ティーチングとコーチングで自立した看護師を育て,質の高い看護の実現へ(諏訪茂樹)
インタビュー
2011.03.21
【interview】
ティーチングとコーチングで自立した
看護師を育て,質の高い看護の実現へ
諏訪茂樹氏(東京女子医科大学看護学部准教授)に聞く
昨年4月に,新人看護職員研修が努力義務化されて約1年。現場ではさまざまな取り組みが行われています。一方,中堅以上の看護師教育も看護の質向上のためには不可欠であり,教育は管理者を悩ませる大きな問題の一つではないでしょうか。
そんな折,諏訪茂樹氏は,ティーチングとコーチングの技術を駆使したリーダーシップにより看護師の主体性・自律性を高めることで,看護の質を向上させるモデルを提唱。このほど,こうした考え方と,リーダーシップの習得法をまとめた著書『看護にいかすリーダーシップ――ティーチングとコーチング,場面対応の体験学習(第2版)』(医学書院)が出版されました。そこで本紙では,氏の唱える教育法について,詳しくうかがいました。
現場へ権限移譲⇒看護師の意欲向上⇒質の高い看護実践
――先生は,「目標管理」を行えば看護の質は向上するとお考えですね。
諏訪 「目標管理」とは,ノルマに代わるものとして,経営学者のPeter F. Druckerが提唱したマネジメントの原則であり,次の2点がポイントです。1つは,目標は自分自身で定め,自己管理すること。もう1つは,目標管理は日々の業務に取り入れるべきだということです。
これを看護に当てはめると、看護目標を立てて実践する看護過程そのものが目標管理なのであり、日々の看護過程をしっかりやればよいということになります。目標管理は仕事のやりがいや責任へとつながり,看護師に強い動機付けをもたらします。こうした効果がよりよい看護の提供につながるのです。
ところが今日の看護の現場では,誤った目標管理の例もみられます。目標を実質的に管理しているのは本人ではなく,師長や人事部であったりします。また,日々の看護は指示通り,マニュアル通りになってしまい,研究や資格取得などの二次的目標や年間目標ばかり立てていたり,そのためのファイル作りや委員会活動に追われたりしているのです。よい看護を提供して患者さんに喜んでもらいたいと思って看護師になった人が大半でしょう。それなのに,このままでは看護に専念できないと,不満を持つ人も現れかねません。ぜひ本来の「目標管理」の考え方を活用してほしいのです。
――そのためには,どのようなことが必要なのでしょうか。
諏訪 指示やマニュアルは必要最低限にとどめて,一人ひとりの看護師が主体的に働けるように,できる限り権限移譲することです。
20世紀の大量規格生産システムでは,現場のスタッフは管理者の統制のもと,指示通り,マニュアル通りの単純労働に従事していました。それを可能にしたのが,近代国家の軍隊を起源とする上意下達のピラミッド組織だったのです。
しかし,こうした組織体制も専門家がサービスを提供する職場にはなじみませんでした。スカンジナビア航空を再建したJan Carlsonは,著書『真実の瞬間――SASのサービス戦略はなぜ成功したか』(ダイヤモンド社)で,スタッフへの権限移譲の必要性を訴えています。通常,乗客は1回のフライトにおいて,発券カウンター,搭乗ゲート,機内などで,約5人のスタッフと接触します。ここで乗客が受けたサービスの良し悪しが,次回のフライトでの再搭乗を左右するというのです。つまり,乗客の満足度は,現場のスタッフが乗客と接するわずかな時間,すなわち「真実の瞬間」によって決まるのです。多くの場合,そこに管理者はいません。だからこそ,スタッフが主体的な判断に基づき最善のサービスを提供できるよう,現場に権限移譲する必要があるとCarlsonは述べています。
その後,Karl Albrechtが,権限移譲を確実にする組織として「逆さまのピラミッド」という組織モデルを提唱しました(図)。このモデルでは,管理者は指示を出すのではなく,スタッフのサポートに当たることになります。その具体的な方法としてJohn Whitmoreがコーチングを提唱したのです。一方,現場のスタッフは自身の目標を管理しながら,主体的にサービスを提供します。こうして質の高いサービスが可能になると,利用者満足も向上していく。権限移譲と目標管理とコーチングは,セットで取り組むことによりうまくいくのです。
図 「ピラミッド組織」と「逆さまのピラミッド組織」 |
これらの導入によって構築される「逆さまのピラミッド」は,質の高いサービスを提供する多くの職場に取り入れられており,今後の看護の職場でも求められる組織改革なのです。
成長段階に応じた支援で自立した看護師を育てる
――しかし,いきなり権限移譲されても戸惑う看護師もいると思います。
諏訪 そこで......
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