医学界新聞

連載

2011.10.24

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第13回】入院中の症状・症候(4)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。“身体を診る能力=フィジカルアセスメント”を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている“フィジカルアセスメントの小テスト”を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

頭痛

(14)    障害や    症状が出ているときの頭痛はもちろん緊急事態である。(嘔気を伴わない)    と頭痛がある場合も,頭蓋内圧が    なっている場合がある。ちなみに精神的な要因以外の過換気の原因として重要なものには,    がある。

(15)「緊急性を要する二次性頭痛(くも膜下出血など)ではない」可能性を問診で高めたいときには    といった質問をするとよい。

(16)機能性頭痛のうち    の場合,適切な診断を受けているか否かも参考のため聴取する。片頭痛の診断を受けているときには,トリプタン系の頭痛薬(1錠約    円)を持っていることが多い。

(17)鼻閉症状のある患者さんでは,    による頭痛の場合がある。診察ではわからないこともあるため,    科への相談も提案するとよい。

(18)眼の症状を訴える頭痛では    発作に注意する。これは眼科的な緊急症の1つであるため,可能ならば    の左右差,    の濁りなどを診られるとよい。    を伴うこともある。

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※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

「入院中の症状・症候」の小テストも最終回となりました。今回は,頭痛について学びます。

頭痛

(14)頭痛を訴えて受診した人は,よく「血管が切れたかと思って……」と言いますが,医学に100%確実なことがないとはいえ,実際に脳血管障害であるケースはまれです。逆に意識障害や,神経巣症状(運動/感覚麻痺やろれつ困難など)があるときの頭痛では,頭蓋内の病変を疑うのは難しくないはずです。嘔気を伴わない嘔吐は,消化管由来というより,中枢神経系障害によるものが想定されます。神経巣症状が把握しにくい小脳疾患もそうですし,頭蓋内圧亢進もその一つです。

 頭蓋内圧が高いと,血管拡張作用のある二酸化炭素を血中から吐き出そうとして,自然と過換気になります。脳神経外科手術後,人工呼吸器の設定を過換気気味にするのと同じ仕組みです。「過換気=頭痛の不安からくるもの」と決めてかかる前に,緊急性の高い疾患を考えてみる必要がありますね。

 ほかに過換気を来す状態としては,代謝性アシドーシスの代償,つまり重症の敗血症や糖尿病ケトアシドーシスなどがありますので,やはり全身状態の観察も必要になってきます。

 頭痛で脳腫瘍などを心配する人も比較的多いかと思いますが,脳腫瘍自体がまれである上,脳腫瘍での頭痛は一般的に朝に起きる(就寝中に二酸化炭素がたまって,頭蓋内圧が高くなることにより頭痛で目が覚める)こともTipsとして知っておくとよいでしょう。

(15)問診では,疾患の発症形式に注意しています。急性発症と突然発症の違いは意識していますか? 

 突然発症(Sudden onset)は「○時○分に起こった」ものを指しますが,常に時計を見ているわけではないので,「△△を見ているとき」「◆◆をしているとき」という表現のほうが聞き出しやすいかもしれません。もしくは“症状がゼロから突然最大になった(0から100になった)”時点を,グラフに書いて示してもらうのもよいでしょう。突然発症は,何かが切れた・詰まった・潰れた・破れたことを意味していると考えます。となると,突然発症の頭痛は怖い印象がありますね。

 「(1)経験したことのない最悪の頭痛か(最悪),(2)増悪しているか(増悪),(3)突然発症か(突然),のどれにも当てはまらなければ,危険な頭痛である可能性は低い」と,生坂政臣先生(千葉大総合診療科)らがまとめられています[馬杉綾子,他.一般外来での頭痛診断における“最悪”“増悪”“突発”の問診の有用性(和文タイトル).日本頭痛学会誌.2006;33(1);30-3]。これはあくまで一般外来を対象にしたデータですが,入院中や救急外来時にも応用できそうです。皆さんは,どう思われますか?

(16)「片頭痛」と自己判断しただけで,きちんと診断を受けていない人は多いと思われます。一方で,片頭痛を適切に診断していない医師が少なくないのも現状ではないでしょうか。

 片頭痛は日常生活に支障が出る頭痛で,適切なコントロール(予防と発作時の対応)が重要になります。そのKey Drugが,トリプタン系の頭痛薬です。内服や経鼻投与などさまざまな種類がありますが,“高い薬”(薬価で1錠1000円前後,発作時には2つ使うこともあり)ですから,そうした薬の服用が,適切な診断を受けているか否かの目安になります。

 スクリーニング用の質問もありますが,受診するかどうか最終的に決めるのは患者さん自身なので,個人的には適切な医療機関の受診が重要と伝えるだけでもよいのではないかと思います。インターネットが使える患者さんなら,間中信也先生(温知会間中病院)の「頭痛大学」の閲覧を勧めるだけでも,十分な助けになると感じます。

(17)副鼻腔炎は,前頭洞や上顎洞といった表面から圧痛を確認できることもありますが,蝶形骨洞や篩骨洞といった奥まった場所で,身体診察では圧痛が確認できない場合もあります。副鼻腔の透過性の低下を確認する手技もありますが,暗室で行う,光源を必要とする,といった条件があることから,一般的にはできないものと考えてください。そうした設備が整った大学病院の診察室を見学したこともありますが,なかなか難しいようです。

 感冒症状が軽快した後に頭痛が起きる(Double sickening)ことから「数日前に感冒症状がなかったか」といった病歴や「頭を下げると頭痛が増強することがないか」なども確認するとよいでしょう。副鼻腔炎の評価法(画像)やその治療法は,医師間でも統一しきれていない印象もありますが,耳鼻科や耳鼻科領域に詳しい医師に相談するのも大切です。受診の必要性の有無について,主治医に確認してもよいかもしれません。

(18)緑内障発作は,失明に至る可能性のある緊急疾患です。眼の所見はなかなか冷静に診られないかもしれませんが,瞳孔の左右差(患側で散大),角膜のにごり,そして普段とは違う充血(毛様充血:角膜に接する部分に顕著,詳しくは成書参照)などを確認できるようになるとよいですね。筆者もこれまでに2例,入院中の患者さんの緑内障発作に遭遇したことがあるのですが……恥ずかしながらあまり所見を覚えていません。

 緑内障は,頭痛・眼痛・視力低下だけでなく,嘔気・嘔吐を伴うこともあります。薬剤の副作用や精神的なストレスなどから発症することもあるので,院内でも油断なりません。眼科が院内にない場合でも緊急の対応が必要なので,患者さんと最初に接する可能性の高い,看護師さんの意識付けがより重要になってくるかもしれませんよ。

 「入院中の症状・症候」の小テストを受けた,当院看護師の感想です。

小テストを受けて…

 日々,患者さんとかかわるなかで,「痛みがある」「吐き気がある」などの症状が出た場合,指示に従っていました。薬剤などを使用し,患者さんの苦痛を取り除くことは必要なことだと思います。しかし,指示どおりだけでなく,患者さんに何が起こっているのかを症状からアセスメントしていくことが重要であるとあらためて学びました。これを生かし,症状・症候から何が起きているのかを考え,予測をもった看護が提供できるように,知識を増やすとともに技術も身につけていきたいと思います。

(病棟担当看護師(主に消化器内科)・柏原静香)

 当院のHP内には「きいてナ~す みてな~ス」という看護部の情報コーナーがあり,活動内容や院内紹介などがほぼ年4回ペースでアップされています。新人看護師の本音なども掲載されており,看護学生などの参考になっているようです。卒後2-3年目の若い看護師が記者となり原稿を作成しているので,大変親しみやすい内容になっていると思います。ぜひのぞいてみてくださいね。

*質問・感想募集します*

 今回までの13回の連載で「Vital sign」「循環・呼吸」そして「入院中の症状・症候」と3つの小テストが終了し,折り返し地点に到達しました。そこで,これまでの連載内容に関するご質問や,実際に小テストを使ってみてのご意見・感想を大募集します!

E-mail:shinbun@igaku-shoin.co.jp
Twitter:@igakukaishinbun

までお気軽にお寄せください。また,小テストの原本を希望される場合もご連絡ください。なお連載後半では,「緊急時の対応」「チューブ管理」「全体の観察・ADL」等の小テストを予定しています。引き続き,一緒にがんばりましょう。

つづく

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