循環・呼吸(5)(川島篤志)
連載
2011.06.27
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第9回】循環・呼吸(5)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
循環・呼吸領域も残すところ4問となりました。あともう一息ですね。
呼吸
(18)(細菌性)肺炎の治療に重要な要素は,(1)喀痰を出すこと,(2)抗菌薬が効くこと,となります。(1)の喀痰を出す上で重要な要素は,痰の粘稠度(脱水で出せない・痰が硬いなどと言われるものです)やドレナージ(体位ドレナージ)です。
さらに,喀痰を排出するために患者さんに必要な要素は,(1)声門が閉じられること,(2)肺活量/1回換気量が十分にあることです。(1)の声門が閉じられないのは反回神経麻痺によるもので,脳卒中や肺癌症例で見られます。また,(2)肺活量/1回換気量が十分にない場合には,さまざまな肺疾患・胸郭疾患が考えられます。高齢の,肺気腫を基礎疾患として持つヘビースモーカーであり,脳卒中で長期臥床している方が嚥下性肺炎を起こしたら……,治りにくいことは容易に想像がつきますよね。また口腔内が不潔であれば,嫌気性菌が関与する感染症を起こしやすくなります。口腔内衛生を保つとともに,う歯の有無もチェックする必要性があります。
「かぜ」を自力で治したことがある方はいますか? 当たり前の話ですが,かぜは自然に治ります。では,「虫歯」を自力で治したことがある方はいますか? 気付きにくいかもしれませんが,う歯は絶対に自然には治りません。つまり歯科を受診しないと嫌気性菌感染の原因をずっと保持することになりますので,歯科受診を勧めたいものです。
と同時に,なぜ歯科を受診しないのか,ということについてもアセスメントが必要です。予想される原因としては,(1)健康問題としてとらえていない,(2)う歯があっても生活していける・不自由を感じない,(3)歯医者が怖い(冗談です),そして(4)金銭的な問題がある,に収束するのではないかと思います。これは看護師との共同研究に適したテーマではないか……と言い続けてもう数年が経過してしまいましたが,こういった側面にも目を向けられる医療従事者でありたいと思います。
(19)呼吸音の詳細な表現は難しくても,左右差があることは理解しやすいかもしれません。左右差がある場合は,気胸が起きていることや,(片側に有意に)胸水がたまっていることなどが考えられます。中心静脈ルート確保のための手技の後であれば,気胸の可能性が十分考えられます。
他の例としては,肺胞呼吸音と気管支音の違いを聴いている可能性もあります。気管支音は肺胞呼吸音に比べ大きく高い音のイメージで,本来肺胞呼吸音が聴こえるべきところで気管支音のような音が聴こえたら,無気肺や肺炎(コンソリデーションを来している)といった可能性があります。これは少し高度な内容かもしれませんね。ただ,これまで出てきた個々の副雑音の表記よりも,「左右差」というのはある意味意識しやすいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
(20)Vital signの小テスト,問(17)(2908号)でも同じ質問がありましたが,覚えていますか? 繰り返し確認して覚えてもらうことが目的ですので,ぜひ確認してみてください。
(21)二酸化炭素がたまるということは,換気が不十分であることを示しています。ですからCO2ナルコーシスの治療としては,換気を増やせばいいわけですが,患者本人に努力してもらえればよいものの,それができない状態にあることが問題です。実は呼吸数を増やす薬もありますが,これは使いにくいものです。機械的な換気が行える,気管挿管による人工呼吸器管理も選択肢にはありますが,これもなかなか大変です。
NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)は,気管挿管をせずに済む(=鎮静剤を使わない)という意味では,上記の方法より対応しやすい治療法です。しかし,肺炎の合併などで喀痰が多い場合,認知症や不穏状態も含め患者本人の協力が得られない場合や,痩せているためにマスクがフィットしない場合(これはずいぶん改良されたと感じますが)には使用しにくいかもしれません。また医療従事者がNPPVに不慣れな場合も,現実的には難しい選択肢かもしれません。
いざ容態が悪化したときに,"気管挿管+人工呼吸器管理"を望むかどうか,病状的に苦しい患者本人と,急変した患者を見ている家人(本人の病状を知らされていない場合はなおさらです)に救急現場で短時間で確認するのは,お互いにとって難しいことです。重篤化する可能性のある呼吸器疾患では,容態が安定しているときから,患者本人および家人(遠方にいる場合も含め)に,急変時対応について十分説明しておくことが求められると思います。疾患も年齢も関係なく終末期のことを考える文化が浸透することが,日本の医療の将来にとって重要なことではないかと考えています。
*
さて,聴診を含めた循環・呼吸の長~い話がようやく終わりました。聴診の意義・限界など筆者の私見が混じっているので,違和感を感じた方もおられるかもしれませんが,今回の小テストを参考に,各施設・各個人で文化を創っていただければと思います。
なお聴診に関しては,あと二点,追加コメントがあります。一つ目は,聴診器選びの際に何を重視するか? ということです。ダブルチューブになっているもの,長さ,膜型かベル型かなどによって値段も変わってきます。一内科医としてはある程度の質にはこだわりますが,一番重視するのは何かと若手医師に尋ねられた場合,筆者自身は「イヤーピースとイヤーピースの間が一番大切!」と答えています。どこを指しているか,わかりますか?
答えは"聴診する人の頭の中"ということです。どのような病態を反映して,どのような音が聴こえてくるか予測することで,無意味だった音が意味を持ってきます。
二つ目は,聴診はコミュニケーションスキルの一つだということです。"どうせ聴こえないから""わからないから"聴診しないのではなく,コミュニケーションとして聴診を考えてみると,大きな意味があることがわかると思います。聴診を期待して,外来でいきなり脱ぎ始める高齢者や,ベッド上で既に服を脱いで待っている人もいますよね(若い看護師さんに聴診を期待する男性,は別の意味で問題ですが)。聴診はシンボル的な医療行為であり,純粋医学的な判断時以外にも重要となることは,医師よりも看護師の方々がよく理解されているのではないでしょうか?
「循環・呼吸」の小テストを受けた当院の看護師の感想です。
小テストを受けて…今回,呼吸・循環におけるフィジカルアセスメントに関して学習させていただきました。食事摂取や本を読む動作などがけっこうな運動量を必要とし,呼吸・循環状態を見る上で重要な動作であることを知りました。このことから,バイタルサイン以外にも日常生活のなかでの何気ない動作ができているか,観察していく必要があると感じました。また,今までわかりにくかった呼吸音について,Wheezes・Cracklesの分類やグレード,聴取できた場合その呼吸音が何を意味しているのかをわかりやすく教えていただきました。この学びを今後の看護実践,看護記録に活用していけるようにしたいと思います。 (勝山智司・看護師2年目・ICU) |
次回からは,「入院中の症状・症候」の小テストに入ります。お楽しみに!
(つづく)
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