SLEの診断・治療(高田和生)
連載
2011.11.07
もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント
◆その6◆
SLEの診断・治療
高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)
(2948号よりつづく)
膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければ身につけにくいです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を提供します。
今回は,全身性エリテマトーデス(SLE)の診療を概略的に紹介し,ポイントを学びます。
(?)多くは初発時から腎/脳などの臓器障害を伴っている?
SLEでは,自己抗体を中心とした自己免疫病態が長い経過中にさまざまな形で多くの組織・臓器を攻撃し,障害を来します(表)。しかし,初発時は関節痛・関節炎,皮疹(特に頬部紅斑),倦怠感,発熱などが主体で,腎/脳などの臓器障害を初発時より合併することはまれです。一方,初発症状出現の数年前より既に自己抗体が産生され,エピトープ拡大により徐々にその種類も増えていきます(図1)。
表 SLEの主要症候/病態の頻度(%)(初発時および全経過) |
図1 SLE初発症状出現時期からみた自己抗体陽性率の推移(N Engl J Med. 2003[PMID: 14561795]より改変) |
(!)SLEの分類基準は発症早期では有用性が低い
SLEには臨床研究のために作成された分類基準(米国リウマチ学会,1997)があり,臨床現場ではこれを参考に診断されます。しかしながら,同基準は発症後で疾患像が確立した患者データを基に,他の疾患と区別すべく作られたものであり,実際にSLE症例が同基準における4項目を満たすには,初発症状出現後ある程度時間を要します。したがって,特に発症早期の患者においては,その適用に限界があります。
(!)SLEの関節炎は間欠性で骨破壊はまれ
関節痛・関節炎は初発時に62-67%で見られ,経過中83-95%が来します。罹患関節は関節リウマチ(RA)の場合と同じく手首や手指PIP関節を中心に全身に及び,朝のこわばりも伴い,滑膜組織像も差を認めません。しかし,以下の点でRAと異なります。
☑一過性で,寛解・再燃を繰り返す場合が多い
☑同時に罹患する関節数は多くて数個
☑変形(手指の尺側偏位やスワンネック変形など)を来すが,徒手整復可能(支持軟部組織脆弱化による亜脱臼によるもので,Jaccoud関節炎という)
☑骨びらんはまれ(骨びらんを呈する症例の多くは抗CCP抗体陽性で,SLEとRAのオーバーラップと考えられ,2つの名前を合わせて"Rhupus"と呼ばれることもある)
(?)光線過敏はSLE初発時から見られる?
光線過敏とは,分類基準上「日光曝露に対する皮膚の異常反応として出現する皮疹で,患者報告・医師の直接観察の如何を問わない」と定義され,初発時に29%,全経過では41-60%で見られます。実際,日光曝露直後の発赤は健常人より長く持続し,後に急性・亜急性ループス疹が出現することも少なくありません(曝露後2週間ほどして出現することもある)。
また,日光曝露後に,皮疹だけでなく全身性の病勢増悪(曝露後2-3か月を経て出現することもある)を来すこともあります。紫外線は角化細胞のアポトーシスを誘発しますが,SLE患者はアポトーシスに陥った細胞の処理に異常があり,結果,細胞内のさまざまな自己抗原が流出します。一方,SLE患者では健常皮膚でも表皮真皮境界部に自己抗体が沈着しており,流出した自己抗原と免疫複合体を形成し炎症を起こすと考えられています。
(!)SLEの治療も,リリーバーとコントローラーの組み合わせ
SLEは,初発時こそ関節や皮膚が主体ですが,経過中に腎臓(34-73%),中枢神経(25-75%),血液系(血小板減少症20%,溶血性貧血10%)などさまざまな臓器を冒し,寛解・再燃を繰り返します。SLEの治療も,RAと同じく,即効性のあるリリーバーと,長期的に自己免疫病態を制御するコントローラーとに分類されますが,病態の緊急性・重篤性がRAと比較して高いため,リリーバーは中~高用量ステロイド,ステロイドパルス療法,γグロブリン大量静注療法,血漿交換療法などが適宜用いられ,コントローラーも罹患臓器や重篤性に基づき,アザチオプリン,メトトレキサート,シクロスポリン,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチル,シクロホスファミドなどが用いられます(図2)。
図2 SLEの病態ごとの治療パターン |
さらに,ループス腎炎や中枢神経ループスなど,強力な寛解導入および地固め(寛解または安定維持)治療を要する場合には,有効性/安全性バランスを高めるために,治療開始時は強力なコントローラーを,寛解導入または安定後は比較的安全性の高いコントローラーを用いる(2段階アプローチ)ことが多いです。またSLEでは,RAと異なりリリーバーであるステロイド薬がなかなか終了できず,低用量のステロイドがコントローラーとして使われることも多くあります。
(!)SLEの新規治療法候補の標的はBリンパ球
TNFα阻害薬はRAの治療を大きく改善しましたが,SLEでは,腎臓や皮膚病変などでTNFαの発現亢進があるものの,以下の理由で開発は進められていません。
☑RAなどで投与患者に抗核抗体や抗DNA抗体が高頻度で出現し,実際に少数例で軽症SLE様病態が出現した
☑投与患者に抗リン脂質抗体の出現が見られた
☑SLEの動物モデルにTNFαを投与した際,疾患の減弱効果が見られた
SLEでは自己抗体が引き起こす病態が主であり,Bリンパ球を除去,またはその活動性を制御する治療法の開発が進められています。Bリンパ球除去治療薬であるリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)はプラセボに比して優越性が示されませんでしたが,他の除去抗体の開発が進められています。一方,Bリンパ球活動性制御治療薬であるベリムマブ[刺激因子(BLyS)に対するモノクローナル抗体]が2011年に米国で承認されました。
(!)抗二本鎖DNA抗体は病勢変動に先行して力価が変動する
抗二本鎖DNA抗体と抗Sm抗体は,SLEにおける感度はそれぞれ70%,30%ですが,特異度はいずれも95%以上と高く,診断の補助になります。また前者は,腎病変においてDNAとの免疫複合体を形成するなど,病態形成にも関与しています。そして多くの場合,病勢変動に先行して力価が変動します。しかし,力価上昇後も10%以上で病勢変動がないことから,治療増強判断は同抗体力価だけでなく,臨床所見を加味して行う必要があります。
(つづく)
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