第14回日本病態栄養学会開催
2011.02.28
病態栄養学の限りない前進のために
第14回日本病態栄養学会開催
第14回日本病態栄養学会が1月15-16日,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。中尾俊之会長(東医大)のもと「かぎりない前進そして永遠の夢とあこがれを」というテーマが掲げられた今回は,栄養サポートチーム(NST)加算の保険収載などでいっそうの普及が期待される栄養療法の最新知見を学ぶべく,多様な職種が参集した。
これからの栄養療法と栄養教育
中尾俊之会長 |
中屋豊氏(徳島大)は,内科医の栄養に関する知識について語った。血清アルブミン値は,栄養評価の指標として必ずしも適切ではないという見解が主流となりつつあるが,その知識のない内科医もまだ多いという。こうした現状から氏は,医師が栄養管理を一任できる知識豊富なコメディカルの育成が求められているとし,NSTをコメディカルを育てる場として位置付けることを提案した。
JSPENで教育事業を担当する外科医の谷口正哲氏(大隈病院)は,学会に,発展的な栄養教育と啓蒙活動が求められていると主張。JSPENでは職種・習得レベル別セミナーなどを頻回に実施するほか,複数職種の共通資格である「NST専門療法士」を設け,専門領域別の業務分担ではなく,全業務を全職種で分担できるNSTを目指している。さらにESPEN(欧州臨床栄養・代謝学会)の上級プログラムを導入するなど,高度な栄養教育のニーズにも応えたいと氏は語った。
看護師の川口恵氏(尾鷹総合病院)は,少子高齢化が進む地域でのNST活動を紹介した。NST加算の保険収載により対応症例が増えたが,患者情報の適切な提供とアセスメント,各職種の専門的知識を活用したアドバイスが効率よい回診に必要だと氏は説明。高齢化社会を担うため,急性期・回復期・慢性期を通じ,病院や診療所のみならず,福祉施設なども含めて質の高い栄養管理が継続できる,地域一体型NSTの構築が求められているとした。
続いて薬剤師の東海林徹氏(奥羽大)が口演。JSPENの薬剤師部では,看護師,栄養士の各部会とも協力し,コメディカルの再教育と標準化のためのスキルアップセミナーを開催,臨床スキル向上の機会を設けているという。また,優れた研究の表彰など研究活性化への支援も行っており,氏は,各職種の専門性を生かせる人材育成を図っていきたいと抱負を述べた。
管理栄養士の将来像を語ったのは岩川裕美氏(滋賀医大病院)。氏は,管理栄養士は欧米諸国では入院患者の栄養管理の担い手として活躍しており,日本においても同様の役割が期待されていると報告。患者の栄養アセスメントや経口摂取を促進する食事形態の工夫などスキルを生かした業務を行うとともに,より栄養療法に貢献できるエビデンスを構築したい,と意気込んだ。
総合討論では,栄養療法の将来について,栄養士の役割拡大や,日本の多様な食生活に応じた独自の栄養療法の構築,より臨床に活かせる教育の必要性などのビジョンが示され,両学会が情報共有しつつ栄養療法の可能性を高めていくことが確認された。
適切な栄養管理と治療でより安全な経口摂取を
シンポジウム「摂食・嚥下障害の最新栄養管理」(座長=東医大・西野誠一氏,地域栄養ケアPEACH厚木・江頭文江氏)では,嚥下障害を改善し,より長く,より安全に経口摂取を続けるため,必要な治療と栄養管理が語られた。
内科医の上田章人氏(慶信会記念病院)は,胃ではなく小腸で吸収されるアセトアミノフェンの特徴を利用し,脳卒中後の胃ろう造設患者における胃排出能低下と肺炎発症との関連を考察した。3か月の追跡調査で,肺炎発症群と非発症群間,肺炎関連死亡群と生存群間でアセトアミノフェン血中濃度を比較,いずれも後者が有意に高かったという。ここから氏は胃排出能の低下と肺炎発症・肺炎関連死亡の相関性を示すとともに,胃排出能の評価が肺炎発症予測に有用と推察。さらにクエン酸サプリのガスモチンが,胃排出能改善に有効である可能性を示唆した。
続いてリハビリテーション(以下,リハ)科医2名が登壇。馬渡敏也氏(NTT東日本伊豆病院)は,嚥下障害患者は栄養が摂取しにくい上,誤嚥などで消耗し低栄養に陥りやすいと指摘。筋群が萎縮し障害がさらに悪化する悪循環を防ぐため,栄養補助食品の活用を勧めた。同院での栄養補助食品導入前後各1年間の比較では,経管栄養使用症例数が約3分の1に減少。患者の食事状況を理解している看護師の判断で使用できること,カロリー摂取が容易で嚥下リハにもなること,1個あたりの容量が少なく飲み切る意欲がわくことなどを理由に挙げた。
若林秀隆氏(横市大市民総合医療センター)は,嚥下筋萎縮の原因となるサルコペニアを解説した。サルコペニアは筋肉量・筋力が減少した状態を指し,その原因は,加齢,活動の減少,栄養不足,疾患の4つに分類されるという。氏は,原因をきちんと鑑別した上で,加齢なら筋力トレーニング,活動低下なら不要な安静・禁食の回避など,最適な治療法を選択することが重要と主張。栄養療法とリハを併用し,筋萎縮を改善した後に嚥下機能評価を行えば,経口摂取が可能な程度まで機能向上がみられる場合があると述べた。
管理栄養士の伊藤明美氏(名市大病院)は,同院にて,嚥下咀嚼訓練食18品目の飲み込みやすさの基準を「歯茎でつぶせる食事」から「かまなくてよいゼリー」まで4段階に分類したことを報告した。障害の程度に合わせた選択,段階的なレベルアップが可能になり,退院時の絶食率が低下したという。CRP値から安全に経口摂取できていたことも示唆された一方,訓練食の喫食日数が長いほど体重が減少傾向になるなど課題も明らかになり,今後改善に努めたいと氏は語った。
摂食・嚥下障害の多様な病態に対応するため,多職種が柔軟に連携するチーム医療の必要性を強調したのは耳鼻咽喉科医の津田豪太氏(福井県済生会病院)。氏は同院にて12年前に嚥下チームを始動し,現在ではNSTとも連携。嚥下造影検査・内視鏡検査など急性期の嚥下診断,短期間の集学的な入院治療,さらには外科治療まで,チームで取り組んでいるという。簡単な症例から始めること,短期間で達成できるゴール設定,勉強会や学会への積極的な参加,病院への成果報告などを,チーム医療実施の要点に挙げた。
最後に管理栄養士の佐藤知世氏(東医大病院)が,同院脳神経外科病棟で運用中の摂食機能訓練パスについて報告した。パスでは(1)全身状態の安定,(2)意思疎通が可能,(3)患者本人の経口摂取への意欲,(4)口腔内の清潔,(5)自発的咳嗽が可能,の5項目を設定。全項目を満たし,さらに詳細評価を経た上で,段階的な移行食がリハとともに開始される。パンフレットなどで患者や家族に説明することで,協力も得やすくなったという。氏は,パスの導入が安全な経口摂取の推進とチーム医療の構築につながったと成果を語った。
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