MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.06.27
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
星 旦二,栗盛 須雅子 編
《評 者》湯浅 資之(順大准教授・公衆衛生学)
住民グループ活動が必要な時代に応える待望の書
医学雑誌『Lancet』でBeagleholeらは,世界の健康をめぐる状況の急激な変化に今日の公衆衛生は対応できておらず,新しい時代の公衆衛生には住民自身によるグループ活動が何よりも重要であると述べている[Lancet. 2004 ; 363(9426) : 2084-6]。彼の指摘を待つまでもなく,今日ほど住民グループによる活動が必要な時代は,かつてなかったかもしれない。本書はまさに時代の要請に応える待望の書である。
本書は,保健師や管理栄養士ら保健医療福祉専門職が住民の自主グループ活動を推進するためのノウハウをまとめたマニュアルである。その狙いは,豊富な事例を検証し抽出した実践的な住民グループ支援方法をわかりやすく解説することにある。また,行政主導・専門職主導ではなく,住民の主体性に基づく活動をいかに育てるかに力点を置き,住民と専門職が共に成長できる方法を論じることも狙いとする。この点で,本書は住民の自主性を尊重したグループ活動の手順をわかりやすく解説することに成功している。
本書では住民グループを「住民の主体的な意思が尊重され,住民自身の健康づくりにつながりやすい活動を推進させる家族以外の複数で構成される仲間」と定義し,その活動の特性を「形式ではなく内容が重視され,楽しく,継続的に取り組まれ,経済成果を最優先としない」ものと規定している。形ではなく中身が大事であり,何よりも継続するには楽しいこと,素晴らしい仲間づくりが大切であるというのである。このことは誰もが認識していることではあろうが,多くの指南書は学者好みの学術的あるいは根性論的な組織形成論にとどまっている。他の類似本とは異なり,本書が現場の専門職や住民の視線で執筆されていることは特筆すべきことであろう。
本書は大きく4つの章から構成されている。I章では,住民グループとその活動の基本が,前述した要点を中心にわかりやすく解説されている。II章では,子育て・介護予防など読者が担当する領域ごとに,住民グループのつくり方・育て方のポイントが事例を基に説明される。III章は,日常遭遇するさまざまな問題について先輩が助言するような語り口の問答(Q & A)が記載されている。例えば,若い保健師の「こんなに忙しいのに,なぜ住民グループ支援までやらなければならないのですか」という問いに対する回答には,励まされる読者も多いことだろう。最後のIV章では,具体的な先進事例が紹介される。
本書の特長は,要点がわかりやすく記載されていることである。一般的に,住民グループ活動は一つとして同じものはなく,グループの数ほどその成り立ちも構成も異なって存在する一方で,千差万別の複雑な社会現象にも共通点が観察される。本書は活動のそうした共通項を「ポイント」として数か条にまとめた上で,各節の末尾で「ポイント」を再度図式化して示している。読者は全体の流れが一目で理解できるのである。
本書では,さまざまなタイプの住民グループ活動を,(1)準備期,(2)創造期(グループ結成時・活動開始時),(3)継続・転換期,(4)発展期の4段階に分けて記述することで,活動をより詳細に見て,そのダイナミズムを理解できるような工夫が施されている。支援の原則や,グループ発展の推進要因と阻害要因,グループの特徴などもわかりやすく記述されている。事例として挙げた住民グループ活動に関連する,より詳細な説明や学術的資料などは「コラム」として取り上げている。
住民グループ活動支援の現場経験が豊富な執筆陣によって書かれた本書は,住民と共に楽しみながら地域保健活動を展開したいと切望する専門職読者に,必ずや大きな示唆や励ましをもたらしてくれると確信する。ぜひ,ご一読をお勧めしたい。
B5・頁176 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01186-0


村島 温子,山内 愛 編著
《評 者》山根 美和(柴田産婦人科医院・看護部)
妊娠中によくある症状や疾患別の対応を解説
有益投与とは「治療上の有益性が危険性を上回るときのみ投与する」という意味である。薬は有益な作用を期待して使用するが,どんなに有益であっても,副作用や危険性が高い薬剤は使用する際には十分に注意しなければならない。妊娠・授乳中ならなおさらである。
「妊娠とわかる前に薬を飲んでしまったのですが,大丈夫ですか?」「授乳中ですが,薬を飲んでも大丈夫ですか?」というのは産婦人科に勤めていれば,かなりよく聞かれる質問である。質問を受けて,内服した(これから内服する)という薬を添付文書で調べると,“有益投与”という内容の説明がほとんどで,決して「妊娠・授乳中も安心して内服できる」などという文は出てこない。そこで患者さんへは有益投与であることを伝えるのだが,対応の仕方によっては,不安を大きくしてしまう。
この本はそんな妊娠・授乳中の薬の使用・解釈・説明について,国立成育医療研究センター母性内科・村島温子氏と同看護部・山内愛氏を編著に,わかりやすくまとめられている。2008年4月から1年間『助産雑誌』に連載されていたときから,私はぜひ別冊にまとめてほしいと思っていた。待望の書籍化である。妊娠期の安易な薬剤投与は避けるべきだが,母体の体調不良は胎児にとってもよくない環境であり,必要であるにもかかわらず投与しないで不利益を被ることがある。本書では,「先天奇形の自然発生率を薬剤投与によって有意に上昇させるかどうか」という考えをベースに総論と各論が展開される。総論では薬剤使用の基本事項であるAll or Noneの時期,安全性への評価・臨床への応用,授乳中の使用に関する基本的な考え方と基本事項の確認ができる。各論では,妊娠中によくある症状や疾患別に事例を挙げてQ & A形式で書かれており,患者さんにどのように対応すればよいかが紹介されている。
また,本書の特色は随所にケアのポイントが紹介されている点である。薬への不安は子どもへの影響を懸念する母親の気持ちの表れであり,その気持ちを無視してケアはできないこと。妊娠中・授乳中に,より健康的で不安なく過ごしていけるような,気持ちに寄り添ったケアが大切であること。薬の副作用も大切だが,母親の心配する気持ちがどこから来るものなのか,薬に対する不安感などを理解して仕事を続けていかなければと改めて感じられる1冊である。
本書は,産婦人科に勤務する人には必読...
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