医学界新聞

連載

2011.03.07

学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第1回
腎機能検査

クレアチニン

eGFR

クレアチニン
クリアランス(Ccr)

高木康(昭和大学教授 医学教育推進室)


 腎機能検査には,日常的に利用される血清クレアチニンと血中尿素窒素(BUN)のほか,糸球体濾過率(GFR)を求めるために測定されるクレアチニンクリアランス(Ccr)やさらに正確なGFRを表すと考えられているイヌリンクリアランス(Cin)などがあります。では,臨床現場ではどのような使い分けが求められているのでしょうか。連載第1回となる今回は,血清クレアチニン,推算GFR値(eGFR),Ccrの違いから腎機能検査におけるこれらの指標の使い分けについて考えていきたいと思います。


それぞれの検査で特異性が異なる

 特異性の点では,尿素窒素(UN)よりクレアチニンのほうが優れています。筋肉中に存在するクレアチニンの前駆物質クレアチンは,その一定量(約2%)が非酵素的に脱水されてクレアチニンとなり,血流中に入ったクレアチニンは腎臓を介して尿中に排泄されます。すなわち,血清クレアチニン濃度は筋肉中に存在するクレアチン濃度と腎からの排泄能だけに左右されるため,腎機能検査としての特異性が高くなります。

 一方,UNは生体中に発生するアンモニアを無毒化するために肝臓で合成され,腎臓を介して尿中へ排泄されますが,アンモニアの生成量は健常人での代謝ばかりでなく蛋白異化の亢進,例えば消化管出血などでも増加します。このように,腎機能以外の影響も受けやすく,特異性はクレアチニンに劣ります。

 近年,血清クレアチニン濃度からGFRを推測するeGFRが算出され,日常診療で利用されています。このeGFRは,日本人413例より日本腎臓学会「日本人のGFR推算式プロジェクト」が日本人向けに作成したもので,次のように求められます。

男性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=194×(血清クレアチニン)-1.094×年齢-0.287
女性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=男性×0.739

 一方,より正確なGFRの推測にはクリアランスを算出する必要があり,Cinが最も正確なGFRの推測検査(実測GFR)です。しかし,イヌリンは生体内にない物質(糖)であり,外部から投与しなければならず,日常的にはこれに代わるものとして生体内に存在するクレアチニンを用いるCcrが広く使用されています。

検査を行うとき

 腎機能検査は,浮腫や高血圧などの腎疾患特有の症状や血尿や蛋白尿などの尿所見から,腎疾患が疑われたときに行うばかりでなく,全身状態の把握のためのスクリーニング検査としても日常的に行われます。特に全身倦怠感,食思不振などの不定愁訴も腎機能低下時の症状で,腎機能低下が発見されることがしばしばあります。

腎機能検査の使い分け

症例1
65歳男性。血尿とむくみを主訴に来院した。2週間前に感冒様症状が出現し,続いて血尿や乏尿があり,身体がむくんだ気がする。意識は清明。身長168 cm,体重56 kg。血圧168/98 mmHg。眼瞼と下腿とに浮腫を認める。尿所見:蛋白2+,糖(-),潜血2+,沈渣に赤血球円柱,顆粒円柱。血液所見:赤血球数342万/μL,Hb10.0 g/dL,白血球数7600/μL,血小板数18万/μL。血液生化学所見:総蛋白6.1 g/dL,アルブミン4.2 g/dL,BUN70 mg/dL,血清クレアチニン5.1 mg/dL,Na135 mEq/L,K5.0 mEq/L。

症例2
59歳女性。健康診断で血清クレアチニンの軽度上昇を指摘され来院した。健康であるが,最近尿の回数が少し減り,体重が3か月で2 kg増加した。身長160 cm,体重58 kg。血圧126/84 mmHg。尿所見:蛋白+,糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球数386万/μL。Hb12.8 g/dL,白血球数6800/μL,血小板数26万/μL。血液生化学所見:総蛋白6.2 g/dL,アルブミン4.4 g/dL,BUN 22 mg/dL,血清クレアチニン1.1 mg/dL,Na140 mEq/L,K4.4 mEq/L。

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