外来がん化学療法において看護の力を発揮するために(山内照夫,田墨惠子,番匠章子,岩嵜優子)
対談・座談会
2011.07.25
【座談会】
外来がん化学療法において
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近年,外来におけるがん化学療法の治療件数が飛躍的に増加するなか,いかに患者の安全を守りセルフケアを支えるか,各医療機関でさまざまな取り組みが行われている。一方で,「化学療法を担う看護師不足,教育体制の未整備などにより,患者に対し十分なケアができていないのではないか」「十分な指針もないなか,自施設の取り組みはこれでよいのだろうか」などの悩みも聞かれる。そこで本座談会では,業務の効率化も視野に入れ,いま外来がん化学療法看護に必要なこと,できることは何か,お話しいただいた。
田墨 外来におけるがん化学療法の治療件数は年々増加傾向にあり,治療自体も複雑化の一途をたどるなかで,看護師の役割が非常に大きくなってきたと日々感じています。まず,皆さんの施設における外来がん化学療法の現状についてお話しいただけますか。
番匠 当院では,日帰りの化学療法は化学療法センターが担っています。ベッド数は24床。月曜日から金曜日まで1日約30件,年間では6500件程度化学療法を実施しています。
スタッフは,専任の看護師として私とがん化学療法看護認定看護師の2人,それから外来から長期リリーフという形で3人の看護師が勤務しています。医師は当番制です。
岩嵜 当センターの外来通院治療センターは,今年3月にリニューアルオープンし,70床に増床しました。当面は39床で稼動することになっていますが,段階的に開床していく予定です。治療件数は1日当たり60-70件,年間1万5000件程度で推移しています。
登録されているレジメンは多岐にわたりますが,なかでもジェムザール®などの短時間レジメンが多く,消化器内科のレジメンが約半数を占めています。スタッフは,がん看護専門看護師2人,がん化学療法看護認定看護師1人を含む専任の常勤看護師14人が勤務しています。
山内 当院のオンコロジーセンター(外来化学療法センター)は39床で,1日40-50件,年間約1万件の外来化学療法を行っています。扱うがん種は幅広いですが,外来化学療法センターが乳腺外科の規模拡大に伴って拡充していったという経緯もあり,乳腺外科の患者さんが7-8割を占めます。腫瘍内科としてあらゆる腫瘍を対象にしており,さらにリウマチや膠原病の分子標的薬を扱っているのも当センターの特徴だと思います。
看護師は,乳腺外科とオンコロジーセンターとの兼務で17-18人が配属されており,ローテーションを組み,10-11人が当センターに常駐勤務するという形をとっています。そのうちがん看護専門看護師,がん化学療法看護認定看護師,乳がん看護認定看護師が1人ずつ勤務しています。
田墨 当院の現状をお話ししますと,化学療法室のベッド数は19床で,1日当たりの平均治療件数は約30件です。年々増加しており,昨年度は年間7000件を超えました。ただ,大学病院ということもあり,内訳を見るとアクテムラ®などの抗体治療が増加しているのが現状で,がん化学療法自体はこの辺りで飽和しているのではないかと考えています。看護師は7人勤務しており,うち6割が16時15分までの勤務です。化学療法室拡張の話も出てはいますが,スタッフ数の確保が厳しい現状では難しいのではないかと思っています。
医療者自身を守れているのだろうか?
田墨 各施設の現状をご紹介いただいたところで,看護師に期待される具体的な役割についての話題に移りたいと思います。化学療法における看護師の役割として,まず挙げられるのはリスクマネジメントです。リスクマネジメントには患者さんを守ることと,医療者自身を守ること,の二つの視点があります。特に後者については,抗がん薬の調製時,プライミング時,投与時,投与終了後のライン抜去時などに抗がん薬曝露の危険性が指摘されています。
薬剤師の場合は,2008年に日本病院薬剤師会による「注射剤・抗がん薬無菌調製ガイドライン」において具体的な方針が示されました。しかし看護師は,化学療法外来における曝露対策の重要性は認識しつつも,その具体策については施設間の差が大きく,どのような対策が有効なのか,コンセンサスを得るには至っていないのが現状です。北里大学病院ではどのような対策をとっていますか。
番匠 当院では,抗がん薬を扱う際には防水性のガウン,マスクとニトリル製の手袋を着用しています。調整時,手袋は厚さ約0.2 mm以上が望ましいと言われて投与時もそれに準じ,薄い手袋の場合は重ねて使用しています。現在抗がん薬の調製の大半が薬剤部で行われているので,ゴーグルを使用するのは病棟で調製するときなどに限られています。調製後の薬剤については密封した容器に入れて運んでいます。
田墨 静岡がんセンターはどうですか。
岩嵜 個人防護具としては手袋とマスクを着用しています。ガウンとゴーグルは,夜勤などでどうしても病棟で抗がん薬を調製しなければいけない場合のみ着用している状況です。
山内 当院も同様で,抗がん薬の調製をすべて薬剤師が行っていることもあり,看護師が抗がん薬を扱う際に着用するのは手袋のみです。ただ,病棟においては週末に限って看護師が薬剤を調製しなければいけない場合があるので,その際にはゴーグル,ガウンを着用しています。
田墨 当院では,看護師が抗がん薬の調製を行うことはありません。化学療法室の看護師には標準的にマスクと手袋を着用するように指示しているのですが,限られた時間で多くの治療件数をこなさなければいけない状況下で,手袋の着用がなかなか浸透しません。このような状況を見ていると,医療者から患者さんへの感染を防ぐために手袋やマスクを着用するという意識は浸透してきたけれど,抗がん薬投与における手袋やマスクの着用の意味,医療者自身の身を守るという意識はまだまだ低いのかなと感じます。
■防水性の防護具など,できることから改善を
田墨 今お話を伺っていても施設ごとにさまざまな状況があるなか,やらなければいけないことをやっていないのか,やらなくてもよいからやらないのか,一度整理する必要があるのではないかと思います。私自身は,防護のポイントの一つは防水ではないかと考えています。北里大学病院でも防水性の防護具を使用されていますね。
番匠 ガウンは従来撥水性のものを使用していたのですが,私も防水が重要だと考え,環境整備課に交渉して防水性のガウンに替えてもらいました。さらには,防水性ガウンのクリーニング代と,使い捨てガウンのコストを比較したところ変わらないことがわかり,使い捨てガウンの使用を検討しているところです。
田墨 コストの面から検討することも重要な視点ですね。マスクについてはいかがですか。
番匠 米国のガイドラインでは調製時N95の使用が推奨されています。しかし,N95は看護師にとっては息苦しく,患者さんから見ても「自分たちはそんなに危険物扱いされるのか」と不安を煽りかねません。薬剤を外気にさらすことなく注射用器具に接続注入できる閉鎖式薬剤混合デバイスが開発されたこともあり,投与時はサージカルマスクで十分防護できるのではないかと考えています。
田墨 確かに,閉鎖式薬剤混合デバイスの開発によって,曝露の危険性は非常に低くなりましたね。ただ,そういったデバイスは価格が高いため,導入を見送る医療機関も少なくありません。コストの面でどう折り合いをつけるかといった点は今後の課題だと思います。
どの施設でも調製は通常薬剤部で行っているというお話でしたが,そうすると,看護師にとって危険なのはルートのつなぎ換えや輸液バッグの交換時だと思います。その際,皆さんゴーグルは使用していないそうですが,目からの曝露を回避するために,何か工夫していることはありますか。
番匠 輸液バッグを交換するときには目線の位置より下げて手元で行います。ルートのプライミングは生理食塩水もしくは前投薬で行い,ルートの先から抗がん薬に曝露することを防いでいます。また,閉鎖式およびロック式の点滴セットを使用し,三方活栓など接続部から漏れないようにしています。
岩嵜 私たちも輸液バックにルートをプライミングする際や,抗がん薬の輸液の交換時には輸液を必ず下に向けます。また,輸液を点滴台にかけて準備する際,以前は抗がん薬につけたルートの先端がちょうど看護師の目線に近いところに垂らされていることが多かったのですが,それを目線より下にセッティングするようスタッフに働きかけているところです。
田墨 山内先生,米国では2004年に国立労働安全衛生研究所から「医療現場における抗がん薬およびその他の危険性医薬品の職業的な曝露を防止すること」との勧告が出されるなど,曝露対策が非常に厳格に行われている印象がありますが,いかがでしょうか。
山内 米国では労働安全衛生局(OSHA)が,化学療法室や研究室に勤務し有害物質に曝露される可能性がある人に対し,自らを守るための研修を実施することを職場に課しています。OSHAが示す基準を満たした研修を行わなければ,危険物自体を取り扱えないのです。私が病院に勤務する際にも,薬剤を扱う際や廃棄する際に自分の身を守るための研修がありました。
田墨 国内で標準化されているのですね。日本ではまだまだ病院単位,部署単位の基準しかないので,できることから抗がん薬取り扱いのスタンダードを整備していくことが大事なのかもしれません。
静脈穿刺は誰が担う?
田墨 次に,「患者さんを守る」というもう一つの視点ですが,患者さんのリスクに関して医療者がいちばんストレスを感じるのは,抗がん薬の皮下漏出ではないでしょうか。治療中に皮下漏出した際の対応については,皮膚科医にコンサルトするなど,既に各施設で取り決めがなされていると思います。今回皆さんにお伺いしたいのは,抗がん薬の静脈穿刺についてです。
2002年に「看護師等が行う静脈注射は診療の補助行為の範疇として取り扱う」との厚労省医政局長通知が出されたことにより,現在施設によっては静脈注射を担う「IVナース」の育成が進められています。しかし,起壊死性抗がん薬と呼ばれる一部の薬剤は,皮下漏出により皮膚壊死を起こすこともあり,大変リスクの高い処置です。そのため,静脈穿刺には医師と同等か,それ以上の安全な技術を持つ必要があると考えます。当院では専門看護師である私が医師と一緒に穿刺を行っていますが,皆さんの施設では抗がん薬の静脈確保はどの職種が担っていますか。
番匠 当院でもIVナースの育成は行っていますが,抗がん薬の静脈確保は医師が行っています。ただ,病棟によっては静脈ポートの場合に限り看護師が穿刺している部署があるようです。
岩嵜 当院では,今年4月よりIVナースが静脈穿刺・静脈...
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