これだけは知っておきたいDPCの概要(林田賢史)
連載
2011.04.18
皆さんは「DPC」をご存じですか? DPCに興味がある方もない方も,たまたまこの欄に目がとまったあなたも,DPCの基礎知識をぜひ身につけてください。日常実務の場面でも,看護研究を行う場面でも,その知識はきっと役立つはずです。本連載(全3回)ではDPCの"基礎の基礎"について,できるだけ平易な表現でお伝えします。
DPCは何の略称? 役割は?
DPCが何の略称かわかれば,DPCについての最低限の知識が身についたと言えます。
実は先日,看護界の偉い先生とお話しているときに,「これからのDCPって」「DCPの役割は」と,しきりに"DCP"と連呼されていました。さすがに「いや"DPC"ですけど……」とは言えず,そのまま話は続きましたが,DPCが何の略称かを理解すればそういう間違いは決して起こりません。
DPCとは「Diagnosis Procedure Combination」の頭文字,つまりDiagnosis(診断)とProcedure(治療・処置)のCombination(組み合わせ)の略称です。DPCは,この「病名(診断)」と「提供されたサービス(治療・処置)」の「組み合わせ」によって,さまざまな状態の患者を分類するツール(方法)となります。
当初,DPCは支払い制度と強く結びつけられて(あるいは「支払い制度そのもの」として)紹介されることが多かったため,支払いのための仕組みとして理解されている方が多いと思います。しかし,それはあくまでも役割の一つに過ぎません。DPCの本質は,患者を分類するための,わが国独自の診断群分類(臨床的な類似性と医療資源の必要度の均質性に基づいた患者の分類)なのです。
DPCは,データ(根拠)に基づく意思決定と行動の「ツール」として用いることが可能です。そのため,(急性期)医療における「臨床」「経営」「制度」の質を向上・改善するための役割を担っている,と言えます。
例えば,臨床や経営に関しては,それらにかかわるデータを可視化(数値化)して,施設間で,あるいは経年的に比較(ベンチマーキング)することによって,質の向上・改善を図ります。また,制度に関しては,適切な診療報酬体系や地域医療計画等の構築に資するデータ分析を行うことで,質の向上・改善を図ります。「良質な医療を公平かつ効率的に提供する」という,医療における「質」「効率」「公正(アクセス)」の適切なバランスを達成するために利用されるわけです。DPCによって標準化されたデータが日常業務の中で大量に収集され,データの公開等も実施されていく中で,これらの役割を果たすことになります。
14桁のコードにはそれぞれ意味がある
DPCでは,おのおのの患者は14桁の診断群分類コードで表されます(図)。それぞれの桁は意味を持っています。
図 診断群分類コードの構成 |
最初の6桁は,入院期間中に「医療資源を最も投入した傷病名」に基づく分類コードです。これはICD 10(国際疾病分類第10版)に対応しており,「基本DPC」と呼ばれます。そのうち上位2桁が主要診断群(Major Diagnostic Category ; MDC)で,例えばこれが「01」であれば神経系疾患,「05」であれば循環器系疾患ということになります(MDCは当初16種類でしたが,2008年度から細分化され18種類に増えています)。
7桁目は入院目的等の「入院種別」を表すコード(2006年度以降設定なし)。8桁目は特定の条件を表すコードで,年齢・出産時体重・JCS(Japan Coma Scale)等が医療資源の投入量に影響する場合に使用されます。9-10桁目は,この2桁で「手術等サブ分類」を表し,基本DPCとの関係の深さに応じたコードが振られます。11桁目と12桁目は,補助手術や化学療法,放射線療法等の有無や種類で分類されるコードになります。13桁目は医療資源の投入量に影響を与えるような入院時併存症や入院後続発症の「副傷病名」を表すコードです。最後の14桁目は,13桁目までで表現できなかった医療資源投入量に影響を与えるような「重症度等」を表すコードになります。
なお,患者の診断群分類コードのうち,最初の6桁の疾病部分と9-10桁目の手術部分をみると,その患者の概要を把握することが可能になります。
DPCデータからわかること
DPCでは,患者を分類したり,施設を評価したりするための標準化されたデータセット(DPCデータ)があります。これは,患者の臨床情報や診療行為等に関する情報であり,分析可能な全国統一形式の電子データセットです。そのうち基本となるものは,患者の診療録情報(簡易版の退院サマリ)である「様式1」,診療明細情報の「Eファイル」,診療行為情報の「Fファイル」,包括診療明細情報の「Dファイル」です。
様式1には,患者基本情報や臨床情報が入っていて,入退院日や診断・手術情報,各種のスコア・ステージ分類等の診療情報があります。Eファイルには,出来高点数に関する情報が入っていて,診療行為内容(実施年月日・名称・回数等)が,FファイルにはEファイルについての詳細な情報(行為,薬剤,材料それぞれに関する点数や数量等)があります。またDファイルに関しては,DPCの診療報酬請求にかかわる診療報酬点数等の包括診療明細情報が入っています。
つまり,「様式1」から患者の基本情報と臨床情報が,「E,Fファイル」から「いつ」「何を」「どれほど」行ったかの情報が,「Dファイル(もしくは出来高支払い病院はEファイル)」から病院の収入がわかることになり,診療や経営の質のマネジメントにとって有力な情報になります。なお,これらのほかに施設調査票である「様式3」や保険診療の内容を示した「様式4」もありますが,詳細は割愛します。
DPCに基づく支払い制度の概要
現在DPCに基づく支払い制度の対象は,DPC対象病院の一般病床入院患者のうち,診療報酬が設定された分類(現在2658の診断群分類が設定されていて,このうち1875分類について1日当たりの包括点数が設定されています)に該当する患者になります。
診療報酬は包括評価部分と出来高評価部分に分かれていて,包括評価部分はいわゆるホスピタルフィー的要素(医療機関の運営コスト等入院医療における基本的費用に対する報酬),出来高評価部分はドクターフィー的要素(医師による疾病の診断や治療等,医師の技術料部分に当たるサービス費用に対する報酬)になります(表)。具体的には,手術料,麻酔料,1000点以上の処置料等や,手術や麻酔で用いた薬剤や医療材料が,出来高で支払われ,それ以外の入院基本料,検査,画像診断,投薬,注射等は,DPCごとに決められた1日当たりの診療報酬額が支払われます。
表 DPCにおける包括評価の範囲 | |
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1日当たりの診療報酬額は入院期間によって異なり,入院期間I(各DPCの25パーセンタイル値に相当する在院日数まで),入院期間II(入院期間Iを超え平均在院日数まで),入院期間III(入院期間IIを超え平均在院日数+2×標準偏差まで)の3段階の逓減性が採用されています。特定入院期間(入院期間IからIIIまでの通算期間)を超えた場合は,それ以降出来高での支払いになります。なお,包括評価における1日当たりの診療報酬額に影響を与えるものとして,病院機能の違い等を反映させた医療機関別係数(指数)が病院ごとに設定されており,機能が高い病院ほど1日当たり包括診療報酬は高くなります。
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さて,今回はDPCの概要について紹介しましたが,気軽に読んでいただくために簡略化した部分があります。さらに詳しく,より正確に理解したいと思われた方は,関連する書籍等をご覧ください。次回以降は,DPCの実務や研究での利用・活用例,今後の動向等についてご紹介したいと思います。
(つづく)
林田賢史
1995年東大医学部保健学科卒。社会保険中央総合病院にて看護師として,IT企業にてITエンジニアとして勤務。広島大医歯薬学総合研究科(公衆衛生学)助手,京大大学院医学研究科 (医療経済学)助教・講師を経て,2010年7月より現職。医療・看護経済学をベースに,政策・マネジメントに関する教育や研究,現場での実践を行っている。博士(社会健康医学)。
この記事の連載
ナースのためのDPCの基礎知識(終了)
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