として肺疾患を持つ人に起こる二次性気胸」とに分かれる,ということは理解していますか? 気胸の程度により,保存的に扱われる場合(SpO2が正常でも酸素を吸わせる状態:連載第3回参照)も,いきなりVATS(胸腔鏡下での手術)が行われる場合もあるかと思います。チューブの対応も,挿入したチューブがベッドサイドにある器械につながっている場合(胸水の対応のときには必須)と,チューブと一方向弁(ハイムリッヒ弁®など)が胸壁に付いているだけの場合があります(詳しくは成書を参照)。
二次性気胸の治療はなかなか難しいので,呼吸器内科や呼吸器外科がない施設ではあまり診ていない(搬送している)かもしれませんね。
さて胸水は,滲出性と漏出性に分かれます。心不全や低アルブミン血症などで見られる漏出性胸水(多くは両側性)の場合は,通常ドレナージは行いません。一方滲出性胸水の原因には,癌に伴う癌性胸膜炎や肺炎に関連する肺炎随伴性胸水/膿胸などがあり,この場合は,状況にもよりますが積極的なドレナージの適応になります。液体をドレナージする際には太めのチューブを入れることになりますが,教科書には極端に太いサイズが記載されています。実際には,留置するチューブの太さは施設や医師により異なるかもしれません。ただ細いチューブでは,粘稠度の高い液体はなかなか外に出て行かないことを覚えておきましょう。
こういった胸水は数リットルたまっていることもあります(患者さんに教えると大概びっくりします)が,急に水を抜いて肺が膨らむと肺水腫が起きることがあり,これを再膨張性肺水腫と呼びます。よって筆者は,抜く水の量は1日に800-1200 mL程度にとどめています。この量も,ドレナージを施行する医師の考え方にもよるかもしれません。
また,1 L以上たまっているようなそれなりに圧の高い水は,刺入部の横から漏れ出てくることがあります。胸水がたくさんたまっていれば,数日間は漏液がある可能性を考慮しておきましょう。
当院では,メラ・サキューム®という製品を使用しています。筆者は赴任当初「メラサ,使いますか?」と言われ,チンプンカンプンでした。院内用語に関しては,新規採用のスタッフに使うときは注意が必要ですね。ちなみに前任地でも「ロカ使いますか?」と言われ,「???」となったことがありました。局所麻酔薬キシロカイン®の“ロカ”だったのですが……。
また,刺入部の観察は重要です。気胸のときにチューブ周囲に皮下気腫が見られたら,誤挿入やドレナージチューブの閉塞を疑い(後述),報告できるとよいでしょう。
(13)壁側胸膜と臓側胸膜の間にわざと炎症を起こして,癒着させることにより胸水が増えないようにしたり(癌性胸膜炎治療の一種),縮んだ肺を広げたり(二次性気胸治療の一種)することがあります。その際に,ピシバニール®や抗癌薬,時には自己血を入れたり,事前の痛み止めとしてキシロカイン®を入れたりします。また,ドレナージが不良になっていたり隔壁形成がある膿胸では,ウロキナーゼ®を胸腔内に注入して,ドレナージしやすくします。こういった,清潔操作で行われるべき薬剤の注入には,初めからダブルルーメンのチューブが選択されるべきだと思います。
肺炎に関連する胸水の管理は,急性期病院の医療の質の評価にもつながるのではないでしょうか。「胸水を見つけた際,どれくらい迅速にアプローチを始めるか(たとえ夜間・休日でも対応するか)」「胸水中のpHを意識して測定するか(血液ガス分析のキットが必要です)」「膿胸での起炎菌であることが多い嫌気性菌を検出する努力がなされているか(ケンキポーター®というキットがあります)」「ダブルルーメンのチューブを用いているか」「ウロキナーゼを用いることがあるか」などの項目が,評価の指標となり得るかもしれません。ネガティブなデータなので,測定は難しいかもしれませんが……。呼吸器内科がない施設,もしくは胸水を扱う科が明確ではない施設では,意外にこうしたことへの対応が整理されていないかもしれません。この点当院は,きちんと対応ができる病院だと思っています。
(14)気胸のときは,リーク(漏れ)の有無の確認がそのまま,チューブの交通の確認になりますね。ただリークがなくなったとき,交通がなくなった状態なのか,あるいは気胸が治ったのかという区別はつけにくいものです。
チューブが胸腔内にあり交通がある場合は,チューブ内の液体の呼吸性変動の有無をチェックすることが重要になります。液体が少量でも,少しチューブを曲げてみることで,呼吸性変動(咳嗽や深呼吸でも増強可能です)が見やすくなると思います。もし交通がなくなっていたら,刺入部からの漏液や皮下気腫の確認のほか,刺入部や固定部分などでチューブが折れ曲がっていないかということも,確認できるとよいでしょう。その後,胸腔内での問題をチェックするために,胸部X線撮影(通常2方向)などの画像検査に進む可能性も十分にありますよ。
(つづく)
註:小紙連載「教養としての医者語」(2006年)でも,医学領域で慣習的に使われている用語の特殊性について取り上げたことがあります。ご興味のある方はチェックしてみてください。
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