3つのP(石山貴章)
連載
2011.10.10
その役割や実際の業務を紹介します。
REAL HOSPITALIST
[Vol.10] 3つのP 新しいフレームワーク
石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)
(前回よりつづく)
Why don't you go to the IPC's Hospitalist Leader's Conference next month?
(来月ある,IPCのホスピタリストリーダーズカンファレスに行ってこいよ。)
Huh?
(はあっ?)
IPCというのは,われわれSt. Mary’s Health Centerのホスピタリストグループが所属する,全米最大規模のホスピタリスト会社である。1996年の創業以来,瞬く間に全米の医療業界ナンバーワンと言われる規模に成長した。当然,全米規模でのホスピタリスト需要の急速な増大が,その背景にはある。この会社が年二回,会社に所属するホスピタリストを集めて,数日にわたり講習を行う。患者満足度をいかに上げるか。各グループがどのようにして患者を確保し,そのビジネスを運営しているのか。こういった議題,プレゼン,ディスカッションをみっちりと行うわけである。
わが師匠Dr. Vaidyanとの冒頭でのやりとりの後,このカンファレンスに参加することになった私だが,それによってホスピタリストのとらえ方に関し,新しいフレームワークを得ることができた。今回,それを紹介したいと思う。
*
ここでは,少し異なる切り口でホスピタリストの役割を見てみたい。ホスピタリストの診る患者を,概念的に以下の3つのフレームワークに分けるというものだ。そのカンファレンスでは下記のように番号を振っていたのだが,ここでは独自に「3つのP」という概念として提唱したい。すなわち,
患者#1(Patient):文字通り,人としての「患者」である。
患者#2(Place):ホスピタリストの働く「施設」,特にその上層部を患者に見立てる。
患者#3(Partner):所属するグループや,共に働くサブスペシャリティなど,自分たちの「パートナー」を患者に見立てる。
それぞれの患者(3つのP)が,主治医としてのホスピタリストにいろいろな要求や問題を提示してくる。ここではホスピタリストの役割を,それらさまざまな問題や要求を解決し,満足のいくケア(解決策)を与えること,ととらえてみる。特に患者#2(Place)は,プライマリ・ケア医との違いの点で重要になってくる。
患者#2(Place)の要求や問題には,さまざまなものがある。主だったものとしては,入院期間の短縮,再入院率の減少,教育,ケース当たりのコスト削減,医療チームの構築,そして病院に対する患者の満足度,などが挙げられる。病院上層部からのこういった要求の解決は,ホスピタリストとしてバイタルな問題(重要事項)であり,避けて通ることはできない。しかしこれまで,医学生やレジデントに対するこの分野の教育は,決して十分とは言えなかった。その点,われわれホスピタリストを中心とした医学教育は,この問題をカバーしつつある。
プライマリ・ケア医にとって,これらはほとんど問題にならない。病院に常駐し,病院経営,医療の効率化と質の向上,そしてスタッフ教育などに中心的役割を果たすホスピタリストだからこそ,これらがバイタルな問題となるのだ。
一方,患者#3(Partner)も,日々さまざまな要求をしてくる。具体的には,On Callの当番制,グループビジネスの運営とその拡大,あるいは,他のサブスペシャリティグループとの協力である。ただこれらは,特にホスピタリストに限ったことではない。すべてをビジネスとしてとらえるここアメリカの中で,医療ビジネスとしてグループ診療をしている医師であれば,誰もが遭遇する問題であろう。
この観点から見ると,今までの連載で見てきたポイント,例えば医療チームの構築や,教育,そして入院期間の短縮などは,患者#2(Place)や患者#3(Partner)に関する役割を見てきたことになる。一方,診断やSafety Discharge,日々の患者管理などは,文字通りの「患者」としての患者#1(Patient)に関するものである。無論その問題を解決することは,間接的に患者#2(Place)の要求を満たすことにもなる。
この「3つのP」のフレームワーク。Site-defined(場所を基盤にした)Physician(医師)であるホスピタリストの役割を,わかりやすく示していると思うのだが,どうだろうか。
*
Do you have Hospitalists in Japan?
(日本にも,ホスピタリストはいるのか?)
ここアメリカでホスピタリストをしていて,よく聞かれる質問である。そして,本物のホスピタリストが育つ土壌が,日本にはあると私は思う。
ご存じの通り日本は,病棟勤務医という形で医師が病院に常駐するのが当たり前,という医療形態をとってきている。これはすなわち,患者#2(Place)を管理するという観点からは,ホスピタリスト発祥の地であるアメリカよりも,一歩リードしていることを意味する。
問題は患者#1(Patient),すなわち本来の意味の「患者」を総合的に管理できる医師の数が,限られていることではないだろうか。これはあまりに専門に特化しすぎた教育のせいであり,またそのシステムのせいでもある。逆に言えば,そのシステムと教育とを少し変えるだけで,ホスピタリストを育てることは十分に可能であるとも言える。
無論,日本におけるサブスペシャリティの医師のクオリティの高さは,十分に承知している。ここで述べているのは,あくまでサブスペシャリティの集まりにより構成され,それらをコンダクトするジェネラリストがいない,日本の医療システムそのものの問題点である。
本物のホスピタリストを日本に。これが私の,あくなき目標である。
Real Hospitalist虎の巻新たなフレームワークPatient,Place,Partner。これら「3つのP」の要求を満たし,満足のいくケア(解決策)を与えること。常にこの「3つのP」のフレームワークでとらえ,そして考えることで,ホスピタリストの役割を整理する。 |
セントルイス紹介Photoシリーズ第6弾,日本祭。市内でも有名なボタニカルガーデンで9月の初めに行われ,毎年大勢のセントルイス市民でにぎわう。北米最大規模の日本祭であり,日米の文化交流に役立っている。諏訪太鼓の演奏やみこし担ぎなど,さまざまなイベントが催され,浴衣姿のアメリカ人女性も大勢見られる。 |
(つづく)
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