医学界新聞

連載

2011.04.04

それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴

【第13回】

失神:QT延長症候群

志賀隆
(Instructor, Harvard Medical School/MGH救急部)


前回よりつづく

 わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。


 研修医生活も2年目となった。救急外来で後輩を指導することになり,少し不安なあなた。とはいえ,救急外来は相変わらず忙しい。元気なインターンが症例の相談に――。

■CASE

 16歳女性。生来健康。家族と口論となり,失神したとのこと。前駆症状はない。血尿なし。現在は元気にしていて,右の腰が少し痛いと言っている。以前,朝目が覚めてすぐに失神したことがあるという。血圧100/80 mmHg,脈拍数98/分,呼吸数14/分,SpO2 99%(RA),体温37.0℃。頭部外傷なし,頸椎を含めた椎体の圧迫なし,胸腹部圧痛なし,心音純,肺音清,四肢の腫脹圧痛なし。右の傍椎体部の圧痛あり。

■Question

Q1 失神の問診にて大事な点は何か?
A 鑑別診断を考えながら問診をすること。

 失神(SYNCOPE)の問診の一例を下記に示す。

Situational:咳や排尿などがあったか。

Vagal(※V looks like Y):空腹や疲労,感情の起伏があったか。

Neurogenic:頭痛の有無の問診は,くも膜下出血との関連から考慮すべきである。失神は,両側の脳血流が遮断されないと起こらないため,TIA(一過性脳虚血発作)ではめったに失神にはならない。

Cardiac:胸痛,呼吸困難の問診。さらに,『研修医当直御法度(第4版)』(三輪書店)で紹介されているHEART[Heart attack(急性心筋梗塞),Embolism(肺塞栓症),Aortic dissection(大動脈解離),Rhythm disturbance(不整脈),Tachycardia(心室頻脈)]にも気を付けたい。

Orthostatic:性器出血,タール便,腹痛の問診。女性なら,子宮外妊娠を考える。ワルファリン服用中の患者であれば後腹膜血腫を考える。心窩部痛があれば,上部消化管出血を疑う。

Psychiatric:転換性障害などを疑う。

Everything else

Q2 診察に当たって気を付けることは何か?
A 鑑別診断に沿って診察すること。外傷の評価を忘れないこと。

 心血管系では,心音(特に収縮期雑音に注意。失神を伴う大動脈弁狭窄症の場合は手術適応),両側の撓骨動脈,頸動脈雑音,腹部の圧痛の

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