医学界新聞

2010.07.19

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《シリーズ ケアをひらく》
リハビリの夜

熊谷 晋一郎 著

《評 者》甲野 善紀(武術研究者)

身体と向き合うことの切実さ

 この本の書評を書いてほしいと依頼を受け,本書を読み始めたものの,著者である熊谷晋一郎氏の身体のありようなど,とてもわれわれに想像のつくものではないと思い,一度は断ろうかと考えた。

 それでも,せっかくのご依頼でもあるので,本書を少し拾い読みしてみたものの,やはり想像していた通り,人間が生きるということに本質的に備わっている苛烈さ,そして目もくらむような複雑さが,脳性まひという不自由な身体を持たれていることによって,より凄まじい形であぶり出されてきており,とてもじっくりと通読することさえ苦しくなってくるほどの困難さを感じた。しかし,同時にノンフィクションのみが持つ迫力に打たれて,「もう少し,もう少し」と読み進めていくうちに,人間というのは,さまざまな過酷な状況にさらされても,自分が生き続けようという意欲を持つために,当事者以外は想像もつかないような工夫をするものだということをあらためて教えられている気がして,ついついページを繰る手が止まらなくなっていた。

 そして,「もし健常者の常識を押しつけるようなことをやめて,例えば温水プールを基盤とした水辺の町のような環境をつくり,それぞれにかなった暮らし方,過ごし方をしてもらい,そこから気付いた道具の工夫や思想,文学などを社会に還元してもらったら,現代の常識として固定化している人間の幸福感などが根底から変わってくるような,新しい価値観が生まれるのではないか」などという夢想も広がった。

 ここまで書いて,私の文章が「ある本についての印象を読者に伝える」という書評の体をとても成していないのではないかという思いにとらわれた。本書『リハビリの夜』の持つ極めて詳細な客観的観察に基づく記述が冷静で詳細な分,いっそうリアルでナマナマしい迫真力を持っており,読んでいるとそれに打ちのめされてしまって上手くこの本の感想を伝えられない自分を自覚せざるを得ないのである。そのため,中途半端であるが,このような文章での,本書の紹介をご容赦いただきたい。

 個人的には,私自身の技がかつての武術の名人達人に比べてはるかにレベルが低いということを常日ごろから口にしていながら,その事実に対する認識が甘かったことを,あらためて痛感させられたように思う。健常者の身体が基準とされる世界において,脳性まひの身体と向き合い続ける熊谷氏の生きざまを思うと,「必要は発明の母」というが,すべての学びの成否は「いかにしてそれを学ぶことに切実さを持たせるか」ということにあるのだということを深く思い知らされた気がしている。

 より幅広い分野の方々に本書を読んでいただき,どのように思われたか,感想を聞かせていただきたいと思う。

A5・頁264 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01004-7


ナースのための臨床試験入門

新美 三由紀,青谷 恵利子,小原 泉,齋藤 裕子 著

《評 者》大橋 靖雄(東大教授・生物統計学)

看護師,さらには広く医療関係者に読んでほしい本

 本書の帯には「患者と家族を支える看護師に読んでもらいたい」との記載がある。4人の著者はいずれも,相当な看護実務経験を持っておられ,その後は「黎明期」のわが国の臨床試験の現場で奮闘し,さらに臨床試験コーディネーター(CRC)の教育を引っ張ってきた方々である。その思いが書かせた文章であろう。

 筆者と4人の著者の方々には「臨床試験」を通じた深いかかわりがあり,このような本が誕生し,そして書評を書かせていただくことは,唐突かつ奇妙な表現であろうが,良くできた「孫」を見る思いである。

 新美氏は看護短大からの東京大学健康科学・看護学科第1期編入生かつ筆者の教室の卒論生であり,面接時に臨床試験のGCP(Good Clinical Practice)の質問をしたときからこの世界に入ることが運命付けられたようである。修士の学生であった齋藤氏には厚労省のCRC育成パイロット事業に参加することを勧め,その後氏は日本のCRCの草分けの1人となられた。米国で臨床研究マネジメント修士課程に在籍されていた青谷氏には,西...

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