医学界新聞

2011.05.23

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ケアする人も楽になる
認知行動療法入門 BOOK1BOOK2

伊藤 絵美 著

《評 者》鈴木 啓子(名桜大教授・精神看護学)

認知行動療法の学びとストレスケアの一挙両得

 本書は「認知行動療法入門」とありますが,認知行動療法を患者さんに行うための本ではなく,ケアする人々(特に看護者)自身の心身のセルフケアに活用できるための解説書です。

 手に取ると,イラストがかわいらしく,忙しい合間にも短時間でも読み切ることができる内容です。添付されている図表やシートも,使いやすそうです。自分で実際にトライするタイプの自己トレーニングマニュアルになっており,学生でも十分わかる内容になっています。

 2冊組のうち,BOOK 1では,認知行動療法の考え方と手法を具体的に紹介し,臨床で看護師が出くわすであろうストレス事例を取り上げて,その実際を学習することができます。この中で著者は認知行動療法の適応と限界,実施に当たっての注意事項も丁寧に述べており,読者が安全に使うということにも配慮してあります。どのようなストレス状況にも効く万能薬というものはどこにもないのですから,当然といえば当然ですが,きちんと記載されているところに好感が持てます。

 また,BOOK 2では,実際によくある事例のストーリーを読みながら,読者自身が「自分だったらどうするだろうか」と考えながら読むことのできる展開となっています。「無能な同僚管理職に腹が立って仕方がないカオルコさん」「キレる医師のいる職場で恐怖を感じるサチコさん」「精神的に不安定な看護学生とのかかわり方に悩むタマキさん」といった事例において,相談者の相談の経緯,認知行動療法の導入,展開,その後がストーリーになっているので最後まで読まずにはいられません。つい感情移入してしまい,私も読みながら事例の相談者に共感し,「バカバカ」と罵りたくなってしまいましたが,振り返ってみると,自分自身の身の回りにも似たようなことがあることを感じます。

 看護師は常識の通用しない相手にも正攻法で自分が頑張る,あるいは我慢することで問題を解決しようとする人が多いのではないでしょうか,と著者はやんわりと述べています。真面目だけれども,物事を柔軟に考えることができずに,ゆとりのない職場環境のもとで強いストレスを抱えて苦労しているということです。真面目と正攻法だけでは燃え尽きてしまいます。本書の中で,心身ともに健康な人とは,幅広く,多様な対処行動(大したことではなく,ちょっとしたこと)が取れ,時には「迂回する」「放置する」「助けてもらう」といった柔軟な対処方法を用いることができる人だと記載されていたのが印象に残ります。

 本書は入門書ではありますが,認知行動療法の基本的な理論,技法,ツールについて...

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