医学界新聞

連載

2012.01.09

それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴

【第21回】

COPD急性増悪

志賀隆
(東京ベイ・浦安市川医療センター 救急部長)


前回よりつづく

 わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。


 当直が始まって立て続けに数台の救急搬送を受け,ひと息ついたところに新たな入電が――。

■Case

 65歳男性。既往に肺気腫があり,トイレに行った後に呼吸困難が始まったという。発熱なし。数日前から咳嗽と喀痰の量が増えていた。血圧120/80mmHg,脈拍数100/分,SpO2 85%(RA),呼吸数28/分,頸静脈怒張あり。肺野では両側性に喘鳴を聴取する。心頻脈あり,心雑音なし。腹部の圧痛なし。四肢の腫脹は認めない。

 「まずはCABからだ」と動き始めたあなたに,見学していた学生から「CO2ナルコーシスの危険がある患者には,酸素投与を慎重に行うべきでしょうか?」との質問が――。

■Question

Q1 酸素投与はどのように行うか?
A COPD急性増悪であっても酸素化を保つ必要がある。

 慢性的に高炭酸ガス血症がある患者では,呼吸中枢において,CO2による呼吸ドライブよりもO2による呼吸ドライブがメインになる。そこに高濃度の酸素を投与すると呼吸停止を起こし,さらにCO2が体内に貯留してしまう危険性がある。しかしながら,COPDの患者であってもSpO2を少なくとも90%に保つ必要がある。そこで,軽度の低酸素血症では少量の酸素投与を,重度の低酸素血症ではNPPV(非侵襲的人工呼吸)や気道確保などバックアップの手段を用意し,高濃度の酸素投与を行う必要がある。

 この患者の血液ガス所見(酸素10L/分投与下)は,pH 7.31,PaCO2 55mmHg,PaO2 75mmHg,HCO3 27mEq/Lであった。

Q2 高炭酸ガス血症が慢性か,急性かは,どのように判断するか?
A 血液ガスのpHを参考にする。

 血液ガスのpHは高炭酸ガス血症の変化と速度を反映するため,急性か,慢性かを判断するのに有用である。以前行った血液ガス分析において高炭酸ガス血症と正常pHの所見があれば,慢性的な高炭酸ガス血症の患者である可能性が高い。もし比較できるデータがなく,アシドーシスと高炭酸ガス血症がある場合には,急性の変化が起きたと考えるのが妥当である1)

Q3 COPD急性増悪の場合,増悪因子となるのは何か?
A 増悪因子は種々ある。

 COPDの主な増悪因子は,呼吸器感染症,服薬コンプライアンス,天候の変化,不整脈,左心不全,アレルゲンへの暴露,などが挙げられる。加えて,気胸,肺塞栓,腎不全,肝不全などがある。

Q4 どのような検査が必要か?
A 胸部X線,心電図,血算,生化学,心筋ト

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