Vital sign (1)血圧(川島篤志)
連載
2010.11.22
小テストで学ぶ “フィジカルアセスメント” for Nurses
【第2回】Vital sign(1)血圧
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。“身体を診る能力=フィジカルアセスメント”を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている“フィジカルアセスメントの小テスト”を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回から,小テストの問題提示と解説に入ります。3回に分けて進める「Vital sign」の小テスト,初回は「血圧」です。まずは問題を見て,答えを考えてみましょう。(1)
“血圧が高くてつらい”といった訴えは,外来や救急だけでなく入院中にも多くみられます。内科・救急医が対応する「高血圧緊急症」の定義は「血圧の高度上昇により,急性の臓器障害が起こっていること」です。一方,急性の臓器障害のない血圧の上昇は「高血圧切迫症」と表現されます(いずれも,多くは180/120 mmHg以上)。つまり臓器障害の有無が重要なのですが,ベッドサイドで判断できる臓器障害とは何でしょうか? 脳血管障害と循環障害に関するものならば察しがつきそうですね。看護師の方々には「高血圧緊急症」の定義を理解し,臓器障害はないか,疼痛・不安など他に血圧が高くなる要因がないか,確認してもらえるとうれしいです。特に集中治療や術後管理では,疼痛・不安から血圧が上がり,それらを解消することで降圧が得られる場合が多いことは,皆さんも実感されていると思います。
なお,高血圧のとき“アダラートカプセル®の舌下投与”を医師に指示されたことのある方もいるかもしれません。しかしこの服用方法には,過度の降圧の危険があります。もしも指示を受けた場合は,日本高血圧学会のガイドラインや添付文書にも記載があることを示しつつ,できれば避けるよう伝えてみてください。
(2)
血圧を含めたVital signは,通常臥位など決まったポジションで測定されることがほとんどです。しかし,移動の際などに患者さんを立たせると血圧が下がりふらつく,もしくは意識消失して転倒するケースに遭遇したことはありませんか? この「起立性低血圧」の原因は,(1)脱水や出血で体内の循環血液量が少ないことか,(2)自律神経障害です。この場合,安静臥位でのVital sign が安定していても,立位や座位では不安定であることに注意して看護を行うことが必要です。
(3)
純粋な自律神経障害には,多系統萎縮症と言われる病態の一つであるシャイ-ドレーガー症候群がありますが非常にまれです。一方,その類縁疾患のパーキンソン病やパーキンソン症候群はよく見かけ,かつ自律神経障害を伴うことが多いです。長期臥床されている患者さんもおり,体位変換にて容易に血圧の変動を来し得るため注意が必要です。
臨床で頻度が高いのは糖尿病性の自律神経障害です。その場合は他の神経症状の有無(自律神経障害なら消化管症状・勃起障害,神経障害なら感覚障害)も能動的に聴取し,症状があれば適切な対処がなされているか確認することも大切です。患者さんが関連に気付いていなかったり,言い出しにくく感じている場合もあります。
(4)
脱水はVital signに加え,舌の下の粘膜や腋窩の乾燥,末梢の冷感(心臓からの拍出低下の間接的な所見)などから総合的に判断していきます。なお“頸静脈の怒張の程度を参考にする”と説くテキストもありますが,それを正確に判断できる看護師が各勤務帯に複数名いることは,現実的には考えにくいです。実際にこの所見を重要視している医師も非常に限られていると推察されます。
体重測定は循環血液量管理上,非侵襲的で有用な情報です。ただ,ADL が低下していたり,点滴が複数本ある場合などは体重測定が患者さんだけでなく看護師にとっても負担になります。測定の際さまざまな工夫をして負担を減らすのも一つの方法ですが,毎日の体重測定を指示している医師に,体重が診療に本当に必要な情報か確認してみるのも一案かもしれません。
(5)
脈圧とは収縮期血圧と拡張期血圧の差のことを指し,1回心拍出量を反映しています。脈圧×脈拍で心拍出量になるため,一般に脈圧が狭い場合(=低拍出状態)では,頻脈となって心拍出量を保とうとします。種々の理由での血管内脱水,大動脈弁狭窄症など心臓の問題,肺高血圧を来す状態など低拍出状態を説明できる病態の有無をチェックするとともに,徐脈性不整脈など,本来は頻脈になるはずがなっていないときは異常,ととらえられれば立派だと思います。
脈圧が広い場合は逆に,1回拍出量が多い状態(=Hyperdynamic state)の可能性を考えます。この原因には発熱,貧血,妊娠に加え,甲状腺機能亢進症などがあります。そうした病態に合致せず,熱計表を使用した複数人の記録などにより再現性をもって脈圧の広さが認められる場合は,大動脈弁閉鎖不全症の可能性があります。個人的には,大動脈弁閉鎖不全症を見つけるきっかけは,聴診所見よりも病歴や脈圧で疑うことだと感じています。
(6)
こうした問いに対し,医療従事者としてある程度意見を持っていてほしいというメッセージです。
実際には,高血圧症の治療の基本は塩分制限です。ただ塩分制限は半永久的な継続が必要ですので,それが難しく,かつ高血圧症の基準に合致する場合は,将来的な合併症の“予防”のため降圧薬での加療を要するという認識が必要です。そのあとは,個人の健康意識の問題になります。高血圧症に気付いていない人,気付いているが治療していない人,治療しているが適切な治療域に入っていない人が,それぞれ無症状のまま相当数いることに留意する必要があります。
(7)
(6)と同様,高血圧症にあまり注意がいかない診療科の看護師さんに気付いてもらうための質問です。高血圧症の患者さんなのに,入院決定時に「通常食(塩分制限がかかっていない食事)」が設定されていることがあります。また,梅干しや醤油などを持ち込み,塩分制限食に塩分を付加している光景がベッドサイドで見受けられることもあります。看護師からの説明では塩分制限に理解が得られない場合は,主治医や栄養士などから説明してもらうと効果的かもしれません。
(8)
血圧が低く,臓器障害が起こっていれば“Shock vital”の可能性が高いです。一般に脈は頻脈となり,呼吸数は増えます。これは低酸素血症,もしくは代謝性アシドーシスの代償機転です。場合によっては意識レベル低下(=脳血流低下という臓器障害)を来している可能性がありますが,逆に血圧が低くても会話が可能(=意識レベルの低下なし)であれば,脳では臓器障害を来していないと考えられます。上級編としては,四肢末梢の冷感の有無,末梢循環障害のサインのひとつである網状皮斑などのチェックが挙げられます。
ショックの分類はさまざまですが,とにかく初期治療は「細胞外液の急速補充」がほとんどです。十分な輸液ルートがあるか,維持輸液ではなく外液の点滴の準備ができるか,などを予想して動くとスムーズです。「全開」にしている点滴を「ゆっくり絞る」こともしないでくださいね。
*
解説文にはあえてあいまいさを残しています。成書・テキストを読んだり,各施設内で検討するなどして“共通認識”として導かれる答えを最終的に創ることが病院の文化を創ることだと思いますので,頑張ってください。
なお,小テストの原本を希望される方は,fkango@fukuchiyama-hosp.jpにご連絡ください。ご意見・ご感想もぜひお寄せください。
(つづく)
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