医学界新聞

連載

2010.07.26

医師と製薬会社がクリアな関係を築き,
患者により大きな利益をもたらすためのヒントを,
短期集中連載でお届けします。

ともに考える
医師と製薬会社の適切な関係

【第4回】医学教育の現場で生じる利益相反に,どう対処しますか?

向原 圭(国立病院機構長崎医療センター総合診療科・医長)


前回よりつづく

医学教育の使命と製薬会社の使命とは

 医学教育の使命の1つに,科学的根拠に基づいた臨床判断をし,個々の患者にとって最善の医療が提供できる医師を育てることがあります。そのためには,科学的妥当性があり,臨床上有用な医学情報へアクセスできるスキルや,医学情報の科学的妥当性を評価し,結果を解釈し,個々の患者への適用性を考察できるスキルを卒前・卒後・生涯教育で教える,あるいは学ぶことが大変重要となります。

 一方,製薬会社の使命の1つは,マーケティング戦略に基づいて医師に医学情報を提供し,商品の売り上げを伸ばし,企業の利益を高めることであり,必ずしも個々の患者にとって最善の医療を提供することではありません。したがって,医学部・研修病院といった医学教育の現場と製薬会社とのかかわりが非常に深い現在,そこには半ば必然的に利益相反が存在すると考えられます。

さまざまな場面で利益相反にどう対処するか

 医学教育における利益相反についてどのように回避・対処すればよいのか,という議論はわが国ではあまりなされていないのが現状です。そこで今回は,2008年に出版された米国医科大学協会(AAMC:Association of American Medical Colleges)の報告“Industry Funding of Medical Education”(AAMCのHPで閲覧可能),そして2009年に出版された米国科学アカデミー医学研究所(IOM:Institute of Medicine)の報告“Conflict of Interest in Medical Research, Education, and Practice”(,National Academies Press,2009)を参考に,利益相反の回避,あるいは利益相反への適切な対処について考えていきたいと思います。

 医学教育における利益相反についてのIOM勧告(概要)

勧告5.1
すべての教員・学生・レジデント・フェロー,そしてすべての関連研修機関・大学病院・教育病院は,以下のことについて禁止する方針を採用し,実施すべきである。
・ 製薬・医療機器・生物技術会社からの物質的価値のある物品の授受(特別な状況を除く)
・ 企業に内容をコントロールされているか,著者として正式に認められていない人物によってかなりの部分が書かれた教育的発表や科学的出版物
・ 公正な市場価格での文書契約に基づいていない,専門家としてのコンサルティング契約
・ 企業の販売促進担当者によるアクセス(教員側からの招待や,施設の方針に一致した場合,あるいはトレーニング・患者安全・医療機器の評価のためといった特別な状況を除く)
・ 薬の試供品の使用(金銭的に困窮した患者への使用といった特別な状況を除く)

勧告5.2
大学病院・教育病院は,利益相反の回避,または利益相反に適切に対処するため,販売促進担当者との関係について教員・学生・レジデントを教育するべきである。認定機構はこれらについて,正式な教育的基準を作るべきである。

勧告5.3
企業の影響を受けない,質の高い生涯教育への資金供給システムが新たに作られるべきである。

●製薬会社からのギフト

写真 研修医のまわりにある,製薬会社からのギフトの一部。ボールペン,クリップといった文房具に始まり,マウスやUSBメモ

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