MRの「本音」から見えてくるものとは?(宮崎仁)
連載
2010.08.09
医師と製薬会社がクリアな関係を築き,
患者により大きな利益をもたらすためのヒントを,
短期集中連載でお届けします。
ともに考える
医師と製薬会社の適切な関係
【第5回(最終回)】MRの「本音」から見えてくるものとは?
宮崎 仁(宮崎医院・院長)
(前回よりつづく)
MRのナラティブを聴いてみた
内科の診療所である当院では,訪問を希望される製薬会社のMR(Medical Representative,医療情報担当者)諸氏に対して,プロフェッショナリズム研究の参考にするという目的を説明したうえで,「医師と製薬会社との適切な関係」についての私見(会社の公式見解ではなく,個人的な感想や意見)を自由に記載してもらうレポートの提出をお願いしています。レポートを書くにあたっては,『白衣のポケットの中――医師のプロフェッショナリズムを考える』(宮崎仁,尾藤誠司,大生定義編.医学書院.2009)に収載されている,「製薬会社MRが弁当,診療ガイドライン本をくれた」(野村英樹,錦織宏,宮田靖志)という,利益相反に関する議論が書かれた文章をあらかじめ読んでもらいます。
そのような方法で集めたMRたちの「ナラティブ(語り/物語)」に耳を傾けてみると,医師と製薬会社の関係をめぐって,彼らが現場で感じているさまざまな悩みや困惑に触れることができます。そこで,連載最終回である本稿では,MRの本音を探りながら,もやもやした現実の様相について考えてみたいと思います。
理念と実態のギャップに困惑する
まず,多くのMRたちは,「日々の仕事の内容や利益相反の問題について,これまで真剣に考えたことはなかった」と述懐しています。さらに,医師たちも製薬会社との関係について悩んでいるという事実を知り,「非常に驚いた」という感想も多く寄せられています。
経験年数が浅く,若い世代のMRほど,理念と実態のギャップに悩んでいることがわかりました。MRの養成過程では「単なる営業職ではなく,医薬品の適正使用に関する情報の提供・収集・伝達を行う専門家になりなさい」と教育されたのに,いざ現場に出てみると,厳しい営業ノルマを課せられ,それを達成しなければ,会社からは評価されない現実が待っていたわけです。また,豪華な弁当付きの製品説明会,ボールペン,ティシュペーパーなどの販促品の過剰な配布など,この業界特有の商習慣についても,「何か変だ」と感じているMRが少なからず存在しています。
ある新人女性MRは,「医師が弁当を食べている前で,自社製品の説明をするという状況には,いまだに慣れることはできない」という困惑を述べています。このような戸惑いの感情は,新人だけでなく,異業種から転職してきたMRたちからも聞かれました。
それに対して,かつて「プロパー」と呼ばれ,プロモーションコードなんて全く存在しなかった時代から活動してきたベテランMRたちは,「医師との関係は,昔と比べると著しく適正化された」と考えています。その一方で,医師はその変化に応じて行動を変えていったのに対して,製薬業界は過去の慣行を捨てただけで,新しいビジネスのスタイルが確立できていないために,何をしたらよいかわからずに迷走しているという,興味深い意見もありました。
MR不要論をめぐって
インターネットや電子メールなど,情報技術の進歩に伴って,情報リテラシーの高い医師であれば,欧米の一流誌に掲載される重要な医学論文や,医薬品に関する最新のエビデンスなどを,比較的容易に収集できるようになりました。それに伴って,MRから得られる情報の鮮度や有用性は低下していると評価する医師も増えてい...
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