iのある臨床研修の試み(坂井哲博)
寄稿
2010.11.08
【寄稿】
iのある臨床研修の試み
iPadを研修医教育に導入して
坂井哲博(むつ総合病院副院長)
「生活が陶冶する」。
これは,愛に基づく教育を実践して日本の教育界にも多大な影響を与えたペスタロッチ(Johann H. Pestalozzi)の言葉である。
2007年4月,私はむつ総合病院に赴任して衝撃を受けた。研修医がまさに“生活”の中で,医師として驚くばかりの成長を遂げている。広大な下北半島にある唯一の基幹病院には,1日約1300人の外来患者,400人の入院患者が集まる。救急外来患者数は1日約40人であり,24時間体制ですべての患者を受け入れている。
周辺住民9万人の生命はむつ総合病院が守っているのだ。その思いが職員一人ひとりの行動から伝わってくる。慢性的医師不足にあえいでいるとは思えないのは,病院全体に「医師を育てよう」との強い思いと,それに応えようとする研修医の真摯な姿があるためだろう。「数」ではなく「質」こそが重要だ,という本来の姿に立ち返らざるを得ない環境が,強く影響している。
敷地内にある研修医宿舎,指導医と日常的に顔を合わせることができる大医局制,三食とも(デザートに至るまで)外注なく調理してくれる院内栄養部,下北半島の新鮮な食材を豊かに料理してくれるお店も,ほとんどタクシー基本料金内にある。日本の大多数の若者にとっては遊ぶところが少ない退屈な田舎町だが,研修医にとっては,多彩で豊富な症例を経験し,「患者のそばにいる」ことを生活しながら実践できる,願ってもない環境なのである。
こうした環境のもと,当院ではiPadを研修医教育に導入した。以下,“i”をキーワードにiPad導入の経過や現状を述べる。
ice breaker
当院では,2010年4月の米国での発売と同時にiPadの導入を模索した。大掛かりなシステムの構築は手間もかかるため,まずは研修医の教育に活かすことにした。
写真1 むつ総合病院の院内wiki |
写真2 iPadを用いた研修風景 |
immediate
2010年度の1年目研修医8人全員に1台ずつiPadを配布し,研修プログラム充実の一助とした。導入の目的は「“後で調べよう”はなくそう」のひと言に集約される。単純な調べものは即座にその場で解決して(写真...
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