医学界新聞

連載

2011.07.25

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第79回〉
新・日本看護協会

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 平成23年度日本看護協会通常総会が終わった。

 昨年までは,代議員と一般会員を含めておよそ5000人のマンモス「会議」であったが,公益社団法人に改組されて最初となる今年の総会はおよそ3000人の参加者であった。代議員は750人と規定され,理事会の権限が強化されることになった。この総会の終了をもって,副会長としての私の任務も終わった。

日本看護協会の歩みと理念

 日本看護協会は,太平洋戦争終結の翌年,昭和21年11月23日に設立された「日本産婆看護婦保健婦協会」から始まる。産婆(現,助産師),看護婦(現,看護師),保健婦(現,保健師)の3職種は,戦前は別々の会として歩んできたが,連合国軍総司令部(GHQ)公衆衛生福祉部看護課の指導で組織の一本化が進められたのである(特に,長い歴史のあった日本産婆会の説得には困難を極めたとされる)。当時の会員は1323人,会費は年額20円であった。その後,社団法人の認可を受けて,昭和26年には一本化の基本理念とされた「看護は一つ」に基づき「日本看護協会」と改め,名実ともに職能団体の基礎を固めたのである(日本看護協会編『日本看護協会史 第6巻』2頁)

 公益社団法人となった現在の日本看護協会の会員数は,62万1358人(平成22年3月31日現在)であり,就業者数(132万3459人)の47%である。職能別の入会率では,保健師49%,助産師75%,看護師60%,准看護師13%となっている。

 公益社団法人となるに当たって最初に手がけたのは,日本看護協会のミッションを明らかにすることであった。多くの議論が重ねられた結果,「日本看護協会の基本理念」は次のように定められた。

1)使命
 人々の人間としての尊厳を維持し,健康で幸福でありたいという普遍的なニーズに応え,人々の健康な生活の実現に貢献する。そのため,
*教育と研鑽に根ざした専門性に基づき,看護の質の向上を図る。
*看護職が生涯を通して安心して働き続けられる環境づくりを推進する。
*人々のニーズに応える看護領域の開発・展開を図る。

2)活動理念
*看護職の力を変革に向けて結集する。
*自律的に行動し協働する。
*専門性を探究し新たな価値を創造する。

3)基本戦略
 看護の質の向上,看護職が働き続けられる環境づくり,看護領域の開発・展開の3つの使命に基づく事業領域において,政策形成,自主規制,支援事業,開発・経営,広報,社会貢献の6つの実現手法を用いて,人々の健康な生活の実現を図る。

新たなリーダーのもとで

 今回の通常総会では,平成23年度重点政策・重点事業が次のように報告された。

1)労働条件・労働環境の改善
2)安全で効果的な医療提供体制をめざした特定看護師(仮称)の法制化・制度化の推進
3)長期的な在宅療養を支える訪問看護を基盤としたサービス提供体制の確保と整備
4)看護師教育および保健師・助産師教育の充実
5)看護職の卒後臨床研修制度の推進
6)保健師の専門性を発揮するための活動基盤の強化
7)助産師の積極的な活用による安全で安心な妊娠・出産・育児環境の整備
8)東日本大震災復旧・復興支援事業

 平成23年度の資金収支事業活動支出予算の総額はおよそ50億円となる。

 総会では代議員や一般会員から活発な発言があった。私のメモによると,延べ44件の発言のうち最も多く言及されたのは特定看護師(仮称)に関してであった。大半が特定看護師(仮称)の制度化に懐疑的・批判的であったが,「卓越した技術を持っているナースが力を発揮できるよう,7対1看護配置とは別枠として,制度化をすべきである」という力強い意見が1件あった。

 日本看護協会は,中医協や社会保障審議会介護給付費分科会をはじめとする数々の政策決定の場に委員を出しており,看護界のオピニオン・リーダーの役割を担っている。そのリーダーが今期,久常節子会長から坂本すが会長へ引き継がれた。

つづく